里奈と美琴さん
「へ?」
俺の言葉に里奈は間抜けな返事を返していた。そりゃそうだよな。いきなりそんな事言われても思考が追い付かねーよな。
「美琴さんが黒乃さん?」
「そう」
「え?ええっ!?」
おーおー、里奈の奴混乱してるぜ。まあでも俺も似たようなもんだった気がするな。あの時は利香と一緒だったっけ?
「え?え?えっと、その、あ!だ、だったら何で早くそう言ってくれなかったのよ!」
混乱から軽く立ち直ったっぽい里奈が、勢い良く俺にそう迫ってくる。俺の襟首をつかみながら。
「ちょ!まて!いいからその手を・・・ぐええええっ!」
俺は思い切り俺を揺さぶる里奈の手を強引に振りほどいた。こいつは俺を殺す気か!嫌だぞ!電車の中で実の姉に絞殺されたとか新聞に載るのは!
「むううううううううっ」
俺から手を離したら、今度は自分の膝の上でグーを作って俺をにらんでいる。ほっぺをパンパンに膨らませながら。
「なんで美琴さんはその事を言ってくれなかったのよ!」
「お前、初めて美琴さんにあった時の事覚えてるか?」
俺は乱れに乱れた自分の服を正しながら、里奈にそう尋ねた。
「はあ?それが何の関係があるのよ?」
「まあいいから答えろよ」
「覚えてるわよ。新しいパソコン買いに行ったときだもん」
ムスっとしながらも、里奈は一応答えてくれた。
「あの時さ、ブラックアースやってるんですって話をしたじゃん?」
「したわよ」
「で、自分達の自己紹介もしたよな。姉弟でゲームやってる事や、お前が俺とお前のゲーム内のキャラ名を紹介して」
「したわよ。それが何よ?」
「あの時さ、俺とお前はすでにゲーム内で黒乃さんに会ってたよな」
「そうだっけ?」
「そうなんだよ!俺が友達のエバーから誘われて見学行こうとしたら、グラマンが付いてきたじゃねーか」
「ああ、あのときね!あんたが黒乃さんにデレデレしてた時ね!」
「してねーよ!」
なんでこいつ大事なところは忘れてどうでもいい所は記憶してるんだ。まあでも、ここでこれ以上抵抗しても仕方ないんで、次に行く事にする。
「でだ、あの時黒乃さんとも会話したの覚えてるだろ?」
「まあ、ちょっとだけね」
「その時さ、千隼さんが「エリナとダーク」は付き合ってるって話を黒乃さんにしたよな」
「な、なんでその話が関係あるのよ!」
「いてっ!おいばかやめろ!」
里奈の奴顔真っ赤にして俺を叩きに来やがった。
「あんたが無関係の話するからでしょ!」
「あほか!関係あるから話してるんだろうが!」
「?」
俺がそういうと、里奈は拳を握ったままきょとんとした顔になる。
「あのな?時系列で話すぞ」
「何よ時系列って」
「まず、黒乃さんは俺とお前がゲーム内で付き合ってると思っている」
「アイテムの為だけどね!」
「そこはいいんだよ!」
「良くない!」
「あーもうわかった!で、黒乃さんはパソコンショップで、俺とお前が姉弟だと知った」
「そうよ」
「その時の黒乃さん、一条さんはどう思ったと思う」
「あー姉弟なんだーって思うに決まってるじゃない」
「んなわけあるかー!」
「何ムキになってるのよ・・・」
なんでこいつはこういう時に鍵って、にぶちんになってしまうんだ・・・。
「あのな?黒乃さんは俺とお前がゲーム内で付き合ってると思ってた。そしたらその二人は、実は姉弟だと知った。はいどう思う?」
「・・・・・・」
今度は言い方を変えてみた。俺の話を聞いていた里奈は、しばらく考えたあと、急に真っ赤になって俯いた。
「えっと、里奈さん?」
「ど、どうしよう・・・」
やっと、事の重大さを理解してくれたようだぜ・・・。
「ど、どうしたらいい?だって私変態だと思われてるよね!?」
「お、落ち着け!」
さっきとうって変わって、今度は俺に縋り付きながら涙目になってやがる。忙しい奴だ。
