利久のデビュー戦
今日は久々に、自由同盟として単独でコボルト要塞戦に挑む事になっている。
なんで今更コボルト要塞なんだよって言われそうだが、今日は利久のデビューイベントなんだ。
いきなりカルニスク要塞に行っても良かったんだけど、まずは戦場の空気になれた方が良いだろうとの団長が配慮した結果だ。
まあ、空気に慣れるってのは凄い大事だと思う。だって俺、いまだに要塞戦のファンファーレを聞くと手が震えちゃうもん。これは姉貴もそうだって言ってたし、燈色も同じみたいだ。
利久本人は、
「相手がブラックアウトでも全然構わないぜ!」
とか言ってたが、今日のあいつの言動を見ていると、やはり落ち着かない様子が見て取れる。
「おいライデン、初めてだから緊張するかもだけど、とりあえず出来るだけ落ち着け」
「はあ!?全然落ち着いてるし!むしろ余裕だし!」
「うんうん、とりあえず装備は狩り装備じゃなく、要塞戦用に変えとけよ」
「あ・・・」
俺に指摘されて、慌てて装備を変更しに行くライデン。
かなり舞い上がっちゃってるのが手に取るようにわかるぜ。
ブラックアースでは、特に前衛職がなんだけど、狩りと要塞戦では装備、つーか使用する武器が異なってくる。
モンスター相手の時には、火力重視の武器で戦う。例えば、相手の属性が「火」だったら「水」属性の武器で攻撃するとかね。後は単純な攻撃力だ。
でも対人は違う。対人は火力ではなく、どれだけ相手に「攻撃を当てることが出来るか」が重要だ。なんせ相手はプレイヤーであり、防御力も回避力もモンスターとは比較にならないくらい高い。
これは要塞戦が大規模になるほど大切になってくる。だって考えてみてくれ。ヒーラーから手厚い回復を受ける奴に、ちょっとくらいダメージが高い武器で行ったところで、何の役に立つだろうか?
それよりも毎回確実に攻撃が当たる武器で参加する方が効果的なんだ。そりゃもちろん、ダメージが大きくてとにかく良く当たる武器が理想だけどな。そんな武器は値段も高いし、出現率もレアなんだよな。
「取って来たー!」
大きな声を出しながら戻って来た利久が手にしているのは「紅桜」。こうさと読むらしい。前衛職が要塞戦に参加する際、まずは初めに手にする武器で、武器種は「刀」だ。
要塞戦初心者が使う武器とは言え、性能的にダメなわけではなく、単純に出回っている数が多いから手に入りやすい武器なんだ。ちなみに俺も紅桜を使っている。
ちなみに利久の紅桜は、里奈からのプレゼントだ。まあ、ずーっと姉貴のしごきに耐えて来たしな。里奈の奴も弟分みたいな奴が要塞戦デビューという事で、ちょっと嬉しそうだったな。
まあ、武器を渡すときにはいつも通りツンとしてたのが、ちょっと笑えちまった。
「さて、準備はOKかな?」
利久が戻ってきた所で団長が声を掛けて来た。
「もちろん!」
いの一番に返事をしたのは利久だ。
「ライデン元気がいいね。でもひとつだけ約束してくれよ」
「なんですか?」
約束?団長は一体何を約束するつもりなんだ?
「真司、約束って何よ」
里奈も同じことを考えていたらしく、スカイポで俺に聞いてきた。
「いや、俺もちょっとわからん」
なので黙って黙って団長の次の言葉を待つことに。
「絶対に死なない事。これ約束ね」
「え?なんですかそれ?」
団長の言葉に利久が何の話か分からないという風に聞き返す。
「あのね、要塞戦ってさ、変にテンション上がっちゃって、結構無茶しやすいのよ」
ああ、それはわかる。あれはホント異常な空間だよなあ。
「それでね?要塞戦で死んでも、その時はなんとも思わないんだよ」
ああ、それもわかる。すげえ興奮してるからか、感覚がマヒしてくるんだよねえ。
「でも、戦いが終わって冷静になったら、失った経験値という現実が僕たちを待っているのさ」
いやああああああああああああああああああああああああ!
