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厄介払いされた寒村で幼馴染と武器庫を育てたら、手柄を狙う本家が手出しできない近代要塞都市になっていた  作者: わわわ


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第46話 冬期特別治安維持費

馬上の男が放った怒号が、凍てつく雪原に木霊した。

雪煙が風に舞い散る中、俺は除雪された土手の前で足を止める。


「俺がコルト村領主代行、クラウス・ベルンシュタインだ」


声を張り上げることもなく、静かに告げた。

だが、静まり返った雪道には十分に響き渡ったはずだ。


馬上のヴァイスは鉄甲冑を軋ませ、手綱を握り直した。

肩を覆う分厚い熊の毛皮の外套が、寒風にバサリと揺れる。

男は細めた目で、俺の全身を舐めるように見下ろした。

貴族らしい豪奢な装飾もなく、作業着の上に厚手の外套を羽織っただけの俺の姿に、男の口元が露骨に歪む。


「ほう。貴様が三男のクラウスか。噂通りの貧相な身なりだな」


ヴァイスは馬上で鼻を鳴らした。

十数歩の距離を挟んで、男のぎらついた視線が突き刺さる。


「供の一人も連れずに一人で出てくるとは、随分と舐められたものだ。それとも、供回りをつける金もないほど落ちぶれたか」

「無駄な出迎えが必要な相手には見えないだけだ。用件を聞こう。本家の徴税騎士が、槍を抱えた私兵を二十人も引き連れて何をしに来た」


俺が淡々と問い返すと、ヴァイスは不快そうに太い眉を吊り上げた。

持っていた革の鞭を振るい、街道の後方を指し示す。

そこに控える大型の荷馬車二台は、隙間から見える荷台が完全に空だった。最初から村の物資を根こそぎ積み込んで持ち帰る算段だ。


「本家の長男、ジュリアン様の名代として沙汰を伝えに来たのだ。耳の穴をかっぽじってよく聞け」


ヴァイスは胸を張り、尊大な声で告げた。


「冬期特別治安維持費として、コルト村に蓄えられた食料全量、および金貨三十枚を追加徴発する」


平然と言い放たれた言葉に、背後の土手の陰から息を呑む気配が伝わってきた。

食料全量と金貨三十枚。冬を越すための備蓄をすべて奪い、到底払えない大金を要求する略奪の宣告だった。


「冬期特別治安維持費だと?」

「そうだ。北西の魔境に隣接するこの寒村を守るため、本家が特別に兵を動員し、治安を維持してやるための費用だ。本格的な豪雪で道が閉ざされる前に、そこの荷馬車へすべての食料を積み込め。金貨も即座に差し出せ。拒むならば伯爵家への逆徒と見なし、力づくで接収するまでだ」

「断る」


俺は間髪を入れずに答えた。

ヴァイスの嘲笑がピシリと凍りつく。


「何だと?」

「今年度の年貢である金貨五十枚は、期日前に領都の本家会計窓口へ満額納入済みだ。すでにベルンシュタイン伯爵家の正統な家印と、会計官の受領割印が押された正式な受領証を受け取っている。村の執務机に保管してある」


