どうして
緊急の会議の結果、冬祭りは予定通り行われることに決まりました。
まあ、一部の騎士候補生を除いて学生であるわたくしたちには何もできませんし、いたずらに不安を煽る訳にもまいりません。妥当と言えば妥当な判断なのでしょう。
ただし、お兄様とランスロット先輩、それに今回の討伐に有利な魂の力を持つ一握りの方々は、すぐにでもビベカ領に駆けつけることとなりました。
それだけではありません。
フェアリントン辺境伯をはじめ、近隣の貴族が即刻騎士団を派遣することが決まり、魔獣を迎え撃つ準備は万全ともいえる体制がとられつつあったのです。
「それもこれも……お前やマリナ嬢、それにリディア嬢が神託を受け取ってくれたからこそだ。本当によくやったね、アリア」
夜遅くなってから帰宅したお兄様は、そう言ってわたくしの髪を撫でてくださいました。
お父様も、これまでの冷遇はどこへやら、お兄様を心配するやら激励するやら。
手のひら返しがすごいですわ!と思わなくもありませんが……それだけ、ずっと褒めたいのを我慢していたということなのでしょう。
もっとも、だからと言って
「よいか、ジーク!ここで功績を挙げれば、その……なんだ、殿下とのことも良き方向へ向かうやもしれぬ!だから……な!?」
なんて激励の仕方はどうかと思いますけど!?
……と、まあ……概ね魔獣討伐の準備は順調に整いつつあったのですが。
「………いい加減、機嫌を直してくれないか?」
「………うるさい」
お兄様の居間のソファに寝そべり、不貞腐れる困ったちゃんがおひとり………。
「ジークを送る」という名目で(それ必要!?お兄様、ちゃんと我が家の馬車で登城しましたのよ!?)くっついて帰ってきた殿下は、ここへ入った途端ああやってソファと一体化しているのです。
と、いいますのも。
「だって!おかしいではないか!神託を聞いたのは私も一緒だったのに!ジークは出撃するのに!!何故私は留守番なんだ!?」
「いや、私に言われても……」
がばっと顔を上げ騒ぐ殿下に、困り果てるお兄様。
そうです。この駄々っ子は、会議の結果討伐の陣頭指揮を執るのがオレイアス殿下に決まったことに拗ねまくっているのです。
「しかたないだろう?オレイアス殿下はよく北の離宮に通っておられるだけあってガルシア砂漠についての知識も土地勘もあるし。ならばデミには私たちの不在を補って、冬祭りを無事に終えてほしいと思っているよ?きみは生徒会長なんだし」
「だが!」
「デーミ?」
なおも反論しようとする殿下を、お兄様は優しく押しとどめて。
「大丈夫、私なら心配はいらないさ。テンペスタを貸していただけるうえに、手練れの騎士団が支援してくれる。おまけに、苛立ちが極限突破してるランスまでいるんだ。絶対、無事に帰ってくるよ」
そうして、見せられる聖母もかくやという、慈愛に満ちた微笑み。
ああ……!なんというお優しさ!麗しさ!!最高ですわ、お兄様!!殿下なんかに向けてあげるのがもったいないですわ!!
「………なんだ、それ」
無表情の下で身悶えするわたくし同様、拗ね拗ねの殿下も胸を撃ち抜かれたのでしょう。ふん、とそっぽを向きながらの悪態は、ずいぶんと力を失っておりました。
「お前のランスに対する信頼がムカつく」
「だって、奴はほら。今年こそは、って気合が入ってたぶん、冬祭りに参加できなくて相当イライラしてたから」
「俺だって楽しみにしてたんだぞ?」
「ふふ、私もだよ。冬祭りでだったら、余興として1曲くらいきみと踊れないかなぁと思ってたんだけどね?」
ラストダンスは無理だけど、とお兄様は目を伏せます。
……そうですわね。冬祭りのラストダンスは婚約者、またはそれに準ずるかたと踊るもの。いくら愛し合っていても、表向きわたくしたちの婚約が継続中の今、お兄様と殿下が踊るのは……ああ、代われるものなら代わって差し上げたい……!
