10)その事件の波紋
俺たちは懐かしいベルクソエル城の前に降り立った。
「お父様お母様マクシム、ただいまー」
「マノンちょっと見ないうちに大人っぽくなったな」
あいかわらずイケオジ領主は娘にベタ惚れだ。
「お前たち落ち着いたら応接室にきてくれ。話がある」
領主の応接間にいくと領主と側使いが数名待っていた。
「知輝殿はじめ皆の者この度はご苦労であった。後ほど帰還を祝って宴を用意したが、取り急ぎいまベルクソエルで起きている事件の詳細を聞いてくれ。クラウス説明を」
執事のクラウスが説明を始めた。
「キャラバンが出立した後、一週間後くらいから街に炎影というスキルを使う男をカシラとした盗賊団が出没するようになった。
炎と影を融合させた強力なスキルで領民を恐怖においやっている。ただし、暗闇で影の力を増幅させるので出現するのは夜のみだ」
「盗賊団は何人くらいですか?」
「カシラを入れて3名ということだ」
「アジトを見つけて捕獲する計画をたてましょう」
翌日から聞き込みが始まった。
炎影の盗賊に襲われた領民はかなり怯えている。
これなら記憶はまだ十分残っているだろう。
しかし、同時に襲われた最初の被害者の老夫婦は、恐怖のあまりに記憶が違う。
夫は黒い仮面の男を記憶しているが、妻は鬼のような仮面の男を記憶している。
体型も2mは超える大男と認識しているのだ。
森羅万象の巫女も言っていたな。
人というのは個々の思いによってその記憶を改竄する生き物と。
他の被害者とも会ってみたが、ほんとに恐かったんだろうなと同情する。
若い女性の記憶は黒い炎で焼き尽くされるというものだった。
「知輝殿、農場の男から、最近使っていない納屋に誰か侵入しているようだと相談があったんですが調べてみてもいいかも知れません」
「やつらが出没するのは夜だから、今頃は身を潜めている可能性もあるな。隠蔽の外套を着ていくぞ」
隠蔽の外套は一定時間姿を隠す、すぐれものの魔道具だが、難点は味方にも見えずトラブルが起きる。
しかし、巫女様からの伝授で繋ぐ意識というスキルを発動させれば、繋いだものには見えるという便利な魔道具だ。
納屋が見えて来たので林の中で隠蔽の外套を着て、それぞれ手を繋ぎ、意識を繋いだ。
「枯葉を踏まないように気をつけろよ」
「まずはベッカーが先に行って様子を見てくれ。なにかあれば吹っ飛ばしていいから」
「はい。行って来ます」
ベッカーは納屋の小さな窓から中を覗き込んでいる。
やがて隠蔽を解いて正面の扉を開けた。
「ちょっと、ベッカー」マノンが思わず声をあげた。
1〜2分するとベッカーが出て来て「ここはハズレです」と叫んだ。
みんなで納屋に行くと、たしかに誰かがいた痕跡はあるが、人の気配はない。
「子供が食べ物を探して侵入したのかしれませんね」
「知輝さん、ちょっとお話いいですか?」
元農民でありながら侵食のスキルをかわれて騎士団に入団したノクス・ヴァレンだ。
「私は農作業や工事に向くスキル腐食の持ち主です。その後、侵食のスキルが目覚めました」
「腐食って農業系だったんだ?」
「はい。堆肥作りやチーズ作りなどにも応用します。今回の炎影も実は農業系スキルが元で、荒地の枯れ草を一掃したりするので、盗賊団は農民では?と推測してみました」
考えるといままでの被害者は地主一家だったりする。
しかも、金品を奪うだけで傷つけてはいない。
「よし、農民に聞き込みをしてみようか。ノクスなら知り合いもいるだろうから頼むぞ」
「はい。心当たりをあたってみます」
ノクスが次の報告で新しい情報をもってきた。
今年は不作だったのに小作民だけが苦しめられていたそうだ。
そして、病気になった子供に薬も与えられずに愛娘を亡くした炎影のスキルの持ち主が浮上した。
そしてその夜、炎影のスキルの持ち主ハンスの家を少し遠くから見張っていると、黒づくめの3名が出て来た。
「ハンスだな?話があるのでちょっといいか?」
男たちは短剣を構えてこちらの出方を見ている。
「ハンス俺だ。ノクスだ。話は知っている。落ち着いて話そう」
ノクスが前に出た。
「騎士団に入ったおまえにはわからないさ。死にたくなければどけ」
「ハンスおまえのことは領主にもかけあうから、武器を捨ててこちらにこい」
知輝も叫んだが、もうハンスは止まらない。
炎影のスキルでノクスを黒い炎で包んだ。
「ノクス下がれ」
水系スキルのものが激流を使ってノクスの火を消し止めている。
しかしハンスはジャンプした後、短剣をノクスの胸に突き刺した。
即座にベッカーがウィンドエッジで動きを止めるとマノンがすばやくハンスを蹴り上げ、逃げ惑う残り2人も後ろ蹴りにしてスキル無効の魔導拘束具で取り押さえた。
「ノクスしっかりして」
ヒーラー系がヒールを何度もかけているが、まだ目を覚まさない。
すぐに神殿へ搬送したが、回復までに数時間かかった。
もう少し傷が深ければ助けられなかった。




