罪悪感
「えっと、どうしたんだ里奈?」
突然一条さんに謝りだした里奈に、俺と一条さんはちょっと驚いていた。
「あの里奈ちゃん、そうじゃないというのは・・・?」
一条さんが少しだけ遠慮がちに聞いている。俺も何が「そうじゃない」のかは気になる所だ。
これがもし、一条さんが里奈と一緒に遊びたいって言った事に対し「私は違うもん!」とかいう意味だったら目も当てられねえ。
なんかさ、電車の感じだと気を遣わせたことについて悪いと思ってるのかな~とか考えてたんだけど、店にきてから黒乃さんと目も合わせないし、実は怒ってんの?とか考えちゃったんだよね。
でもさっき「ごめんなさい」とか言い出すしさ、よくわからん。
「あの、違うんです。私、別に美琴さん・・・黒乃さんと遊びたくなかったとかそういう事じゃなくて・・・あの・・・その・・・」
なんだよ、なんかすげえ歯切れ悪いなこいつ。いつもの里奈なら、もっとスパッと言ってると思うんだが。
「おい、お前一体何言ってるの?」
俺は我慢できずについそう言っちまった。だってさっきからずーっともじもじしてるんだぜ?気持ち悪いっつーの。
「きっ!」
すげえ目で睨まれた。
なんなんだよこいつ一体。一条さんもこいつがどういうつもりなのかわからず、さっきからずっと戸惑っててんだけど。
「あの・・・」
やっと里奈が重い口を開いた。一体何をそんなに固まってたんだろうか?一条さんはずっと黙って里奈が話すのを待っている。
「私、電車で真司から、美琴さんが私に気を使ってくれて、自分が黒乃だって事言わないでくれた事聞いたんです」
それは確かに俺がこいつに話した事だ。一条さん、ゲーム内では男言葉であれな感じだが、本当はすげえ人の事考えていてくれる気遣いの人だ。
「それで私、あの、何と言うか、もう、黒乃さんにどんな顔して会えば良いのかわからなくて・・・」
はあ?何こいつ、もしかして恥ずかしいやら何やらで、ずっと顔上げられなかっただけか?
「えっと、お前さ、それでずっと一条さんと目を合わせてなかったの?」
「なんでわかるのよ!?」
「あほか!お前、どれだけ下向いてたと思ってるんだ!俺でなくてもわかるわ!」
こいつあれで平静を保ってたつもりなのか?ある意味すげえ奴だぜ・・・。
「そんなわけないじゃん!私ずっと普通にしてたもん!」
「あんな普通があるかーーー!」
「ぷっ」
俺が里奈と不毛な喧嘩をしていると、一条さんが俺達を見て吹き出していた。うわー恥ずかしい・・・。一条さんの前でこいつと同レベルの喧嘩しちまった。
「ごめんごめん、だってなんか面白かったから」
そう言いながら、涙をぬぐう一条さん。
いやちょっとまて、これは笑いをこらえて涙が出てきたレベルの涙の量じゃねえ!
「あっと、あのこれ、ハンカチです!」
俺は慌ててハンカチを渡したよ。
「ありがとう、ごめんね真司君」
そういってハンカチを受け取る一条さん。
「あ、あの、あの、あれ、ど、どうしよう!」
そして俺の姉はというと、俺の隣で盛大にテンパってる。普段だったらお前またテンパってるのかよ!って思う所だが、今のは俺も少し焦った。一体どうしたんだ。
「ごめんね、なんか嬉しくて」
「嬉しい・・・ですか?」
「うん、だって私、里奈ちゃんに嫌われてると思って・・・」
ああ、さっきの里奈の態度だとそう思うよな。だって俺も思っちゃったもん。
「ち、違います!私が美琴さん嫌いなわけないです!」
里奈はバン!とテーブルに手をついて、立ち上がりながらそう叫んだ。
「ねえ、さっきからあのテーブルの人達、泣いたり叫んだりしてるんだけど」
「もしかして、あの男二股かけてるの?」
「うわあ、大してカッコよくもない癖に、よくそんな事出来るわね」
「でもあの女の子、正面の女の子に好きとか言ってなかった?」
「えー!そういう事なの?」
里奈の声にびっくりして、周囲を見回すと、そんなひそひそ話が俺の耳に聞こえて来た。
こいつ、なんで大きな声で叫んでんだよあほか!