………なんて、悲痛な想いに唇を噛むわたくしでしたが。
「……だったら、お前が凱旋した暁には、祝勝会の後、こっそり本当のラストダンスを踊ろう。……誰にも邪魔されることなく……二人だけで……」
「……ふふ、だったら……一刻も早く魔獣を討伐してきみのところへ帰らなきゃね……」
いつの間にかお二人は指を絡めあい、熱く見つめあって甘い囁きを交わしておられます!
ちょっと!あんまりじゃありませんこと!?お二人とも!!さては、わたくしの存在、忘れていらっしゃいますわね!?しかも、お兄様まで!!
「んんっ!」
慎みも遠慮もない特大の咳払いに、はっとしたお兄様が耳まで真っ赤になるのを横目に、わたくしは立ち上がりました。
「アッ……アリッ……」
「やってられませんので失礼させていただきますわ。どうぞ、お二人でごゆっくり」
もう、知りませんわ!笑ってごまかそうとする殿下も、大慌てでアリアリ言ってるお兄様も!
最後にわざとらしいくらい丁寧に淑女の礼をすると、わたくしはその部屋を後にしたのです。
そうして。
翌朝、ちゃっかり朝食の席についていた殿下の笑顔に、わたくしはフォークを握りしめるのでした。ほんとに、どうしてくれよう、この男。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………はぁ……」
そののち。
気を取り直していつものように登校したわたくしでしたが、朝からずしーんと肩にのしかかる疲労感をどうすることもできませんでした。
「どうした?アリア嬢。朝から暗いぞ?」
昨夜の駄々はどこへやら、にこにこ上機嫌の殿下が隣で訝し気な顔をします。
まったく……どなたのせいで疲れてると思っていらっしゃるのかしら。
あなたのせいですのよ?あ・な・た・の!!
そう怒鳴りつけてさしあげたいのはやまやまですが、こんなところで惚気を始められてはたまったものではございません。
こっそり拳を握って我慢しながら、わたくしは一心に生徒会室を目指したのでした。
「おはようごございます!デミトリオ殿下、アリアドネ様!」
「おはようございます、リディア様、マリナ様!」
そうして、ようやく生徒会室に着いて。
扉を開けた途端のお二人の挨拶に、わたくしはほっと息をつきました。
「珍しいですね、今日は一緒にご登校ですか?」
「……ええ、不本意ながら。殿下ったら、昨日お兄様のところへ押しかけてきましたのよ!?」
「ファッ!?」
「……討伐前に夜這いとは感心しませんね、殿下」
「誰が夜這いだ!」
冷静なマリナ様のご意見を、殿下は赤くなって否定します。
「わっ……私は討伐の作戦のことでいろいろとだな!?だだだ第一、私は客間に泊ったぞ!?うん!ちゃんと!」
「……いちゃいちゃは?」
「………………ちょっとだけ………」
腕組みしたマリナ様の圧に負けて、殿下は明後日のほうへ目を泳がせました。
実は昨日、登城する馬車の中で殿下は
・お兄様との距離が近すぎる件
・わたくしに対して配慮が足りない件
・いろいろと脇が甘い件
この3点について女性陣から相当お説教されたとか。そのせいでしょうか。すっかり殿下はマリナ様に頭が上がらなくなっているようなのでした。
とはいえ、わたくしたちしかいないにしても、平民であるマリナ様が殿下を叱る姿はあまり人目に晒していいものではありません。身分の差を超えて殿下に意見できる人間というのは得難いものですが、今のマリナ様の立場はただの特待生でしかないのですから。
「マリナ様、それで巫女様のほうはどうなりましたの?」
切りのいいところで助け舟を出すと、マリナ様はぱっとこちらに向き直りました。。
「はい、とりあえずドロレス様は寮へ戻るということになりました」
「従者という役目にありながら、巫女様のお傍を離れ、あやうく神託を逃すところだったからな。巫女様をランバウム家にという話を出すまでもなかったよ」
