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厄介払いされた寒村で幼馴染と武器庫を育てたら、手柄を狙う本家が手出しできない近代要塞都市になっていた  作者: わわわ


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第4話 冷えた炉火と老鍛冶師

翌朝、板壁の隙間から差し込む冷たい光で目が覚めた。

毛布を畳み、身支度を整えて外へ出る。

広場の冷気は肌を刺すように鋭かった。

小屋の前の焚き火跡では、すでにシェリーが待っていた。

昨夜は悔しさに瞳を潤ませていた彼女だが、今は村長代行としての凛とした表情に戻っている。


「おはよう、クラウス。昨日の話、本気なんだよね?」


「ああ。村を守るためにも、まずは道具と防衛の要を確かめたい。鍛冶場へ案内してくれ」


「分かった。案内するね」


昨夜交わした方針を実行するため、俺たちは歩き出した。

村の現状を確かめるべく、鍛冶場へ向かう途中で共同食料庫へ立ち寄る。

太い丸太と土壁で組まれた食料庫の中は、薄暗く冷え切っていた。

並んでいる棚の大部分は空だ。

わずかに残されているのは、乾燥して黒ずんだ干し肉の束と、泥のついた傷みかけの根菜ばかりだった。

穀物を蓄える大きな木樽も、底が見えるほど減っている。


「これが村の全備蓄だよ。秋の収穫まで持たせる計算だったけど、とても冬まではもたないの」


シェリーが唇を噛み締めて呟いた。

外へ目をやると、粗末な麻布を巻き、寒風に身を縮めて歩く村人たちの姿が見えた。

痩せこけた頬と、地面に落ちた視線。

理不尽に耐えながら生きる人々の姿に、胸の奥が鈍く痛んだ。

この寒村を見捨てるつもりはない。


食料庫を出て、俺たちは村の奥へと向かった。

岩肌が露出した北側の斜面の麓に、石造りの煙突を備えた小屋が見えてくる。

コルト村の鍛冶場だ。

だが、煙突から煙は一筋も上がっていなかった。

作業場に足を踏み入れても、槌の音もふいごの音も聞こえなかった。

部屋の中央にある炉の火は完全に消え去り、底の灰が白く冷え固まっている。

大きな金床は角が激しく欠け、赤茶色の錆が浮いていた。

壁の棚や土間には、刃こぼれした古いクワや、柄の折れたスキ、先が丸まったナタが無造作に転がっている。

どれも長年手入れをされず、打ち捨てられたような有様だった。


「ボルドさん、いる?」


シェリーが声をかけると、奥の作業机の影から重い足音が響いた。

現れたのは、禿頭に豊かな白髭をたくわえた筋骨隆々の老人だった。

丸太のように太い腕には、無数の火傷の痕と古傷が刻まれている。

煤けた革エプロンを身につけ、手には半分ほど中身の残った安酒の瓶を握っていた。

老鍛冶師ボルドだ。

ボルドは酒臭い息を吐きながら、濁った目で俺を頭の先から爪先まで見つめた。


「シェリーか。……んで、そっちの小綺麗な服を着た若造は何だ。見かけねえ顔だな」


「ボルドさん、失礼だよ。この人はクラウス。昨日、領都から着任された新しい領主代行様だよ」


シェリーが胸を張って紹介した。

だが、ボルドは下品に鼻を鳴らし、酒瓶を口元へ運んで喉を鳴らした。


「領主代行だぁ? へっ、本家からのお偉い使いか何か知らねえが、貴族の坊ちゃんに用はねえな。この村には、あんたの華奢な手で握れるようなおもちゃの剣は置いてねえぞ。さっさと領都へ帰りな」


