一条さんからの相談
「いやあ、惜しかったねえ」
「いやいやいや、何を言ってるんですか!」
団長の呑気な惜しかった発言に、思わず突っ込んじまった。
「そもそも今回の要塞戦は、99%はうちが取れてたんですよ!」
「いやいやダーク君。何事にも確実な事は無いんだよ?」
「何言ってんのよ、レイ君がふざけてNPCに斬りかかったりするから、近くに居たNPC全員から攻撃されて、それで泣く泣く退散したんじゃん!」
珍しく明海さんが団長に食って掛かっていた。
明海さんが言った通り、俺達はほぼ勝ちを手中に収めていたんだ。所が調子に乗った団長が、付近に居たNPCに斬りかかってしまった。
仕様上NPC同士は連携して行動するようになっていて、一人のNPCを攻撃すると、周りのNPCから総攻撃を食らう事になる。
で、案の定団長は攻撃を受けまくって、とてもヒールでの回復で間に合うようなダメージ量では無かった為に、団長はそこでENDとなってしまった。
その為、その前に要塞を所持していたギルドに所有権が自動で移り、そのまま時間切れ。
そりゃあみんな怒るっつーの。
「大体団長が言ったんじゃない。死ぬなって。なのに自分が死ぬとか信じらんない」
「いやあ、はっはっはっは」
今度は里奈が食って掛かるが、団長はどこ吹く風のようだ。
「あー疲れたー!」
「よ、残念だったな」
俺はたった今街まで戻って来た利久にねぎらいの声を掛けた。こいつはこいつなりにめちゃくちゃ頑張ってたからなあ。要塞取れなくて残念だよ。
「まあな。でも、めちゃくちゃ面白かった!」
「そうか」
「おう。あと、コボルト要塞に参加しているような奴でも、すげえ強い奴いるんだな。正直ちょっと舐めてたかも」
「それはあるな。有名な奴って有名なギルドに居るから目立ってるけど、それだけが全てじゃないからな」
コボルト要塞は1対1の場面になる事もあるんだが、たまにごりごりHPを削っていく人もいる。相当良い装備をしているんだと思う。
「やっぱムラマサが欲しいな・・・」
「え?まじかよ!?」
利久が言ったムラマサとは、対人としては最強と言われている武器だ。紅桜が対人入門にうってつけなのは、価格の安さもだが、対人成功率+5が標準で付いているところだ。
ところがムラマサは、対人成功率+20だ。そしてこの成功率ってのは、武器を強化すればその分数字が伸びるんだ。
例えば、レベル10まで育てた紅桜は。成功率5+10で15となる。しかしそれでもムラマサには届かない。たぶん姉貴でも買えないだろう。というか、売っている所を見たことが無い。それだけスーパーレアだということだ。
「でもお前、あれは手に入るの相当難しいぜ」
「わかってるよ。でも目標は高く掲げた方がいいじゃん」
なるほど。目標に向かってモチベーションを高く保ち続ける為って事か。俺が最近やってる「目標を決めてゲームする」ってのと同じかもな。
「よっし!ちょっと要塞戦の為の金策にいってくる!」
そういって、利久の奴は金稼ぎのための狩りにでかけていった。
むう、まじで俺、あいつに追い抜かれるかも・・・。
【ピコピコピン】
そんな事考えてたらラインの着信音が鳴った。一体誰だろう?そう思いつつスマホを開くと、そこには「一条美琴」さんの名前が書かれてあった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ごめんね呼び出したりしてー」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
次の日曜日、俺は一条美琴さん、つまりゲーム内での「黒乃」さんに「今度の休みに会えないか?」と言われ、例の「ユニーク」というお店で待ち合わせしていた。
なんでも「相談したい事がある」らしいんだが、ゲーム内での事だったらゲーム内で済ます人なので、正直何の相談なのかはわからない。
「あのね?最近私、里奈ちゃんと一緒に狩りに行ってるじゃない?」
そう、最近里奈はブラックアウトの人達と狩りに行っている。自由同盟じゃ、あいつがギリギリで戦えるような狩場に行ける奴はいないからね。しかしそれが何か問題があるんだろうか?