リディア様によると、殿下たちから魔獣襲撃の神託を聞いた陛下は、すぐさまモンテナ伯とドロレス様を王宮に召し上げたそうなのです。
そこで、お二人はドロレス様がお役目を怠ったこと、居合わせたわたくしたち3人が代わりに神託を受け取り事なきを得たこと、巫女様のご意向を蔑ろにしたことについて、厳しく叱責されたとか。
「今回のことで、巫女様の補助ができるのはドロレス様だけじゃないってことが判りましたからね。このようなことが続くようであればお役目を下ろすことも考えるって言われて青くなってましたよ」
「私達に代わりができたのはたまたまだって必死になってたけどな」
「それでも夜には寮へ戻ってましたよ。かなり不満そうでしたけど」
「そう……」
それを聞いて、わたくしはほっとすると同時に少しだけ不安でもありました。
裕福な、伯爵家での生活を望んでいたドロレス様。
それが無理に寮へ戻されて……おとなしくそれを受け入れられるのかしら。巫女様に当たったりしなければいいのだけど……。
「だが、これで君たち3人がついていれば神託は受けられると判ったわけだ。考えようによっては、巫女殿が引け目に感じていた、数日以上傍を離れられないというのが解消されるんじゃないか?」
「そうですね、それは確かに!」
「たまにはいいこと言いますね、殿下!」
「おい!たまには、ってなんだ!」
わいわいと盛り上がるみなさまの声を聞きながら、わたくしは漠然とした不安を拭い去ることができなかったのです。
やがて、いつものようにほかの生徒会のメンバーが登校してきて。
間近に迫った魔獣討伐と、それに参加する生徒の穴埋め、スケジュールの見直し………そういった打ち合わせを経て授業が始まり……3時間目が終わるころになっても、わたくしの気分は晴れませんでした。
大々的に発表したわけではありませんが、魔獣討伐の―――そしてお兄様の出陣の噂はもう全校に広まっているのでしょう。
そこかしこでひそひそと噂話をする方々の目がわたくしを追っているようで、何とも言えない居心地の悪さを醸し出しているのも一因だったのかもしれません。
そんな中、4時間目の授業が自習になったのを受けて、わたくしはそっと教室を抜け出しました。
何故か……無性にひとりになりたかった。ひとり、静かな場所で落ち着いて考え事がしたかったのです。
となれば、わたくしの足が向くのは図書館の、あの奥まった一角で。
しん、と静まり返った図書館で、本のにおいに包まれて、わたくしはようやくほっと息をつきました。
………わたくしは……何をこんなに不安に思っているのでしょう……巫女様の処遇?ドロレス様の動向?それとも……討伐に向かうお兄様の心配……?
そのどれもが該当するようで……でもそれだけではないようで……閉じた目の奥で、何かがちらちらと揺れ動きます。
揺れる………淡い水色……眩しいくらいの白い雪。銀に縁どられた白い花びら。きらきら光る、粉雪のドーム。
あれは……なんだったのかしら……雪嵐?それとも……ああ、氷雪を操るというヒューレイ辺境伯なら……ランスロット様なら……
「…ラン……ス……さま……」
「なんだ?」
それはもう、唐突に。
意図せず漏れた呟きに、至近距離から返事をされて、わたくしはくわっと目を見開きました。
「!?」
慌てて横を見れば、椅子の隣にしゃがみ込んだランスロット様が不思議そうにわたくしを覗き込んでいるではありませんか!!
「なっ………ななっ……なっ……」
「お、おう!?」
いきなり目を見開いて飛び起きたわたくしに驚いたのでしょう、ランスロット様ものけぞっておられますが、わたくしの驚きはその比ではございません!もう、もう!心臓飛び出るかと思いましたのよ!?だいたい、なんであなたがここにいらっしゃいますの!?あなた、討伐隊のメンバーでしたわよね!?
