2)出会いは突然やってくる
数日後、城下町をうろつきながら昼飯はなんにしようと歩いているとフードを被った女性がぶつかってきた。
「もっ、申し訳ございません」
「いえ、大丈夫ですか?」
その肩に触れた時、またあの電気が走って、恐怖の感情がなだれ込んできた。
「えええっ、もしやストーカーにあっているんじゃないのか?」
「えっ?ストーカーってなんですか?」
「そうか、この世界ではわからないか。うーんと、ヤバい奴につけ狙われていないか?」
「な、なんでわかるんですか?」
この前、酒場であった冒険者が憎悪していたのがこの女性なのだ。
「俺の話を信じてくれるか?」
女性は小刻みに震えながらも頷いてくれた。
「俺は召喚者なんだ。まだスキルがわからなくて困っていたんだが、もしかして憎悪や恐怖という強い感情の記憶の断片がわかるのかもしれない」
なんと令嬢はこの土地の領主の娘だった。
今日は侍女とお忍びで町に買物にきたが、あの男をみかけて怖くなって逃げ出したそうだ。
「もしよろしければ警護もかねてお城にいらっしゃいませんか?」
薄いピンクの長い髪をゆるりとツインテールにした美少女に誘われて断る意味がない。
いやいや、元刑事としてここで令嬢を置いていくわけにはいかず、共に城に向かった。
「お嬢さま〜。心配していたんです。侍女がお嬢様とはぐれたと泣きながら帰ってきたので、いま衛兵を集めていたんですよ」
「ごめんなさい。この方に助けていただいたので、警護とお礼のために城に来ていただきました」
奥からキリッとしたイケおじの領主アンリ・ベルクソエル公爵が顔を出した。
「娘を助けてくれたそうだな。礼を言う。よかったら礼をかねた会食につきあってくれんか」
見たこともない大きな暖炉の前に長いテーブルが置かれ、天井にはキラキラと煌めくシャンデリアが3つも下がっている。
床にはふっかふかの絨毯が敷かれており、日本人として靴を脱ぎたい気分になる。が、いやいやそれは恥ずかしいか。
興味津々に周りを見回しているうち
「さあさあ、こちらのお席へ」
侍従に即され着席するとシャンパンが運ばれてきた。
「お料理の準備が整うまで、しばしお待ちください」
めちゃめちゃ高級そうなシャンパンだな…
一口飲むと、これは日本だったら一本開けたら90万はする代物じゃないかと余計なことを考えてしまう。
やがて着替えを済ませた令嬢や領主たちも席に着いた。
「小早川知輝殿、今日のことは礼を言う。娘はここのところ誰かに追われているようで憔悴しておった。今日は天気もよいので侍女との外出を許したが生きた心地はしなかったぞ」
令嬢のなまえはマノン・ベルクソエル。まだ16歳だ。
席には他に金色の髪が美しい母のミュゲ・ベルクソエル、甘やかされて育った感じのマノンの弟のマクシム・ベルクソエルが着席して宴が始まった。
「マノンからちらっと聞いたのだが、今回はそなたのスキルのおかげというのは本当か?いったいどんなスキルなんだ」
俺は日本での仕事の説明からスキル探しと事細かく説明した。
「ふむふむ、ということは前世では騎士団に所属しておったというところだな。しかしそのスキルは諸刃の刃といえよう」
「諸刃の刃?」似たなまえのアニメがあったなとちょっと笑いがこみ上げたが、ここでは通じないと黙った。
「そなたの前の仕事では素晴らしいだろうが、一般でそのスキルを使われると嫌なものも多いだろう。悪巧みを企てている役職の高いものや密偵などはそなたを嫌がるに違いない」
「確かに密かな企みを読まれてしまっては困りますね」
「よし、そなたを領主直属の官職につけようではないか。スキル証明書は内々に発行するゆえ、スキル申請局にもいかずによいぞ」
「俺は公安部というところかな?あっ、公安とは隠密みたいなもので」
「それはいいな。では第一騎士団公安部ではどうか?」
「ぶっ」
思わずシャンパンを吹き出しそうになりながら
「召喚されて公安勤務かー」とちょっと笑った。
そしていくつかの鍛錬とテストを重ねたのち、俺は第一騎士団公安部のトップとなった。下につくものはもちろんスキルで厳選した精鋭だ。
さてさて、お嬢様をつけ狙うストーカーを最初に処理しないと。
安心して城下にいけないなんてかわいそうだ。
16歳なんて遊びたい年頃だよ。
しかし、記憶を見たといってもなぁ〜。
前世だったら頭がおかしいと思われそうだが、この世界ならそれでも牢獄にぶち込めそうだが、どうしたものか。
小早川知輝は思考を巡らせた。
数日後、マノンは町の学校の視察に出かけることとなった。
護衛の騎士数名と侍女、そして俺も付き添った。
視察は2〜3時間かかるので護衛を騎士にまかせて、俺は外で時間を潰すことにした。