「あ・・・あの、すみません、お騒がせしました・・・」
当の本人である里奈も、周囲からの視線に気付き、慌てて座りなおす。もうおせーけどな・・・。
「ぷっ・・・」
一条さんを見ると、口元を隠しながら、今度こそ本気で笑いをこらえていらっしゃるようだ。まあ、結果オーライなのか?俺が一番割を食った気がするが・・・。どうせ俺はカッコよくもなんともねーよ!ふん。
ちょっと店に居づらくなったので(主に俺が)、店を出ることにした。マスターには「お騒がせしました」と一言謝っておいたよ。そしたら、
「まあ、大変だろうけど頑張って」
等と励まされてしまった。
一体俺は何を頑張れば良いんですかね。もんもんとした物を抱えながら店を後にした。
一条さんの提案で、場所を近所のネットカフェに移した。フリースペースが開いていたので、そこで少し話をしたよ。
まあ、お互いにごめんなさいとか言いあってたけどな。後はゲームの話とか、今度一緒に行く狩りの話とか。俺のレベルが幾つになっただとか・・・。
途中から俺だけ帰りたくなったのは言うまでもないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「真司君」
そろそろ帰ろうかと言う時に、一条さんから声を掛けられた。
「今日は本当にありがとね」
「いえいえ、今後も里奈の事よろしくおねがいしますね」
「もちろんだよ」
そう言って笑う一条さんは、ちょっと可愛くてドキッとしちゃったよ。
「何一人前にお願いしますねとか言ってんのよ。生意気ね」
「うるせー、今日のお前に言われたくねー」
思い当たる所がありすぎるのか、里奈の奴、ぷーっとほっぺを膨らませて明後日の方向へ「ぷいっ」と向きやがった。
こいつにやられても可愛いともなんとも思わないが、それを見て一条さんがわらってるから、まあいいか。
◇◆◇◆◇◆◇
「ねえ、真司」
「ん?」
帰りの電車の中で、里奈に話しかけられた。
「私さ、ギルドの皆にも、二人が姉弟だって言った方が良いかな?」
「は?突然どうした?」
一体急にどうしたんだこいつ。今までずーっと隠し通そうとしてきたくせに、それ今更公表すんの?
「あー、えっと、今回の事でちょっと罪悪感と言うか・・・」
「ああ・・・」
要は皆をだましているような気分になったって事か。今回の件も、もとはと言えば、こいつが姉弟だって事を隠していたことが発端だしな。それで気になってるのか。
「まあ、元々俺はどっちでも良いって言ってたからな。お前の好きにしたら?」
「何よそれ!ちょっとは真剣に考えなさいよ!」
「いやいや、だから俺はどっちでも良いんだよ本当に!だから里奈次第って事だ」
「むう」
それから家に帰るまでずっと腕を組みながら考えていたようだ。さて、どうするんだろうなあ。
◇◆◇◆◇◆
今日家には燈色が泊まりに来ている。それだけなら、しょっちゅうある事なんだが、今日はちょっと違う。
なぜなら今日は、俺と姉貴が姉弟であると、ギルドの皆に公表すると姉貴が決めたからだ。
え?それと燈色が何の関係があるのかだって?
話しはちょっと前に遡るんだけど・・・。
「やっぱギルドの皆に言う!」
「何を!?」
こいつは、俺がベッドで漫画を読んでいたら突然ノックも無しに入ってきて、そう宣言した。なんなんだこいつは。
「何を?じゃないわよ!あんたと私が姉弟だって話に決まってるでしょ!」
「ああ・・・」
すっかりそんな事忘れてた。
「ああ・・・って何よ、ああ・・・って!」
「いや、言うんだなーって」
「あんたにだって関係あるんだから真面目に聞きなさいよ!」
「いてー!」
思い切り俺の事蹴りやがった。パンツ見えるぞ!
「いや、言えば良いじゃん。この前も言っただろ?」
「そうは言ってもこっちは恥ずかしいの!」
何が恥ずかしいのか全くわからん。
「そうだ!」
「ん?」
「燈色に付いていてもらう!」
「なんで?」
「あんたじゃ役に立たないからに決まってるでしょ!」
燈色なら何の役に立つんだろうか?俺は腹が立つのを通り越して、心底不思議で仕方なかったよ。
そして今目の前に、PCの前で正座している姉貴と燈色を目にしているわけだ。何だかなあ。