「なっ………んでここにいらっしゃるの!?とっくに出立なさったはずじゃあ?」
「おう、だがその前にちょっと渡すモンがあって」
それでもどうにか息を整えてそう聞くと、ランスロット様は懐から青い絹の小袋を取り出しました。
「これを、預かっててほしい」
渡されたその小袋の大きさは、ちょうど手に乗るくらいでしょうか。袋には銀糸でヒューレイ家の紋章が刺繍され、触ってみると中には四角い……小箱のようなものが入っているのがわかります。
「……わたくしが……ですの?」
「ああ。お前に持っててもらいたい」
当然のように言われた言葉に、どきりと胸が高鳴ったのは何故でしょう……?
「……承知しましたわ。たいせつにお預かりいたします」
「頼む。生還したら受け取りに来る」
動揺を押し隠すように、わざとそっけなく答えたわたくしは、ランスロット様の答えにぞっと肝が冷える思いでした。
ランスロット様は、剣術大会3連覇を誇る、学園一の剣の使い手です。
だから、たとえどんなに強大な群れでも、魔獣ごときに後れを取るようなかたではないと―――ランスロット様がいれば大丈夫だと、お兄様も、殿下も、そしてわたくしも、無意識に思い込んでいたのです。
戦いに絶対などないのだ、ということも忘れて。
「……じつは学園最後の冬祭りを楽しみにしてたんだがな……」
返す言葉を見つけられず唇を震わせるしかないわたくしを見かねたのか、冗談ぽくそう言ってランスロット様はわたくしの手を取りました。
「リキエシタだ、姫君。無事帰還したら、楽しい冬祭りに一生懸命仕事してた、哀れな騎士と一曲踊ってくれないか?」
「………怪我人となんて踊れませんわ」
じっと見つめる緑の瞳が笑いを含んでるようで、なんだか子ども扱いされているみたいで、悔しくて。
本当は、無事に帰ってきてくださいと言いたいのに言えなくて、そっぽを向くわたくしにランスロット様は気を悪くした様子もなく笑いかけます。
「怪我なんかしねえから」
「本当かしら」
「本当、本当。土産も持参するから」
「ちょっと!魔獣の牙とかいりませんわよ!?」
「あ、バレた?」
くっくっと肩を震わせ、屈託のない笑顔を見せるランスロット様を見ていると、不安のしこりが少しずつ解けて溶けていくようでした。
「じゃあ、角なら」
「いりません!皮も、爪もお断りしますわ!」
どこまで本気かわからない、お土産のラインナップを一通り拒絶して、わたくしはこほん、と居住まいを正しました。
「判りましたわ。では、無事にお帰りになった暁には、一曲踊ってさしあげます。……ただし!怪我無く!五体満足でお帰りになった場合、ですわよ!?」
ああ………どうしてまた、こんなに可愛くない言い方ばっかり。ただ、ご武運をと願いたいだけなのに、何故うまく言えないのでしょう。
でも、ランスロット様はそんなわたくしのとてもそうとは思えないような激励をちゃんと汲み取ってくださいました。
「へーへー。じゃあちょっくら行ってくるわ」
ぽん、と気安くわたくしの頭に置いた手を、ひらりと振っていつものように飄々と去っていく背中を、ただ見送ることしかできなくて。
「どうか………ご武運を……」
わたくしは、自分にも聞こえないような声でそう祈るしかありませんでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼休み。
食欲なんてかけらもありませんでしたが、昼を抜いたらマリナ様たちに心配をかけてしまいます。仕方なく飲み物とサラダだけをトレイに載せ、わたくしたちはいつものように2年生のテーブルにつきました。
「………おい、あれ……」
ぼんやりとサラダをつついてると、隣に座ったリディア様がつん、とわたしくしの肘をつつきます。
「……え?」
促されるままそちらへ目をやり……わたくしは思わず目を見開きました。
「まあ!では巫女姫の従者、ドロレス様がベアトリス様の妹君に?」
