↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厄介払いされた寒村で幼馴染と武器庫を育てたら、手柄を狙う本家が手出しできない近代要塞都市になっていた  作者: わわわ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/47

第23話 大型投石器と羊皮紙の図面

西境界の見張り櫓の上に、冷たい風が吹き抜けていた。

手すりや床板には、数日前に降った初雪が薄く氷となって張り付いている。

俺は襟元を合わせ、隣に立つ自警団のダンとともに樹海の境界を見据えていた。


ダンは肩に試作クロスボウを担ぎ、腰の矢筒に手を添えている。

その視線の先、五十歩ほど離れた木立の奥で、雪を被った枝が不自然に揺れていた。

灰褐色の獣毛や、緑褐色の皮膚が、木々の隙間に見え隠れしている。

双頭狼とオークの群れだ。

敵は境界沿いに散開したまま、森の奥に身を潜めている。

人の背丈ほどの土塁石垣の防壁と見張り櫓を警戒し、容易には突撃してこない。

薄暗い木立の闇から、飢えた赤い瞳が村をじっと窺っていた。


「……領主代行様。奴ら、動きませんね」


ダンが息を白く吐き出し、押し殺した声で言った。


「焦って飛び出してこない分、厄介だな」


自警団に配備した十挺のクロスボウは頼もしいが、狙った敵を射抜く単射の武器だ。

木立に身を隠す相手には矢を浪費するだけで、雪原を群れで一斉に突撃された場合、十本の矢だけでは突進を止めきれない。

防壁に取り付かれる前に、密集した敵の群れを遠距離からまとめて薙ぎ払う、重量級の打撃手段が必要だった。


「ダン、見張りを頼む。少しでも敵の動きが変わったらすぐに知らせろ」


「はいっ!」


俺はダンに後を任せ、梯子を下りて広場奥の丸太小屋へ向かった。


丸太小屋の扉を開けると、竈の薪がパチパチと爆ぜる音が迎えてくれた。

部屋の中央にある木机の前で、シェリーが羊皮紙の帳簿に炭の筆を走らせている。

サイドテールにまとめた柔らかな亜麻色の髪が、手元の蝋燭の光に照らされていた。


「お帰り、クラウス。見張り櫓の様子はどう?」


シェリーが顔を上げ、ヘーゼル色の瞳を向けた。


「敵は木立の奥に潜んだままだ。本格的な包囲の形を崩していない」


俺は椅子を引き、机の前に腰を下ろした。

机の上には、村の冬支度を記した帳簿が広げられている。

シェリーが的確に差配してくれたおかげで、村の中の備えは着実に形になっていた。


「シェリー、鍛冶場からボルドさんを呼んでくれないか。防衛のことで相談がある」


「分かった。すぐ呼んでくるね」


シェリーは頷いて立ち上がり、小走りで小屋を出ていった。


しばらくすると、重い足音とともに扉が開いた。

煤けた革エプロンをつけたボルドが、太い白髭を揺らしながら入ってくる。

その後ろからシェリーも戻り、木戸を閉めた。


「呼んだか、坊主。魔物どもが動き出したか」


ボルドが太い腕を組み、だみ声を響かせた。


「いや、まだ木立の奥に留まっている。だが、敵が包囲を狭めてきている以上、雪が本格化する前に防衛の段取りを固めておきたい」


俺は机の端に置かれた納税代行の契約証書に視線を落とした。


「秋の終わりの納期まで、外からの助けはない。ロバートさんが戻ってくるまで、自分たちの力だけで魔獣を退け、村を維持し続ける必要がある」


シェリーが真剣な面持ちで頷いた。


「いつ敵が雪原を蹴って仕掛けてくるか分からないものね。防備をもう一段階引き上げないと」


「そこで、西境界の防壁に新しい兵器を据えたい。大掛かりな投石器だ」


ボルドが髭を撫でながら首を傾げた。


「投石機なら王都の工房でも見たことがあるぞ。だが、十数人の男が縄を一斉に引き絞って石を放る代物じゃ。今の村にそんな人手はねえし、人間が引っ張る程度じゃ、オークの突進を砕くような巨石は飛ばせんわい」


