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9 父上の姉上は無敵でして。

冬眠したい。

パーティーから4ヶ月…今、涼宮領は夏を迎えている。


いやぁ、あづい…。


この国の王都に近い我が領はとにっかく暑いのだ。

この世界にクーラーなんてものはないし、窓を全開にして服をこれでもか!ってくらい薄くしても限界がある。特に男は大変だ。女ならワンピースを着るなり持ち歩いてる扇であおぐなりできるが彼らは無理だ。

いやできないは言い過ぎた。もはや醜聞なんてどうでもよいという強者と、女装に大して抵抗がないオネエ…もとい『女を極めた男』だけが若干涼しく過ごせる。


こちらで女であることに感謝したのは初めてだ。女に生んでくれてありがとう、母上!


「香お嬢様、お手紙です」

「そう、ありがとう」


差出人を見ると和希だった。

実は和希からの手紙は、出会ったあの日から幾度となく送られてくる。中身は様々だが半分くらいは世間話である。ちなみに、見本になりそうな美しい字で綴られた手紙を読むことはオレの楽しみになりつつある。

和希、マジ可愛い。年上だけど。


「香お嬢様、玲哉殿下がお越しです」

「分かりました」


そして玲哉もまた、あの日から一ヶ月に一度ほど訪ねてくるようになった。理由は『コウ』と話すためである。『涼宮香』とではない。


「ふぅ…」


服装を少年のようなそれに替えて幻想魔術の掛かった指輪をすればハイ完成。

くすんだ銀髪、オレンジ色の瞳に切れ長の目の『コウ』の出来上がり。

あ、寝癖が。帽子被ろう。


「また殿下?」

「うん。ちょっと行ってくる」

「今日は暑いから早めに戻っておいで。レモネード用意させておくから」


通りすがりの秀斗に労われた。『オレ』イコール『コウ』ってのは屋敷の使用人に知らせてある。

玲哉との婚約云々の話は出る前に「私、恋愛結婚に憧れているんですよね」とさりげなく釘を挿しておいたから出てきてない。


というか恐らく、縁談を父上が潰したと予想している。この間疲れきった父上にどうしたのか訊ねたら、

『ちょっとね…かおりの未来のために頑張って来ただけだよ。安心しなさい、かおりの夢はお父様が叶えてみせるから』

とサムズアップされた。

その二日後にうちにきた玲哉は「ここの令嬢は王族に嫁ぐのが嫌という珍しい人間なのか?」って不思議そうにしていた。その通りなんですがね…。


「コウ、遅いぞ」

「あー、悪い。外に出たくなくてグズグズしてた」

「屋敷の使用人なのか?」

「言うかよ。仕事サボって来てるとかそういうんじゃないから気にするな」

「お前の首が飛んだら会えなくなるだろう?」

「……解雇されるのはありえないし物理的に飛ばなきゃ会えるだろうさ」 


 飛ばないといいよな永遠に。つか、飛ぶなら首じゃなくて頭じゃないのか? 首だけ飛んでたら軽くホラーだろ。


「んで今日はどした?」

「頼みがあるんだ」

「どんな類いのものかによるな。友達として親に紹介したいんだけど城に来てくれない?って種類なら無理だ」

「……頼む前から断るな」

「よりによってそれかよ…」


 項垂れる玲哉が言うには、毎度毎度涼宮邸を訪れるために公爵の娘の涼宮香、すなわちオレを狙っていると勘違いされているらしい。


 噂を聞きつけてニヨニヨ笑う国王に玲哉は思わず『友人に会いに行っている』とばらしてしまったのだが、まったく信用されていないので今度連れてくる約束をしてしまったのだとか。


 …国王って人間味ありすぎないか? 普通に息子をからかう親だよな。第二王子とは言え将来国王になる可能性がある子どもに冷やかしって…噂の相手は公爵令嬢だし別に身分的に悪くはないけど。


「ダメか…?」

「ダメだな…オレは王族に関わる気はないんだよ。お前とは対等な友人として付き合ってるつもりなんだ。王子としてのお前との関わりはない」

「薄情者」

「ウッセ。しかもそれ、単に国王さんがお前を心配してるってだけだろ。『うちの息子ったら年頃なのに遊ぶ友達のひとりもいないのよ困ったわねぇ』みたいな?」

「ヴッ」

「自覚はあるんかい!」


 かくいうオレも玲哉しか友達いないな!