「ボルドさん! クラウスを侮辱しないで!」


シェリーが拳を握りしめ、気色ばんで一歩前に出た。


「この人は本気で村を立て直そうとしてるの! 本家から追放されて、私たちと一緒に戦うために来てくれたんだよ!」


普段の温厚さをかなぐり捨て、シェリーは鋭い声で言い返した。

だがボルドは気のない様子で背を向け、欠けた金床の上に酒瓶を乱暴に置いた。


「戦うだぁ? 口先だけなら何とでも言えるわい」


「なっ……」


俺はシェリーの肩にそっと手を置き、視線で制した。

侮辱されたことに対して怒りは湧かなかった。

突然やってきた見知らぬ貴族など、信用されないのが当たり前だ。

俺は冷静にボルドの姿を観察した。

荒んだ態度で酒をあおっているが、その節くれた太い指先には、何十年も重い金槌を振るい続けてきた職人特有の分厚いタコができている。

目は酒で濁っているように見えて、作業机に置かれた使い古しの槌を見る視線には、捨てきれない執念のようなものが宿っていた。


「道具の手入れがまるでされていないな」


俺が床に転がる刃こぼれの農具を指して言うと、ボルドが苛立たしげに振り返った。


「手入れだと? できるわけねえだろ!」


ボルドが怒鳴り声を上げ、足元に転がっていた刃こぼれのクワを蹴飛ばした。

乾いた金属音が冷え切った鍛冶場に響き渡る。


「手入れをするための鉄がありゃしねえんだよ! 樹海の魔物どもが暴れ出して、鉱山へ続く坑道は完全に塞がれちまった。鉄鉱石が一粒も入ってこねえんだ。クズ鉄を叩いて誤魔化すのもとっくに限界だ」


ボルドは丸太のような両腕を広げ、荒れ果てた鍛冶場を睨みつけた。


「畑を耕すスキも、木を伐る斧も、魔物を追い払う槍の穂先も、全部ナマクラだ。叩き直すための地金がねえんだからどうしようもねえ。鉄がなけりゃ、どんな名工だってただの役立たずのジジイだ! 火を入れる薪すら勿体ねえんだよ!」


吐き捨てられた言葉には、激しい憤りが滲んでいた。

シェリーが痛ましそうに俯く。

俺は散乱する赤錆びた道具を見つめ、鉄不足の深刻さを肌で実感した。


「……事情はよく分かった」


俺が静かに告げると、ボルドは鼻を鳴らし、再び背を向けて酒瓶を掴んだ。


「分かったならさっさと消えろ。無駄口を叩く暇があるなら、本家に頼み込んで鉄のインゴットでも運んでもらうんだな。もっとも、あの強欲どもがタダで鉄を寄越すはずもねえがな」


鍛冶場を後にした俺とシェリーは、広場へ向かって無言で歩いた。

冷たい風が吹き抜け、木々のざわめきが届く。


「……ごめんね、クラウス。ボルドさん、根は悪い人じゃないんだけど、鉄がなくなってからずっと荒れちゃってて」


「謝る必要はないよ。腕のある職人が仕事道具を奪われれば、誰だって腐る。実情がよく分かって助かった」


感情をぶつけられようと、現場の生きた情報が得られたなら収穫だ。

鍛冶師としての腕と誇りはまだ死んでいない。

必要なのは、あの消えた炉に再び火を灯すための決定打だ。


そう考えながら広場へ戻ってきた、その時だった。

村の西側から、激しい足音が響いてきた。


「た、大変だぁっ!」


裂けるような叫び声が、静かな村の空気を切り裂いた。

走ってきたのは、革の胸当てをつけた若い男だ。

手には粗末な木槍を握りしめている。

樹海との境界を見張っていた自警団の青年だった。

青年は息を激しく乱し、もつれる足で広場の中央へと駆け込んできた。

顔は恐怖で蒼白になり、額から大粒の汗が吹き出している。


「ダン! どうしたの!?」


シェリーが駆け寄り、声を張り上げた。

ダンと呼ばれた青年は肩で荒い息を吐きながら、震える手で村の西側を指差した。


「ま、魔物だ! 樹海狼(じゅかいろう)の群れが木柵を破って村に入ってきたぞ!」


青年の絶叫が響き渡った瞬間、周囲の掘立小屋から悲鳴が上がった。

戸口から顔を出していた老人や女たちが、一斉に恐慌に陥る。


「樹海狼だと!?」


「木柵を破られたのか!」


「逃げろ、早く家の中へ!」


村が一瞬にして混乱に包まれる。

遠く西の境界から、空気を震わせる獰猛な獣の遠吠えが幾重にも重なって届いた。

樹海狼たちの咆哮だ。

粗末な木柵を食い破り、すでに集落の境界を侵食し始めている。

逃げ惑う子供を抱きかかえる母親。足のすくんだ老人が土の上にへたり込む。

シェリーが顔を強張らせながらも、毅然として胸の前で拳を握りしめた。


「みんな、落ち着いて! 子供と年寄りは広場の奥の集会所へ! 動ける人は武器を持って――」


必死に声を張り上げるシェリーの横で、俺は静かに息を吸い込んだ。

逃げ惑う領民たちの姿と、迫り来る魔物の気配。

胸の奥で、冷徹な思考が急速に加速していく。

恐慌に呑まれる暇はない。

俺は手元へ静かに意識を集中させた。

意識の奥、武器庫の空間へ手を伸ばす。

指先に触れる冷たい鉄の感触を確かめながら、俺は西の空を鋭く見据えた。


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