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厄介払いされた寒村で幼馴染と武器庫を育てたら、手柄を狙う本家が手出しできない近代要塞都市になっていた  作者: わわわ


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第26話 完全包囲と雪の咆哮

双頭狼の先遣隊を撃退したあの日から、樹海深部の地鳴りは日ごとに近づいていた。

一週間余りが過ぎ、北西のガルム樹海から吹き下ろす風は雪を巻き込み、横殴りの猛吹雪となってコルト村を白く覆っていた。


見張り櫓の手すりには、吹き寄せられた雪が凍りついている。

防壁の内側に据えられた大型投石器の木組みにも、白い雪が吹き溜まっていた。

胸壁の狭間を冷たい風が吹き抜け、土塁と石垣の表面にも白い粉雪が張りついている。

防壁の上に立つ青年たちも、外套や革の防具に雪を被りながら、じっと木立の輪郭を見つめていた。

俺は櫓の上から、隣に立つダンとともに樹海の境界を見据えていた。

樹木をへし折りながら進む大群の地鳴りは、今や木立のすぐ裏手まで迫っている。


この村が踏みつぶされれば、すべてが終わる。

何としてもこの防壁を守り抜かなければならない。


「領主代行様、風向きが変わります」


ダンが白い息を吐きながら言った。

肩に担いだ試作クロスボウの木肌に、冷たい雪が張りついている。

革の胸当てを身につけたその顔は強張っていた。

木々がざわめく音に混じり、獣の脂と腐肉が入り混じった生臭い匂いが鼻を突く。


吹き荒れていた猛吹雪が、一瞬だけ途切れた。

視界を遮っていた雪煙が薄れていく。

次の瞬間、俺とダンの息が止まった。


樹海の木立の縁が、黒々とした異形の群れで埋め尽くされていた。


先頭に並ぶのは、数十頭の双頭狼だ。

通常の樹海狼より一回り太い胴体を低く沈め、二つの頭部から牙を剥き出しにしている。

その背後には、丸太棍棒や巨大な獣の骨を削り出した骨槍を構えたオークの集団がぎっしりと列をなしていた。

下顎から太い牙を突き出した巨躯から、白い呼気が湯気のように立ち上っている。

重なり合う魔獣の体躯によって揺さぶられた木々から、積もった雪がドサリと音を立てて崩れ落ちる。

さらに奥の木立を押し倒し、巨大魔獣の黒い影が姿を現す。

双頭狼、オーク、巨獣を合わせ、視界に入るだけでも数百頭に達していた。


西境界の正面だけではない。

北側の樹海境界に沿って、異形の列がどこまでも連なっている。

その時、防壁の梯子を駆け上がってきた青年が息を切らして叫んだ。


「領主代行様! 南と東の見張りからも報告です! 樹海を回り込んだ狼とオークが、村の外縁を塞ぎ始めています!」


逃げ場はない。

魔獣の群れは村の全周囲を塞ぎ、完全な包囲を敷いていた。


「ひっ……!」


ダンの喉から引きつった息が漏れた。

見張り櫓の上で、クロスボウを握る指先が小刻みに震えている。

防壁の上に並ぶ自警団の青年たちも、視界を埋め尽くす大軍の威容を前に青ざめていた。


かつて樹海狼に木柵を破られたときは、村中が恐慌に陥って逃げ惑うばかりだった。

だが、ここで指揮を執る俺が動揺を見せるわけにはいかない。

俺はダンの肩に手を置き、低く落ち着いた声で告げた。


「怯えるな、ダン。どれだけ群れが集まろうと、敵がこの防壁を越えられなければ負けない。持ち場を離れるな」


「は、はいっ!」


ダンが息を呑み、クロスボウの銃床を肩に引きつけた。

防壁上の青年たちも互いに視線を交わし、白くなった指で引き金に指を添え直す。

青ざめながらも、誰一人として持ち場から逃げ出そうとする者はいなかった。


防壁の内側の地面では、大型投石器の前にボルドが立っていた。

作業用の男たちとともに巻き上げ機の丸太レバーや麻縄を確かめ、太い鉄金具の締まりを金槌で叩いて点検している。

積もった雪を手で払い、石皿を固定する留め具の噛み合わせを確かめていた。

カン、カンと乾いた金属音が響いた。

親柱を叩いて確認を終えたボルドが、防壁上の俺を見上げて太く頷く。


俺は櫓の上から、広場へ向けて控えていた伝令の青年へ短く声をかけた。


「広場の非戦闘員を集会所へ入れろ。戸締まりを徹底させろ」


「了解です!」


青年が広場へ駆け戻り、まもなく集会所の前からシェリーの通る声が風に乗って届いた。

子供や老人たちを集会所の中へ誘導する声だ。

やがて広場から完全に人影が消え、重い板戸が閉じられた。

各持ち場で、備えが整っていく。


空から鉛色の光が失われ、日が完全に沈んだ。

猛吹雪が再び吹き荒れ、黒い夜が集落を覆う。


防壁の上には、吹き抜ける風と雪の音だけが鳴っていた。

青年たちは防壁の石垣に身を伏せ、雪原の向こうをじっと見つめている。

矢筒から覗くボルトの羽が、冷たい風に小刻みに震えていた。

投石器の男たちも引き綱のそばで身構え、口を開く者はいない。

吐き出す息すら白く凍りつくほどの冷気が、防壁の周囲に張り詰めていた。


その時だった。


グオオオオオオオオオッ!


夜の暗がりの中、村を取り囲む樹海の縁から、数百頭の魔獣が一斉に夜空へ向けて咆哮を轟かせた。

重なり合う咆哮が大気をびりびりと震わせ、防壁の土塁と積もった雪を揺さぶる。

飢えた無数の赤い目が雪の闇の中に浮かび上がった。


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