もしかして、里奈の奴、ブラックアウトの皆さんにご迷惑をおかけしてるとか?もしそうだったら、一条さんに申し訳なさすぎだろ・・・。
「あのー、もしかしてうちの姉が何かご迷惑でも・・・?」
俺は恐る恐る一条さんにそう聞いた。
「違う違う!全然迷惑なんかじゃないよ!」
「え?そうなの?てっきり俺・・・」
「むしろ逆だから!そりゃもちろん慣れてない狩場だし、最初はどたばたもあったよ」
「はい」
「でも基本真面目だから、すぐにコツも覚えたし、最近ではギルドハントだけじゃなく、個人で一緒に行きたいって言うメンバーもいるくらいなの」
「そうなんですか?」
はあ、良かった。相談があるって俺に言ってくるから、てっきりネガティブな方向の話かと思ってたよ。でも、それなら何の相談なんだ?
「あのう、だとすると、ご相談と言うのは・・・?」
「あのね・・・」
「はい」
「里奈ちゃんに、黒乃が「私」だって言っちゃダメかな?」
ああ・・・。そういう相談かあ・・・。
「なんかさ、ゲーム内で仲良くなってね?それでリアルでもそういう話出来たら良いなーって。あ、もちろん里奈ちゃんの気持ちもわかってるよ?」
「いや、仰ってる事はよくわかります」
だよなあ。そもそもリアルで仲が良いんだから、ゲームでも相性が悪いわけがない。だったら同じ話で盛り上がりたいと思うのは当然だろう。
だってさ、今の状況だと、里奈がブラックアウトの話を一条さんにしたところで、一条さんとしては「ブラックアウトって凄いねー」としか言えないんだよな。それはきついに決まってる。
「一条さん、里奈に一条さんが黒乃さんだって事伝えましょう」
「ホント?でも大丈夫かなあ。里奈ちゃん気まずくなって会わなくなったりしないかなあ」
「そこについては、ちょっと作戦があります」
「作戦?」
「はい」
そう、たぶんそのまま伝えたら、これまでの経緯とかいろんな諸事情を思い起こして、絶対に逃げるはずだ。なので、一条さんが黒乃さんだとストレートには伝えない。
それと俺がかなり前から知っていた事も教えない。だってそれ伝えたら、あいつ絶対へそ曲げるからな。なんで真司は知ってて私は知らなかったのよ!みたいにな。
「一条さん、こういう作戦で行きましょう」
そして俺は、一条さんに自分の案を話し始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そしてそれから1週間後の次の日曜日、俺は再びカフェ「ユニーク」に来るために電車へ乗っていた。里奈と一緒にな。
「それにしても美琴さん何の用事かなあ。会って話すほどだから相当なことよね?」
「ん?あーまあそうだろうなあ」
「何よその返事。あんた自分の事じゃないからって適当な返事してんじゃないわよ」
「いてててて」
ほっぺを思い切りつねられた。なんという狂暴な奴だ。しかしすでに作戦は始まっているんだ。失敗は出来ない。
「なあ姉貴」
「何よ?」
「実はさ、一条さんの相談てやつなんだけど」
「ん?」
やべーなんかどきどきしてきた。自分で作戦建てておいてなんだけど、心臓爆発しそう。
「俺、事前に相談を受けたんだよね」
「は?」
これはどういう意味での「は?」だろうなあ。「何を言ってるのかわからない」のか「なんであんたが知ってるのよ!」的な「は?」なのか・・・。
「ちょっとそれどういう事なのよ!」
良かった!内容の方に食いついてくれた!これが「なんであんたが先に聞いてるのよムキー!」だと、まずは機嫌を直すところから始めなきゃいけないからな。
「実はさ、一条さん、俺達に言いにくい事があったらしい」
「言いにくい事?美琴さんが?私・・・というか、あんたにも?」
「うん」
さあ、今の所俺の予想通りに作戦は進行中だ。姉貴の感情を逆なでしないように、それでいて一条さんの気持ちも伝えなきゃいけないんだ。
「実はさ・・・」
「うん」
「一条さんは、ブラックアウトの黒乃さんなんだ」




