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8 パーティーは続くのでして。

ブックマークありがとー。

 誕生日パーティーという名の社交界デビューをしてから二時間、オレは会場のすみっこでいわゆる『壁の華』になっていた。

 …だって面倒なんだもん貴族連中。ありもしないお世辞言わなきゃならんしじろじろ眺めまわされるのとか不快以外の何物でもない。


 王子さんは女の子を振り払うのに必死。まあ地位が高いし群がるのも分からなくないけど、とにかく肉食系女子って怖いよね。親の後押しもあるっぽいから退こうとしないし。そうそうその調子…あ、失敗したか。

 頑張れ王子。


「かおり?」

「あれ、秀に…お兄様? どうしてこちらに?」

「踊り疲れた。ちょっと休憩しようと思って。かおりは何をしてるの?」

「壁の華に扮しているのです」

「壁の華って…かおりは今日の主役なのに」


 小さなワイングラスでのんびりとブドウジュースを楽しんでいるオレに秀斗は呆れが混じった視線を向けてくるがそんなものは無視だ無視。気にしたら負け。


「お父様は」

「さっき伯爵と談笑していたけど何か用事でもあるのかな?」

「いえ…お兄様と踊ったあと第二王子様と対面したのですが、お父様は急に不機嫌になった王子を追いかけていってしまったのです」

「へーえ、殿下が」

「で、正直王子様のことはどうでもよくてですね、疲れたのでもう休みたいんです。一応主役?ですから他の貴族の皆さんに挨拶に回ったんですが嫌になりました。勝手に抜けるのもあれですし、お父様に許可を取っておこうと思いまして」


 主役のはず……まったく気にされてないよねオレ。まあ顔を知らないって人も多いんだろうとは思う。むしろ興味ないのかな、自分で言うのもなんだけど令嬢らしくない容姿をしてるし、あんなのとつるんでは駄目だとか言われてそう。


「……社交界で素直はあまり良くないよ。どこぞのあくどい貴族に騙されて悪い目に遇わされないとも限らない」

「貴族なんて面倒な方ばかりを相手にしたくはないです。疲れます。それに私は警戒心高めの方だと自負していますが」

「そうだね…かおりを怒らせて敵に回したら怖そうだ。水魔術は実力的に王宮魔術師の見習い以上だからね。剣術だってそれなりに腕を上げただろう?」

「それほどは…せいぜいリルドさんと素手のハンデ付きで互角、くらいの感じですよ。魔術もマーフィー様には及びません」

「それは十分凄いことだよ…」


 苦笑いの秀斗だがどこかへ行ってくれないか。他家の令嬢たちの視線が痛い。『妹だからって調子に乗らないでくださらないかしらっ!』みたいな声が聞こえて来そうだ。


 リルドさん? 最近剣術を習い始めたんだよね。そのときに教師をしてくれてて、王宮騎士団の指導をしてる貴族だよ。父上の部下らしくて、昔何かのときに助けてくれた父上には恩を感じてるそうだ。

 というか父上、何の仕事をしてるんだ? 大抵屋敷にいるし、いつ働いているのかわからないし。不思議なんだよな。


「あ、お父様見つけた。向こうのバルコニーに行ったよ?」

「では話して参ります。お兄様は…明日筋肉痛にお気をつけて」

「ははは…タスケテ」


 虚ろな目だが無理です。オレにはできません。 


 バルコニーでは父上と…あれは誰だ? 闇夜に溶け込みそうな漆黒のローブを着て、フードを顔を覆い隠すくらい深く被っている、実にあやっしーい人物である。楽しげに笑っている声は若者っぽい響きをしているし何気にイケメンボイス。

 っとか考えてる暇はない。早く部屋に帰って寝るのだ!! 仕方ないから割り込ませてもらおう! すまぬな!