 たまに公爵家の権威欲しさに娘送りつけてくる貴族いるけど、大抵話合わないからとっとと送り返してるんだよ。


 ファッションどうでもいいし、料理に裁縫が何?って感じ。オレは興味ないし。…女らしくないのは分かってるって。魔術とか剣術とか、あとは調合?とか。そっちのほうが得意なんだ。


「どうすれば…」

「急いで他の友達作れば?」

「…この屋敷で誰が友達になってくれるんだ?」

「涼宮秀斗とか? 一応知り合いだから」

「お前の交流関係はどうなっているんだ…貴族、しかも公爵子息と知り合いとは」

「オレは一般市民だよ」

「嘘だ…」


 嘘です。

 何とも言えない重々しい雰囲気を漂わせる玲哉には気の毒に思うよ? けど王族が住む王宮に魔導師がいないはずがないし、変装していても正体がバレるのは分かりきっている。


「って訳で『ごめんなさい、実は友達なんていないんだ…綺麗な薔薇を心置きなく楽しみたくて』とでも言っとけばどうだ?」

「僕はどこの女々しい男だ……いやしかし…それしかないのか……」

「本気で言うの!?」 


 本気で検討し出す玲哉を慌てて宥めた。


 友達候補ねぇ。たぶん貴族、身分も上位じゃないと認められないんだろうな。

 うーん、秀斗はどうだろ…ダメか、話が合わなそうだし。でも他の知り合いで紹介できる人物いないんだけど…あ。


「そういえば、涼宮公爵には親戚がいるらしいんだよ。たしか三河って」

「そうなのか?」

「公爵の姉さんが嫁いだんだとさ。で、オレの記憶が正しければ六歳になる息子がいるはず」


 三河はうちと同じく公爵家で、父上のひとつ年上の姉さんが政略結婚として嫁に出された家。

 最近父上が浮かれているからどうしたのか聞いたら「姉さんが女の子を産んだ」と教えてくれた。

 そのときに息子の『三河なんとか』のことも知った訳だ。


「オレのつてでどうにかなる相手はあと三河だけだな。…王子だから友人にするなら公爵子息がいいんだよね?」

「特にこだわりはない。ただ公爵子息でも面倒な奴ならお断りだ。媚つらって愛想笑いにお世辞ばかりの奴なら尚更」

「お前が一番面倒だよ。こだわり多いじゃん。…つってもさぁ、オレあくまでも知ってるだけなんだよな。話したことないし性格とかそういうの分かんないんだけど」


 パーティーに一切出席なしだもんな。それ以前に姿を見た人がいないという…従兄弟のオレたちもたぶん滅多にお目に掛かれない人物だ。

 なんでって? 叔母さんが過保護な親バカさんだからだよ。涼宮の家系は親バカが多すぎる。


「なんとかならないか?」

「あー……涼宮秀斗か香に頼めばどんな人かくらいは見てきてくれるかもしれない」

「直接は?」

「いきなりは無理だと思う。取り敢えずどちらかに紹介してもらえば…」

「頼む」

「そんなに切迫詰まってるのか……」


 可哀想だから会ってきてあげようじゃあないか!














 という訳で三日後。オレは父上の姉さんを前にしているんだが……。





「あなたが香ちゃんね! まあなんて薫ちゃんにそっくりなのかしら!! 令嬢でショートヘアーだなんてユニークで素敵じゃないの! 私は三河和奏ミカワワカナというのよ、よろしくねぇ!」





 父上の姉上はマシンガントークを繰り出す無敵な女性でした………。





従兄弟との会談を終えたら学園編に飛ぶ予定。




◆乙女ゲームヒロインの名前募集中。如何にもヒロインっぽい名前が思いつかない……。

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