うええ、気分悪くなってきた。
「なんか私気分悪くなってきちゃった」
「奇遇だな里奈、俺もだ」
姉貴のスカイポに俺も全面同意する。
要塞戦の途中や終わった瞬間は良いんだよ。充実した戦いの最中、または後だしな。
でもさ、戦い終わってステータスを確認して、ここ数日分の経験値がごっそり減ってるのを見た瞬間、もうしばらくは何もしたくなくなるような虚脱感に襲われてしまうんだ。ここ数日の俺の狩りは何だったんだと。
しかも前衛職は、回復役や各種アイテムをふんだんに使うので、その間のアイテム消費も半端ない。つまり数日間の狩りの成果がプラスマイナス0どころか、マイナス査定になる事だって・・・。
いやいやいや、あまり深く考えないようにしよう。そして俺は、今日は絶対死なないぞと固く自分に誓った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
パッパラーパララパッパラー
ファンファーレが鳴り響いて、コボルト要塞戦が始まった。
相変わらず複数のギルドが集合していて、今日のコボルト要塞戦もカオスな状況になりそうだ。
要塞の門近くでは、早くも斬りあっているプレイヤーたちが見受けられた。実はあんなとこで斬りあっててもあまり意味は無いんだけどなあ。
そんな事を考えながらウォールへと向かおうとしたら・・・。
「こらライデン!あんた何やってるのよ!」
という、里奈のチャットが見えた。
「どうしたの?」
「利久が門で斬りあい始めたのよ」
「はあ?」
門の方を見ると・・・。さっき俺が意味ねーっていってた斬りあいやってたのは利久だった。
あいつ何やってるんだ。
今日の目標はさ、まずはウォールへ向かい、そしてそこで他ギルドを排除し、その後ウォールを破壊してクリスタルを奪取、という流れだ。
それは散々利久にも説明したはずなんだけど、やっぱり初戦闘という事で、テンションがMAXになっちゃってるんだろうなあ。里奈の声も全く聞こえてないっぽい。
仕方ないので、利久の援護に行く事にした。まずはこの場を何とかしないとあいつもチャットにまで目がいかないだろう。
そういうわけで、俺は利久の加勢に行き、二人で相手を飛ばすことに成功した。成功って言うのか?
で、場が落ち着いたので利久に話しかけようとしたら、この野郎門へ向かって走り出しやがった。
「おいライデン!ちょっと待て!おーいライデン!」
「なんだよ!早くウォールへ行こうぜ!」
ようやくチャットをみてくれた利久から返事が来た。
「いや、一旦戦闘エリア外に出よう」
「はあ!?なんでだよ!早くウォールへいかないととられるだろうが!」
「まあいいからエリア外に出ろって」
「そうよ、一旦エリア外に下がりなさい」
俺に加え、里奈にもそう言われて利久はしぶしぶエリア外にやってくる。
「なんだよ!早くしないと要塞取られちゃうだろ!」
「まあ落ち着け。要塞は別にどっかにいったりしねーよ」
「はあ?そんな悠長な事いってられねーだろ!」
まあ、こいつが逸る気持ちはわかる。俺のデビュー戦もにたようなもんだったしな。そういえばあの時は、俺と燈色と姉貴の3人で反省会やったっけ?なんか懐かしい感じがするな。
「ライデン、あんた今日の作戦覚えてる?」
俺がちょっと前の要塞デビュー戦を懐かしんでいると、里奈が利久にそう質問していた。
「わかってるよ。まずはウォールを占拠するんだろ?」
「わかってるじゃない。で、あんたは何やってたのよ?」
「何って、敵と戦ってたんだよ」
「作戦はなんだっけ?」
「作戦はわかってるけど、敵を見付けたら倒すのは当たり前だろ?」
「狩りならそれでいいけど要塞戦は違うわよ」
普段の里奈ならすでに怒鳴っている所だろうけど、今日は利久のデビュー戦で、気持ちが高揚しているのもよくわかるんだろう。諭すように話をしてるよ。
「ウォールを制圧するには人数が必要なの。それも前衛のあなたが居なかったら、ダークだけで敵を排除しなきゃいけなくなるの。それは無理でしょ?」
「まあ、それは・・・」
「前衛だけじゃないの。ヒーラーや奇術師やアーチャーも必要なのよ。みんなが協力して、それでもとれるかどうかがわからないのが要塞戦」
利久は黙って姉貴の話を聞いているようだ。
「だったら、一番可能性の高い行動を取った方が良くない?」
「それは・・・そうですね」
「まあ、初めての要塞戦でテンションが高いのは悪い事じゃないわよ。ただ、チャット欄を見ることが出来るくらいの落ち着きは必要かもね」
「俺と師匠は、デビュー戦はそれで大失敗したからな」
「思い出したくもないわね」
そういって里奈は「お手上げ」のジェスチャーをして見せる。
「おーいみんなー」
里奈が話し終わったくらいのタイミングで団長たちが戻って来た。というより、クラウンを取られて強制帰還させられたんだろう。
「もー!3人とも何やってるのさー!おかげでクラウン取られちゃったじゃないかプンプン!」
わざわざ「ぷんぷん」等と入れている辺り、本気で怒っているわけではなさそうだ。
「レイ君大丈夫!エリナちゃんはともかく、ダーク君とライデンが来たところであんま変わらないし」
「ちょっと!アッキーさん何言ってんの!?」
「そうだよ!ダークはともかく、俺が来たら変わるに決まってるでしょ!」
「ちょ!ライデンお前、怒るとこそれか!」
「まあまあ、喧嘩は後でね。それよりはやくウォールへ行くよ!今度こそ僕らが要塞ゲットするんだからね!」
「おう!」
団長の言葉に利久が力強く反応する。なんか釈然としないが、まあ今回は泣き寝入りしておこう。毎回な気がするけどね。