「…お話し中に失礼致します。お父様、少しよろしいですか」

「…!?」

「ん? かおり!?」


 大袈裟に振り向かれた…ショック。もしかして恐れられてる? 見知らぬ不審者に怖がられるとかなんなんだよ泣くぞ。


「……お連れの方が困っていらっしゃるので簡潔にお伝え致しましょう。疲れた、飽きた、だから部屋に帰って寝る」

「分かりやすい…じゃなくて! かおりはこの人が怖くないの?」

「怖い? 冗談を。怖がられているのは私の方でございましょう? でもまあ、雰囲気が不審者である意味怖いですが」


 普通に返答するオレにローブ男は目を見開いた―――たぶん。見えないから予想。まさに呆然!という風に、


「……本当、か?」

「私が嘘をついているとお疑いになられますか。別に信じられなくとも構いませんけど、何なら真実薬でも飲みましょうか?」


 真実薬とは国王に認められた最高位の調合師のみが調合できる特別な薬物で大変に貴重なもの。効果は名の通りで本来出回ることはなく、重大な罪を犯した犯罪者に対して使われているらしい。




 そして…作れるんだよねなぜか。




 そこら辺に生えてた光る雑草を引っこ抜いて図鑑で調べたら薬にできるって書いてあった。

 →作れるか試してみたくなって材料を集め、本を見て調合したけど失敗を繰り返して完成しない。

 →飽きたので分量とか量らずに器に材料を放り込んでかき混ぜた。

 →変な色の液体に。




 試しにメイドのひとりに飲ませてみたらオレに対する悪感情の数々を包み隠すことなく吐露された。おかげで数日間彼女との距離感に苦労した。


 あれだよ、親友だと思ってた人が自分の悪口言うのを偶然聞いちゃって、次の日からどう接すればいいんだろうって悩む感じ。そのメイドは普段から我慢するような性格の子だったから、完成したんだろうという結論に達した。

 …夜に少し枕を濡らしたのは秘密だ。




「本当、なのだな…」

「呪いが効かない人は初めてだね…かおり、この人知ってるかな?」

「…………えっと……誰でしょう?」


 フードを取られた男の素顔が露になる。深緑の短髪にオレの瞳と同じルビーレッドの瞳、端整な顔立ちは中性的で陰がある印象だ。

 誰だよ。イケメンだとしか思わんぞ。イケメンボイスを発してたのはイケメンでした。


「…俺を知らないのか…? この国では疎まれているものだと思っていたが……」

「知らない人を疎んだりしませんよ。で、どなたでしょう。記憶の欠片にもないのですが」

「………鷹取和希タカトリカズキ

「鷹取…宰相様の息子さんですか?」

「……長男だ」

「そうですか。私は涼宮香、涼宮家の長女です。以後お見知り置きを。……さて、自己紹介もすみましたし。お父様、もうよろしいですか? 眠たいんですけど」


 寝たい寝させろ寝させてください。

 半目のオレに驚く二人だがそんなもの知らん。オレは静かなる我が砦で一人孤独な時を過ごしたい(=眠りたい)のだ。 


「…かおり、お願いがあるんだ」

「なんでしょう?」

「和希の相手してやってよ」

「…!? 何を…」

「相手とは?」

「和希は宰相家の代表でお祝いに来てくれたんだ。でも『壁の染み』状態になっていて見ていて可哀想だったからね」

「壁の染み…」


『壁の華』の男バージョン?


「お父様、鷹取様は染みではございませんよ。ローブさえなければ。来ていただいた令嬢たちよりも立派な『華』です」

「だってさ?」

「……ぅ……ぁ、ありがとう……」


 なにこれ可愛い。褒められて真っ赤になるとか何なのさ。年上だよな? マジ可愛い。


「お任せください。鷹取様をエスコートして羨ましがられて参ります」

「…ぅ、羨ましがられ……」

「ははは、頼んだよ。彼は人見知りのようだし口下手だから」

「公爵……」


 咎めるかのような視線にも身動ぎひとつしないとはやはりオレの父上だな。期待に答えてやろうじゃあないか! ちょうど退屈で眠くなってた訳だしな!


