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12 ぶちギレてしまいまして。

短期自宅警備員ひきこもり中。


春休みがあと十日…いっそのこと本職になろうかななんて冗談です一日遅れのエイプリルフールですゴメンナサイ。

 三河コノハは、柔らかな微睡みの中にいた。


 夏の凶悪な日差しを凌ぐため、大きな窓にはカーテンが引かれ、水魔法と風魔法の応用で造り出されたクーラーなるものが部屋の空気を涼しく管理している。昨日荒らしてしまった室内はすっかり片付けられて、大暴れしていたインコっぽい鳥は優雅に毛繕いの真っ最中。


 コノハの眠りを邪魔する存在が何一つないはずの部屋で、ふとクツクツといたずらげな笑いが響いたが、気づく者は誰もいない。










 ………………………


「コノハ様、そろそろ起きて下さい」


 朝も10時を回ったところで、控えめなノックとともにコノハの最も信頼する従者・ヒナタが声を掛けた。

 完璧に執事服を着こなしたヒナタは、返事が聞こえてこないことに疑問を感じて幾度か呼び掛けるも応答はない。

 数十回繰り返し、ようやくドアを押し開けた。


「コノハ様?」


 仕方なく中を覗くと、ベッドは布団が捲れていたが無人で、何の気配もしない。その傍には芋虫のように丸められた布団が転がっている。

 部屋に荒らされた跡もなく、コノハだけが姿を消していた。


「いったいどこに…」

「…んー、ん、んんー!?」

「わあっっ!?」


 入室した途端、その芋虫のような布団の塊が呻きながらゴロゴロ転がってきて、ヒナタは堪らず悲鳴を上げた。

 逃げようと、閉めた扉を勢いよく押し開けようと体当たりをかましたが、びくともしない。


「え!? どうなって…!?」

「んー!」


 壁際に追い詰められてワタワタしていると、どこからか控えめな笑い声が聞こえた気がして、ヒナタは目を凝らす。


「クッ…クク…!」


 声の主はコノハの机に腰掛けて口元を押さえ、目尻に涙を浮かべて悶えていた。

 闇夜を映したような漆黒のローブのフードを深く被っている人影は、ヒナタが見つめているのを勘づいたのか、それをソッと外した。

 くすんだ肩までの銀髪にランランと輝く橙色の瞳、幼い、微妙に見覚えのある顔立ちをした少年が現れる。




 そう、ヤツは───────涼宮香コウバージョンのオレだぜ!!




 やっほー久しぶり! 待たせたな!

 あ、今までの三人称部分って全部オレが実況してたんだわ。


 まあこうして三河コノハを簀巻きにしてるのには訳がある。つか、訳なしで簀巻きなんてやらないけどな。



 面倒な主従(三河コノハと執事のヒナタ)を、玲哉の友達という名の生け贄にしようと誓ったあの日から二週間。オレは頑張った。ものすごく頑張った。


 連日、三河公爵家にお邪魔して、伯母さんの期待に満ちた眼差しに辟易しながらも部屋の前にて出てこいと呼びかけ、ヒナタに文句を言われようともめげずに通い続けた。父上に心配されて止められそうになるまで、涼宮公爵領と三河公爵領とを往復した。

 雨にも負けず風にも負けず、溜まっていく疲労とストレスにも負けず。一週間経った頃から使用人達に同情の視線を貰うようになって、挫けそうになる心を抑え込みつつ頑張ったのさ……。


 なのに、なのにだ…あの野郎、ぜんっぜん出てきやしねぇ!!

 二週間だぜ? 二週間も毎日従姉妹が会いに来てるんだぜ? 出てこいよ挨拶くらいしろよ! 六歳でコミュ症か引きこもりか自宅警備員かニートなのか!? オレの努力と胃薬を飲む日々は無駄だってのか!? くっそおおおおお!!!!


 で、荒れに荒れまくって自室に大穴開けたオレはついにぶちギレて、「ええで…その喧嘩買ったるわ」って感じで乗り込むことにしたワケよ。

 ひとまずあんにゃろうを縛って転がして、それから執事(笑)が来るのを待ってみた。言葉が乱れてるのは許してほしいぜ。テヘッ。

 おっと、執事(笑)はオレを睨み付けている。取り敢えず朝のご挨拶をね。


「来るの遅ぇんだよ少年執事(笑)」


「な!?」


 あ、ミスっちゃった。本音が駄々漏れだわ。ちがうちがう。


「えーどうも、昨日ぶり。お邪魔してマース」

「この声…貴様は涼宮かおり!?」

「コウ様と呼べど阿呆が」

「…っ、コノハ様をどこにやった!」


 うるさ…自分の立場わかってんのかコイツ? 言うなれば強盗と遭遇した憐れな一般人だっつーのに。騒ぐと殺されちゃうよ? 防音結界張ってるから助けは求められないんだし。


「なんとか言えっ!!」

「ハァ…その前に取り引きがある」

「……取引?」

「そうそう。ちなみに拒否権はない。提案に頷かない場合、お前の主人は帰ってこないからヨロシク」

「チッ…内容はなんだ」


 自分の主に関係あると聞き分けがよくなるな。態度は悪いけども。

 さて、取引内容だっけ? そんなのは簡単だ。オレの目的は王城に上げられるような玲哉の友達づくりだ。つまり、


「三河コノハを藤城玲哉第二王子の友人とすること、ひきこもりを辞めること。お前に関しては、三河コノハと玲哉殿下の仲を取り持つこと」


「仲を取り持つなんて無理だ…執事にできることじゃない」

「大丈夫、殿下は身分でどうこう言うより対等に話してくれる友達がほしいだけだから」

「本当に?」

「マジだよ。オレの方は三河コノハの解放、あとはまぁ…相談にのってやるくらいだな。アドバイス程度ならくれてやる」


 あ、しまった。ちょっと俺様キャラになってる。

『俺様キャラは二次元なら萌えるけど、現実リアルだとヒクよね』とは誰の言葉か。まったく否定できないどころか同意したいね。

 じゃなくて確認取らないと。


「条件はそれだけだ。呑むか?」

「…絶対にそれだけなんだろうな」

「そう言ってるだろ」

「わかった…呑む」


 フフフ…言質は取った。録音にも映像にも録った。あとで言い逃れはできないぞ。

 二週間前からの悲願を達成できてオレは満足だ。ついにやったぜ! よし帰ろう!


「おい待てコノハ様を返せ!」


 ………興奮して忘れてましたゴメン。





▼どうでもいいオマケ


玲哉「そう言えば、昨日はエイプリルフールだったらしい」

コウ「あ、そうだったな」

玲哉「コウ。実は私は…ある呪いによって友達ができないんだ」

コウ「…ちょっと無理があると思うぜ?」

玲哉「王子という身分の呪いが」

コウ「ウソじゃないのかよ!」

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