俺は一歩も引かず、馬上の男をまっすぐに見据えた。


「本家の法と正規の手続きに従い、今年度の納税義務は完全に果たした。名目を変えた二重徴税や、根拠のない追加徴発に応じる義務はどこにもない」


ロバートが届けてくれた受領証には、伯爵家の正統な家印が鮮やかな赤の封蝋で押され、会計官の受領割印が記されている。

法的な正当性は、完全にこちらにあった。


だが、ヴァイスの反応は嘲笑だった。

男は喉の奥を鳴らして笑い、馬上で肩を揺らした。


「受領証だと? そんな紙切れ一枚が何になる!」

「本家の正規の証書だ。それを無視するなら、伯爵家自身の決定を否定することになるぞ」

「知れたことか! 本家が領主であり、貴族である以上、本家の決定こそがこの地の絶対の法だ!」


ヴァイスは鞭を乱暴に振るい、空気を鋭く引き裂いた。


「ジュリアン様が寄越せと仰せなのだ! 辺境の虫けらが生意気にも蓄えを溜め込んでいること自体が罪なのだよ! 出来損ないの分際で、本家に逆らえるとでも思ったか!」


道理を通す気など微塵もない。

村が蓄えを作ったと聞きつけ、力づくで奪い取ることだけが目的だった。


「ジュリアン兄上の差し金か。相変わらず浅ましいな」

「貴様、ジュリアン様を愚弄するか!」


ヴァイスの額に青筋が浮かぶ。

男は手綱を握り潰さんばかりに力を込め、腰の長剣に手を伸ばした。


「出来損ないの三男坊が、辺境で調子に乗りおって! 逆徒としてここで成敗してやってもいいのだぞ!」

「やってみるか?」


俺は冷ややかに言い放った。

意識の奥にある武器庫を探る。

第3階層の空間に収まるマスケット銃の冷たい鉄の感触が、いつでも手元に喚び出せる位置にある。

さらにその奥、突き当たりにある新たな鍵穴から漏れ出る青白い光が、静かに灯っていた。

俺の合図一つで、土手の陰に潜むダンたちのクロスボウが、この男の喉元と心臓を同時に射抜く。


ヴァイスはぎらつく目で俺を睨みつけ、柄を握った右腕を震わせた。

そのまま長剣を一気に引き抜く。

鋭利な鋼の刀身が雪明かりを浴びて青白く輝き、切っ先が俺の胸元へと突きつけられた。


背後の土手で、微かに木が軋む音がした。

ダンが引き金に指をかけ、照準を合わせた音だ。

俺は背中越しに軽く手をかざし、まだ撃つなと無言の合図を送る。


切っ先を突きつけられながらも、俺は眉一つ動かさずにヴァイスを見返した。

その動じない態度に、ヴァイスの目が僅かに泳いだ。


男の視線が、俺の背後へと向く。

除雪された通路の先、頑丈な家屋の煙突から立ち上る生活の煙。そして西の奥に聳える防壁の威容。

飢えと寒さで死にかけているはずの寒村の姿ではなかった。


さらに、ヴァイスの背後に控える私兵二十名。

彼らは長旅の疲労を色濃く滲ませていた。

悪路の山道で深い雪を踏み分けて進んできた強行軍だ。息は白く乱れ、足元の雪に足をとられ、槍を構える手も悴んでいる。

整然とした村の佇まいと、俺の落ち着き払った態度に、兵たちの間に動揺が広がっていた。


ヴァイスの視線が、息を切らす自らの私兵たちと、雪の道を往復する。

鼻先で冷たく息を吐き出すと、その唇に再び尊大な笑みが戻った。


「……フン」


ヴァイスは鼻を鳴らし、突きつけていた剣を引いた。

ジャリンと音を立てて、刃を鞘へ叩き込む。


「悪路を急がせたせいで、兵も馬も草臥れている。今ここで貴様のようなゴミを細切れにしても、興が削げるというものだ」

「引き返すなら今のうちだぞ。筋の通らない略奪に差し出す穀物も金貨も、この村には一粒も一枚もない」

「ほざけ! 一晩だけ恐怖に震える時間を恵んでやる。凍える小屋の中で、己の無力さを噛み締めて待つがいい!」


ヴァイスは馬首を乱暴に巡らせ、街道の後方へと馬を進めた。

そして馬上で振り返り、雪原を引き裂くような怒号を叩きつけてきた。


「明日の朝、力づくで接収する! すべての食料と金貨を揃えて、街道に平伏して待っていろ! 逆らう者は一人残らず叩き斬る! 首を洗って待つがいい!」


吐き捨てるように怒鳴ると、ヴァイスは馬腹を蹴った。

私兵たちへ怒声を浴びせ、街道の入口に荷馬車を控えさせて陣を敷くよう命じている。


軍馬の蹄が雪を蹴立て、遠ざかっていく。

俺はその背中を、冷たい視線で見送り続けた。


「……領主代行様!」


雪を蹴る音がして、土手の陰からダンが駆け寄ってきた。

クロスボウを手にした哨戒の二人も、緊張で強張った顔のまま立ち上がる。


「大丈夫でしたか!?」

「ああ、問題ない。よく手を出さずに我慢してくれた」

「あんな理不尽な言いがかり……! 食料全量に金貨三十枚なんて、村中の人間を飢え死にさせる気です!」


ダンが悔しげに奥歯を噛み締めた。

手にした木製レバー式のクロスボウを、怒りで震わせている。


「最初から力づくで奪うことしか頭にない相手だ」

「明日の朝、攻め込んでくる気です。どうしますか、領主代行様」

「迎撃する」


俺は即座に答えた。

迷う理由など何一つない。


「村の食料も金貨も、俺たちが汗を流して手に入れたものだ。理不尽な強奪者に渡すものは何もない」


振り返ると、冷え切った朝の風が雪原を吹き抜けていた。

村の広場や集会所では、シェリーやボルドたちが待っているはずだ。


「ダン、哨戒は交代で街道の警戒を続けろ。敵が一歩でも境界を越えたら、すぐに知らせろ」

「了解です!」

「俺は集会所へ戻る。ボルドさんやシェリーと、明朝の迎撃策を詰める」


俺は雪を踏みしめ、村の中へと歩き出した。

居場所を脅かす敵には、容赦なく鉄槌を下す。

明日の朝、本家の傲慢な連中に、この村がかつての寒村ではないことを思い知らせてやる番だった。


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