「行きましょう。まずはローブ脱いで」

「…これは駄目だ」

「なぜ?」

「…視線が、怖い」

「私は怖いですか?」

「…怖くない」

「じゃあ平気でしょう」

「……」

「では隣を歩かないでくださいね。不審者と一緒なんて嫌ですから」


 キツい口調で言いつけると彼は動揺したのか体を揺らした。おろおろする姿はやっぱり可愛い。落ち着かせるように頬に手を当ててしっかりと目を合わせる。


「私は貴方がどう言われているのか知らない。どう言われていようが知りたいと思わない。他人の視線が怖いなら貴方の全てを奪って他のものが映らなくしてしまおう」

「…!」

「だから安心して、私に格好いい貴方を見せてくれませんか」

「……ゎ、分かった…分かったから…」


 躊躇いながら脱いだローブのしたはきちんとした礼装で安堵した。ここまで言っといて中身がラフな格好だったらどうしようかと……。


 会場に戻ると一気に視線が集まり、そしてどよめきが起きた。呪われた王子…と、どこそこから聞こえてくる。震える鷹取の腕をそっと掴んで「なにかしら?」と周りに微笑んでやる。慌てて視線を外して囁き会う貴族連中。


「鷹取様」

「……」

「和希様。こっちを向きなさい」

「…!」

「大丈夫です。私は言いましたよね。視線が怖いなら貴方の全てを奪って他のものが気にならなくしてしまおう、と」

「…ぁ、ああ」


 ほんのりと頬を染める鷹取にオレは令嬢らしくお辞儀をひとつ。完璧な笑みを心がけて告げる。


「私は我が儘な令嬢です…貴方にはダンスに付き合ってもらいましょう。私が満足するまで、ね」 













「……まだ、踊るのか…っ」

「ええ、もちろん。私は我が儘ですから、ねっ!」


 大きくターン。ドレスの裾がふわりとはためき、いい感じに見える。これで五曲目。オレも疲れてるが相手のほうがもっと疲れてる。滅多に踊らないそうで三曲目くらいからバテてきた。


「…も…疲れ、た…」

「仕方ないですね…次で一度休みます、か」


 音楽が止んで一息つく。彼は気づいてないだろうが向けられた視線の大半は「可哀想に」である。言わずもがなオレのせいだ。やつらはオレの我が儘に付き合わされて息も絶え絶えの鷹取に同情を抱いている。ハッハッハー、計画どおりだ! さっきから休憩を求める鷹取に『我が儘』を強調していたおかげだな!


「鷹取様」

「……和希、って…」

「和希様。バルコニーで涼んで参りますので」

「…俺も行く」

「そうですか」


 柱に凭れる和希にワイングラスinブドウジュースを差し出す。お気に入りなんだよこれ。渋くなく甘すぎず。サイダーで割ったら絶対おいしい。


「…ありがとう…」

「和希様。視線、怖かったですか?」

「……途中から踊るのに精一杯で…」

「よかったですね。あの場の貴族は全員『涼宮香の我が儘に付き合わされて可哀想な鷹取和希』と見ていましたよ?」

「………すまない」

「何がです? 私は結構楽しかったですが」


 主に焦る和希を眺めるのが。聞いたら和希はむくれるだろうし言わないけど。


「それに目的は果たせましたから」

「…目的?」

「和希様の全てを奪って他のものが気にならなくさせる、ってやつです」

「……強引だった」

「でも結果が全てですから」


 辺りを見回して、端の方でのんびりとしている父上を見つけて駆け寄る。


「お父様」

「おや。随分と踊ってたね」

「約束していたんですよ。和希様が視線を怖いと言うので気にならなくさせると」

「それはまた…男前だ」

「お褒めいただけて嬉しいです」


 胸を張るオレの横に和希が到着する。父上はよろよろ歩く彼に軽く吹き出した。


「か、和希君お疲れだね…っぷぷ」

「……お恥ずかしい」

「お父様失礼ですよ。一応身分的には和希様のが上でしょう?」

「一応って…ふっ」


 ここまで笑われるとは…父上はひょっとして笑い上戸なのか? そうだ、忘れるところだった。


「お父様、そろそろ本当にお休みします。あとはよろしくお願いしますね」

「ん、分かったよ。おやすみ」

「はい、おやすみなさい。和希様もさようなら……今日の真っ赤になってる和希様、とても可愛らしかったですよ」

「…!!」


 一瞬で真っ赤になる和希はやっぱり可愛い。最後に見れて満足だ。

 だから「それは男のセリフだよ…」と突っ込んで笑う父上は見なかったことにする。

鷹取和希は攻略対象者。

主人公は記憶をなくしかけてるから気づかない。



番外編を活動報告で公開します。

『バレンタインにチョコがけ豆腐より』

興味がありましたら閲覧ください。

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