「ええ、そうなんですの。寄る辺ない境遇と、巫女様への献身に、あたくし、すっかり心を打たれてしまって。お父様にお願いしましたの。ドリーちゃんを我が家で引き取れないか……って!」
「素晴らしいわ!それでモンテナ伯爵様がドロレス様を養女になさったのね!」
「さすがベアトリス様!誰にでもできることじゃございませんわぁ!」
「あらぁ、とんでもありませんわ。我が家は巫女様のお世話を任されているのですもの、これくらい当然ですわぁ」
少し離れた3年生のテーブルで、得意満面のベアトリス様が義妹となったドロレス様をご学友に紹介していたのです。
「では、ドロレス様も巫女様もベアトリス様のお屋敷に?」
「いーえぇ、それが……いろいろと横槍が入ってしまって……」
頬に片手を当て、ため息交じりにベアトリス様はちらりとこちらを見やります。
「お二人は寮生活のままですの。あたくし、妹との生活をとても楽しみにしておりましたのに……」
「うっわ……どの口が言うかね……」
ここまで聞こえる甲高い猫なで声に、ぼそりとマリナ様が毒を吐きました。
「巫女様の話じゃ、同居には難色示してたんじゃなかったか?」
「『お優しいあたくし』に酔ってるだけじゃないですか?寮生活になったのだって、ドロレス様がお役目しくじったせいなのに」
額を突き合わせてひそひそ話をするマリナ様とリディア様。その向こう側では、ベアトリス様がいよいよ声高に独壇場を繰り広げます。
「まあ!そんな!せっかく姉妹になったのに離れ離れですの?」
「しかたありませんわ……あたくしとしても、可愛い妹をあんな狭っ苦しくてみすぼらしい寮なんかにいれておきたくはないんですけど……どこぞの氷のような心を持つおかたが、家名をかさに着てあたくしたちの邪魔をしようと……」
「まっ!!それって……」
「あのかたとしては、ドリーちゃんがあたくしという後ろ盾を得て貴族になるのが我慢ならないのでしょうねぇ……だってほら、ドリーちゃんは……」
「まあ……ではあの噂は……」
ざわざわざわ。
……さすがに多少は声を潜めたようですけど。しっかり聞こえてましてよ。第一、非難めいた視線をひしひしと感じます。
さすがにこれ以上は……とちらりとそちらに目をやると、3年のご令嬢が数人、さっと目をそらしました。ベアトリス様もわたくしの視線を受け止めるのはお嫌のようで、慌てたように目をそらします。
「で……でも、大丈夫ですわぁ!わたくしたち、とぉっても仲良しさんなんですもの!ねっ、ドリーちゃん!」
「はい、お義姉さま」
そして、対決する度胸もないベアトリス様とは違い、挑戦的にわたくしを見て鼻で笑うドロレス様………。
「なんだ、あの態度!アリア嬢、一発どついてきていいか?」
「だめですよ、リディア様!ああやってこっちを苛立たせるのが手なんですから。それでこっちが反応したら、また何か悪い噂を流されるに決まってます」
「だが!!」
「そうね、マリナ様の言う通りですわ。あんな茶番に付き合ってさしあげる必要はございません」
ご自分のことのように憤るリディア様をマリナ様と二人で宥めて。
―――あら?
3年生のテーブルを見渡して、わたくしはふと首をかしげました。
いつもならこのくらいの時間帯に昼食を取っているはずの、ハンナ様のお姿がどこにも見当たらないのです。
「……珍しい……お休みかしら……」
ビベカ領が魔物の襲撃を受けるとしても、討伐には関係ないハンナ様は普段通りの生活を、と伺っていたので、てっきり登校なさるものだと思っていたのですが……。
「いや、やっぱり許せん!寮に残ることになった経緯だけでも詳らかにすべきだ!」
「だーかーらー!それも極秘扱いになったじゃないですか!……ああもう、アリアドネ様!助けて!」
「あ……あらあら」
不審に思いつつも、鼻息荒いリディア様を止めるほうに気を取られ、わたくしは、その疑問を見逃してしまったのでした………。
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