9)天樹に導かれし出会い
やがて、こんな山脈の中とは思えない色とりどりの花が咲き、小川がせせらぐ大地にたどり着いた。
「高地の中にこんな場所が?」
「すごいわね。なんか夢の中みたい」
「誰かいないのか探してみよう。手分けして探すぞ」
知輝とマノンは小川に沿って歩いて行った。
「生きていく為には水が必要だろ。川沿いに必ず誰かいるはずだ」
「いつもの刑事の勘ってやつね」
小一時間は歩いたろうか。
「知輝ちょっと休憩しようよ」
「あー、冷たい缶コーヒーが飲みたい。まあ無理だけどね」
「冷めてるけど美味しい紅茶よ。はい」
俺たちはほっとした反動で大声で笑ってはハイテンションだった。
「うるさいなぁ〜、目が覚めちゃったじゃない」
「えっ?誰?」
振り向くと背中に羽のある少年が後ろで羽ばたいている。
「てっ、天使??」
「僕はここの住人だよ」
「住人!俺たちは自分のスキルを知りたくてここまで来たんだ」
「森羅万象の巫女に会いたいのかな?」
「ここの長なのかしら?」
「そうだね。君たちはここを見つけられたんだから会う権利があるんだと思うよ」
羽のある少年は優しい笑顔で道を示し、天樹まで案内してくれた。
「すごいっ。天にも届くような大樹ね」
「こんな大きな木初めて見たよ」
直系50m以上は枝を茂らせた光によって七色に輝く大樹だ。
「ジュールだよ。お客様をお連れしたよー」
少年はジュールというらしい。
天樹に向かって叫んだ。
柔らかな風にのって真っ白な大きな羽を羽ばたかせた美しい女性が2人の側に降り立った。
ジュールが自分の羽を1本抜いてふっと息を吹きかけると羽の椅子が出現した。
「お客様にもお出しして」
俺たちはふかふかの羽の椅子に腰掛けて森羅万象の巫女と向き合った。
「俺は記憶が見られるスキルをもっているんだけれど、正しい使い方やもっと他にも使い方があるのか知りたくてここを探して来たんだ」
「伝説のレミニセンスだが、まだほんの少ししか使いこなせないようだな。そちらのお嬢さんはキラーなるものか」
「はい。自覚してからは強くなれたんですが、まだなにもわからないんです」
巫女はそのあとヨガのような身体の鍛え方を伝授してくれた。
「まだまだだ。へその下より指3本くらいの場所を意識しなさい」
2人は汗だくになりながら巫女の指導をうけた。
俺は意識の集中を腕から手のひらに放出してほんの少ない記憶を蘇らせたり、見なくてもいいものを遮断できるようになった。
マノンは相手の力を自分のものにして、剣の力を数倍にしたり、特に瞬時に後ろをとる技術は目を見張る進歩だ。
「そなたたちは平和をもたらす曇りなき心の持ち主だ。世界の安寧を司る天樹が共鳴したようだ。知輝の力はこの天樹の根が世界のことわりを記憶するように、まだまだ拡がっていくだろう」
その後、キャラバンの全員が歓待をうけて、食べたことのない果物やシャンパンに舌鼓をうった。中でもコーヒーに似た飲み物に俺は歓喜した。
「知輝それちょっと苦くない?」
「マノンは子供だな」
なんか日本にいた頃にしたような会話がなつかしい。
俺たちの滞在は一ヶ月に及んだ。
ベッカーの風のスキルの上達もすごい。
ウィンドウォールという風による防御は俺たちを力強く守ってくれる。
魔法陣を自在に操り、風を司っていく。
そうそう、ベッカーは長身で銀髪のロングヘアがトレードマークのイケメンだ。
「惚れてしまうぞ」とよくちょっかいをかけて
「知輝吹っ飛ばすぞ」と怒られる。
俺の記憶の置き換えや記憶の削除も攻撃系として役立ちそうだ。
ただし、記憶の置き換えは俺がまだまだな為、脳内をひよこでいっぱいにするくらいが今の限界だ。
模擬戦でベッカーにひよこを使ったらマジ吹っ飛ばされたので使えるかもだが。
さてさて、ついに帰途につく日だ。
「巫女様また必ず戻って来ます」
マノンは泣きながら巫女様に抱きついて別れを惜しんでいる。
巫女様は天樹の葉を一枚マノンに渡した。
「これは天樹との繋がりを証明するものだ。困ったらいつでも戻ってくるんだよ」
全員が驚くほどにスキルアップして、天樹の下の青白い輝きの中に入った。
帰りは巫女様が転移魔法で送ってくれたのだ。