「縄を引く投石機じゃない。人手を使わずに巨石を撃ち出す大型投石器を造る」


「人を大勢使わずに、巨石を飛ばすじゃと?」


ボルドが目を丸くした。


「テコの長短比と、釣合錘を利用するんだ」


俺は引き出しから新しい羊皮紙を取り出し、机の中央に広げた。

炭の筆を手に取り、素早く骨組みを描き始める。


「投射腕の中心に頑丈な回転軸を通す。支点から短い側には、石を詰め込んだ巨大な錘箱を吊り下げる。長い側の先端には、弾となる石材を収める革の吊り袋を取り付けるんだ」


「……重りの落ちる力で、反対側の石を放り投げるのか」


「そうだ。持ち上げておいた錘箱を一気に落とす。箱の自重で短い腕が真下へ落ちる瞬間、反対側の長い腕がテコの原理で勢いよく跳ね上がる。先端の吊り袋が遠心力で開き、大人の胴回りほどもある巨石が高い放物線を描いて、百歩先へ叩き込まれるんだ」


ボルドが身を乗り出し、食い入るように図面を見つめた。


「資材はどうするの、クラウス? 村の木材置き場にあるのはトネリコや樫の薄板ばかりだよ。見張り櫓の丸太は全部使い切っちゃったし……」


シェリーが心配そうに問いかけてきた。


「薄板では投石器の巨大な荷重を支えきれない。だから、南の山から頑丈で太い大木を新しく伐り出す。支持架の親柱と、強い衝撃に耐える投射腕の芯にするんだ。弾にする石材も、石垣の石を切り出した南の山から運ぶ。防壁を作ったときの余り石も、まずは試射用に集めておく」


シェリーは少し眉を寄せ、思案するように指先を顎に当てた。


「南の山は大回りすれば樹海とは反対側だけど、敵が包囲を広げている今、大勢を外へ出すのは危ないよ。見張りを立てて、少人数で手早く運ばせよう。人員は私が選ぶね」


「助かる、シェリー。頼むよ。そしてボルドさん」


「おう、ワシの出番じゃな」


「投射腕を支える回転軸には凄まじい衝撃がかかる。木組みの継ぎ手を固定する帯金や、回転軸を通す太い鉄の軸受け金具を、鍛冶場で叩き出してほしい」


「任せとけ! ロバートから仕入れた地金の残りがまだ鍛冶場にある。頑丈な金具ならいくらでも鍛えてやるわい!」


ボルドが太い腕を捲り上げた。


俺は羊皮紙の上で炭の筆を滑らせ、全体の構造図を仕上げていった。

三角形を二つ組み合わせて堅固な支持架を立てる。

控え木と土台を配し、投擲の強烈な反動を四方へ逃がす。

支点を挟んだ腕の長短比率を割り出し、重石の自重を一気に長い腕の振りの速さへと変える寸法を、羊皮紙の上に描き出していった。


「……おい、坊主」


ボルドが羊皮紙の縁に太い両手を置いた。

節くれた指先が、描かれた支持架の斜材と、計算された腕の比率を丁寧になぞっていく。


「なるほどな……。三角形で組んだ土台なら、重りが落ちた時の揺れを綺麗に地面へ逃がせる。軸受けに太い鉄芯を通し、親柱の継ぎ手を帯金で締め上げりゃ、ワシらの手でも間違いなく組み上げられるぞ」


ボルドは髭をぐっと引き、確信を込めて頷いた。

だが、その視線が投射腕の長大さと、投擲予定の石材の重さに及んだ瞬間、太い指先がぴたりと止まった。


人の背丈を遥かに超える巨大な木組み。

そこに男十人がかりで運ぶような大石を詰めた錘箱を吊るし、大人の胴回りほどもある巨岩を百歩先まで放り投げる。

村の木と石と鉄だけで、城壁を砕くような一撃を生み出す計算だった。


「……よし、燃えてきたわい! すぐに鍛冶場の炉に火を入れて、軸受けの寸法を合わせるぞ!」


ボルドは太い腕を振り、立ち上がりかけた。

だが、机の上の羊皮紙に目を戻すと、描かれた寸法に息を呑み、再び図面を穴の開くほど凝視した。

俺は冷えた夜気の中で、静かに筆を置いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。