16 その先に
一方、俺たちを神父に渡したベッカーとノクスは大急ぎでベルクソエル城地下の拠点に戻った。
まだかまだかと待っていたマノンは
「なんで知輝と水瀬さんがいないの。どうしたの。なにがあったの?」
大声でまくし立てている。
「マノン落ち着いて、まず話を聞いて」とマノンの目線に腰をかがめてノクスが優しく語りかけた。
後から来た領主も
「マノンおまえは騎士だろう」となだめて、やっとベッカーが全容を説明した。
「明日一緒に申請局に行くわ。知輝と水瀬さんを帰してもらうわ」
「マノン、2人は納得して潜入したんだよ。理解してあげないと可哀想だろ」
ベッカーがマノンを説得している。
翌日、着いて行くというマノンに
「いま2人は騎士団のことを隠して、ただの召喚者だ。マノンが感情的になったらすべて台無しなんだよ。それができないなら騎士を辞めてもらう」
ノクスが思いの外強い口調で言うと、マノンも諦めたようだ。
「わかったわ。それなら2人をサポートする方法をシュミレーションしましょう」
頭はいい子なので騎士団としての責任感を取り戻せば、やることは早い。
「2人なら神殿まで乗り込む可能性があるな」領主は思考をまとめられずにいる。
「王都にいく可能性があるのなら、とにかく教会や申請局の近辺を張り込みましょう。彼らをみつけたら密かにつけるのがいいですね。せっかくの計画を台無しにしたらもったいない」ベッカーは2人を尊重している。
領主もうなづきながら
「知輝がここに来て以来、この国はどんどん変わってきている。神殿の特権領域もいつかは手をつけなければと思っていたのだが…」
「召喚門もこの国に才のあるものをということしかわかりませんね」
「その才を神殿がどうしているのか不明です」
「そこに踏み込むにはオプシディアン王と話をしなければならない。もしオプシディアン王が神殿と繋がっていれば関係性が悪くなる可能性もある」
ベッカーは翌日、申請局に行ってみた。
「昨日はありがとうございました。騎士団のものですが」
「あっ、昨日の方ですね」
「召喚者はどうなりましたか?」
「教会の方がお連れになったままなので、こちらではわかりかねます」
「昨日の神父を呼んでもらえるか?」
しばらくして
「神父様は明日の王都行きで多忙らしく、2人はこちらにおまかせくださいということです」
「昨日の喧嘩で壊れたものについて2人に話したいんだが」
「申し訳ないが、私はとくに権限がないんでまた来てくれないか」
「またくると神父に伝えてくれ」
神父が王都に行くと聞いて、もしや元輝と水瀬もとベッカーは考えながら帰還した。
「残念ながら元輝と水瀬には会えませんでした。ただ、明日、神父が王都に行くそうです」
ベッカーが戻って報告すると、皆、あいつらうまくやってるかもという表情をした。
「明日は神父をガッツリマークするぞ。王都まで追跡するんで、皆用意するように」
ベッカーは気合いを入れて指示している。
しばらくするとマノンがたくさんの衣装や化粧道具を抱えてきた。
「農民と商人とどれがいい?旅芸人でもいいわよ」
「ベッカーと俺は顔がバレてるからなぁ」
「大丈夫よ。こんなに衣装あるんだから」
「俺は隠蔽の外套でいいだろ。ノクスだってそっちでいいじゃないか」
マノンは呆れた顔で
「隠蔽は一定時間って知ってるでしょ。さあさあ、ベッカーは馬車の御者、ノクスは商人ね。他の人も工夫や農民の衣装を選んで。髪の色も変える人は並んでね」
いよいよ翌日、密偵が未明から教会を張り込んでいる。
夜が開けると教会の前に馬車が5台並んだ。
何をそんなに運ぶのだろう。
「ノクスほら」ノクス商人のメイドになりきったマノンが腕を突いた。
「あっ、知輝と水瀬だ」
知輝と水瀬はとても重そうな木箱を馬車に積み込んでいる。
「あんなに荷物を積んだら馬車はゆっくり走るだろうから余裕で追跡できるな」乗合馬車の御者に扮したベッカーがほっとした様子だ。
短髪で帽子を被り、体型もふくよかにしたベッカーに知輝と水瀬も気づかないかもしれない。
「それにしても重そうな荷物だ」ノクスが不審そうに見ている。
「旦那様そろそろ馬車にお願いいたします」
「わかりました」
マノンはノリノリでメイド役を楽しんでいる。
教会の馬車が整う頃
「こちらの馬車は王都までいくですかいな?」
ベッカーが喋り方も変えて教会の馬車の御者に喋りかけた。
自分たちの乗合馬車も王都に行くのでご一緒しましょうと話をつけた。
御者は盗賊や魔獣の心配もあるので仲間が多い方が安心と、喜んで快諾してくれた。
馬車はところどころ休みながら暗くなる頃に、最初の宿のある場所にたどり着いた。
教会の馬車は荷物を見守るために一部のものが野営している。
マノンはラッキーという顔をして、野営しているものたちの方へ足を運んだ。
焚き火にあたりながら休んでいるものたちの方へ軽やかな歩みで近づくと
「みなさんお疲れ様です。よかったらうちの商品のクッキーはいかがですか?」
「お、美味しそうだなひとついただくよ。あっ??!!」
よく相手を見ずに話していた知輝がフリーズしている。
しかしすぐ我にかえり、
「お嬢さんありがとう」と言った。水瀬は相変わらず気づかずに
「うまいなこれ」と喜んでいるが、元輝に睨まれて状況を把握したようだ。
「お嬢さんも王都まで行くのかい?」
「はい。旦那様が王都の商会と取り引きに行かれるので着いてまいります」
元輝は面白そうな顔をしながら
「豪商のメイドさんかな?」
「はい。大きな取引をしている名家にお仕えしております」
「気をつけていくんだぞ。なにかあれば俺たちにいってくれ」とウィンクした。
「お兄さんたちこそ気をつけてくださいね。外は虫も多いですから」
虫嫌いの元輝がすごくいやな顔をしたので水瀬が大笑いしている。




