15)潜入
「お待たせして申し訳ない。とりあえず再検査してみましょう」
「ちゃんと測定できるのかよ」
しぶしぶと手を乗せる知輝。
一部が薄い青に光るのを見た調査官は
「はい、次の人」とそっけない
水瀬が手を乗せて薄い青緑になって終了という瞬間、スキル過剰なのか、端の方がゴールドに光り出した。
ヤバいヤバい心拍数があがってきた。
「えっ」調査官が近づいてくる前に俺は、指輪に集中して水瀬の背中に手を置いた。
思った通り元の色に戻った。元輝の指輪の力が注がれたようだ。
「今、ゴールドに輝かなかったか?」
頭をかしげる調査官に間髪入れず
「えっ?なんのことです?」とベッカーが言い放った。
水瀬は「ゴールドなのか?ラッキー」とおちゃらけて、
知輝は「こいつがゴールドなら俺もゴールドだろ」と詰め寄った。
ノクスがすごく冷静に
「目のせいですね。医者に見てもらった方がよいかと思います」と低く重い声で伝えると調査官も完全に気のせいかと落ち込んでいる。
ノクスの真面目キャラはいいよなっと元輝はほっとした。
畳み掛けるように水瀬が言った。
「どうだ、いいスキルだろ?なんか特別の任務とかあるんだろ」
「申し訳ないが、このスキルでは特に上には報告できかねます」
「そんなこと言われても俺たちどうすればいいんだよ。他の召喚者にも会わせてくれよ」
「召喚者は神殿の管轄で、私は一般の調査官ですので…」
今日は冴えてるノクスが
「このまま放免になるとまた暴れる可能性があるので、俺たちも着いていこう。神殿関係者に繋いでくれ」
「今確認するのでお待ちください」
しばらくして調査官が帰ってきた。
「お話は聞いてくれるので、皆さまこちらへ。この奥が神殿管轄の応接室なので、しばらくお待ちください」
ギギギっ。扉が開くと神父の装いの男が入ってきた。
「召喚者とお聞きして取り急ぎお目にかかることになりました」
「俺たち勝手に放り出されても仕事もないし困るんだ」
「もう街中にふれ回るぞ。今日もなにも食ってないんだ」
「とりあえず本日は教会の方でおやすみください。お食事も用意します。騎士団の方は今日はお引き取りください。改めて連絡いたします」
「こちらも報告義務があるから明日またくるので2人を大人しくさせといてくれよ」
「はい。承知いたしました」
ベッカーは気づかれぬようにウィンクしてノクスと外に出た。
応接室の入ってきた扉とは逆の扉を出ると長い廊下が伸びている。
そしてまた扉を開けると倉庫があった。
そして倉庫に入って横の棚を移動すると地下に続く階段があり、その先にもまた長い廊下が続いている。
申請局から神殿まで繋がっているのか?
いや神殿は王都だから、ここはまた別の隠れ家か。
知輝はとにかく周りを見渡して記憶に刻み込んでいた。
いくつか扉があり、そのうちの大きめな扉を神父が開けた。
ガシャッ
「こちらにどうぞ」招き入れられた部屋は田舎の小学校みたいな雰囲気の場所だ。
地下なので窓がないため蝋燭の灯りだけで、陰鬱な空気が流れている。
そこで何人かの男女が食事をとっている。
「ここは正教ベルクソエル分院の地下になります。ベルクソエルでの布教のために働いている者たちの食堂ですので、今日はここでお食事をとられて別室でおやすみください」
白い装束の女性が2人分の食事を目の前に置いた。
神父に勧められるままに席につき食事を始めた。
元輝と水瀬はあくまでも偶然会った召喚者の設定で言葉を交わしている。
「大学の学食みたいだな」
「ワインあるみたいだよ。もらってくるか」
「今日はいいや」
そして元輝は1人で食事をとっている20代半ばの青年の隣に移動した。
「話してもいい?」
栗色の短髪の青年は
「あっ、はあ」と驚いている。
「あなたも召喚者なの?」
「そうです。ここにいるのはみんな召喚者じゃないかな」
「いつからここにいるの?」
「もう1年くらいかな。あなたも召喚者なんでしょう?」
「そうだよ。俺とあいつは日本から召喚されたんだ。あなたは?」
「キルギスだ」
「キルギスか。いいところだよな」水瀬も会話に混じってきた。
そして知輝と水瀬は話をしてくれそうなテーブルを回り、いろいろ確認した。
国も性別もバラバラだが、基本的には20代から30代。そして職業がなにか国家に関わっていることだ。ランダムで召喚するならパン屋さんとか花屋さんがいても不思議ではないが、軍の関係者や研究者、技術者で占めていた。
偶然なのか意図したものなのか、2人はそれぞれに考えを巡らしていた。
食事が終わると元輝と水瀬はベッドだけの狭い部屋に案内された。
どこで話を聞かれるかわからないから、必要なことは手のひらに文字を書いて伝えて、
あとは大きな声で演技している。
「なんでおまえと同じ部屋なんだよ」
「俺だって1人になりたいさ」
翌朝食事が終わると施設の上層部と思われる神父が話を聞いてくれた。
「ここは正教が崇めるヌーマイト神を信仰する者たちの場だ」
「召喚者も信仰してるのか?」
「はい。正教の素晴らしさに目覚めて皆さん信仰されております」
「俺は俺のことしか信じてないから無理無理」
「小早川くんよ、ここは信仰しますって言った方がいいじゃないか?俺は信仰しちゃうよ」
「水瀬さん適当なことを言わないでください」
俺は迷っていた。ここは信仰するを選んで内部から調査するか、しないを選んで少し強引に調査するか。
水瀬はどう考えているんだろう?
そして水瀬が口を開いた。
「信仰するからには王都にある神殿に行ってみたい。神殿長のありがたい言葉に感銘したら信仰しよう」
「明後日、神殿への届け物の馬車が出る。ちょうど人手も足りなかったので、君たちそれを手伝いなさい」
「わかりました。明日は外で美味しいもの食べてきてもいいですか?」
「明日は荷物の運び出しもあるんで我慢してくれ」
「えええ、そんな〜」
俺たちは騎士団に情報共有できないまま王都にいくはめになった。