「大丈夫だ、その誤解は解けてる」
「・・・ホント?」
「ああ。俺がちゃんと説明したからな」
「はあ、良かった・・・。あれ?」
「どうした?」
「でもだったら、なんでもっと早く美琴さんそう言ってくれなかったのかな?」
「気を使ってたんだよ」
「気?」
「お前さ、俺達が姉弟だってばれるの嫌がってたろ?」
「うん」
「だから、黒乃=一条さんってなったら、俺とお前が姉弟だってばれるじゃん」
「・・・うん」
「だからずっと黙ってたんだよ。俺にだけ聞いてきたのも、お前に聞いて友人関係が壊れるかもって、ずっと怖かったみたいだ」
「・・・」
俺の話を聞いた里奈は、自分の膝に置いたてをじーっと見つめて何かを考えてるようだった。
「まあ、後はお前が黒乃さんと直接話せよ」
「・・・うん、わかった」
その後俺達は、カフェユニークにつくまで一言も話すことは無かったよ。こいつはこいつで考えたい事がいっぱいあっただろうしな。
◇◆◇◆◇◆◇
カランコロン
カフェユニークのドアを開けると、鐘の音が鳴った。そういえば以前来た時もそうだったなあ。ユニークへようこぞって張り紙もそのままだ。
俺は張り紙から目を離し、店の奥へと目をやった。
以前、俺と利香でこの店を訪れた時、一条さんが座っていたその席、同じ席で一条さんは俺達を待ってくれていた。
「あ、真司君こっち・・・」
一条さんは手を上げて俺達を呼んでくれたが、その声は途中で小さくなっていた。
俺は後ろに立っていた姉貴をを振り返ってみると、一条さんから顔を背けて俯いている。
里奈と電車で話した後、あれからずっとこいつとは話していない。なので今、里奈が何を考えているかはまったくわからない。
「ごめんね、いきなり呼び出しちゃって」
ちょっと泣きそうになってた一条さんは、気を取り直して気軽に話しかけてくる。まあそれが余計になんか見てられないっつーか・・・。
「いえ・・・」
どう見ても、いつも一条さんと話すときの里奈ではない。
「真司君から聞いたと思うけど、私、本当は「黒乃」なんだ」
「・・・はい」
今度は正真正銘、本人の口からカミングアウトされる事実。それに対し、里奈は小さく返事をしただけだった。
「おい、里奈・・・」
お前それだけか?と言おうとしたら、一条さんに手で静止された。
「ごめんね里奈ちゃん。急にこんな事言い出してびっくりしたよね」
「・・・いえ」
まだ姉貴はうつむいたまだ。
「本当はね、私が黒乃だって事は、ずっと黙っておくつもりだったんだ」
「ええー!」
俺は思わず声を上げていた。いやだって、ずっと黙ったままなんて・・・。
「私と里奈ちゃんは、こうやってリアルでは色々お話しできる間柄だったけど、ゲームではあまり接点なかったよね」
ああ、そう言われてみればそうかも、俺が姉貴をブラックアウトに紹介しなければ、話すこともほとんど無かったかもな。
「けど、里奈ちゃんがブラックアウトで一緒に狩りするようになって、私嬉しかったの。けど同時に、悲しくもなったの」
「え?」
ずっと俯いてた姉貴も、今の言葉は意外だったのか思わず顔を上げた。
「だって、せっかく仲の良い友達と一緒に遊べているのに、それを分かち合えないんだよ?悲しいじゃない・・・」
そこまで言うと一条さんは手元にあるコーヒーを一口だけ口に含んだ。
「だから、真司君に相談したんだ」
そう話す一条さんの目には、少し涙が貯まっているように見えた。
「ごめんね、私、里奈ちゃんの気持ちわかって無かった。自分が一緒に遊びたいって気持ちだけを優先させちゃったみたい・・・」
「おい、里奈・・・」
「ごめんなさい!」
俺が姉貴に何とか言わせようと話しかけたら、突然里奈がそう叫んでいた。
「ごめん違うの美琴さん、そうじゃないの・・・」
そして里奈は、ぽつりぽつりと話し始めた。




