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厄介払いされた寒村で幼馴染と武器庫を育てたら、手柄を狙う本家が手出しできない近代要塞都市になっていた  作者: わわわ


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第21話 新農地の初収穫と白い粒

広場での射撃訓練を終えて自警団を見送ったあと、南側丘陵の新農地へ足を向けた。

風に乗って柔らかな土の匂いが漂ってくる。

裏山の湧水池から引いた水路には、今も清らかな水が絶え間なく流れていた。

整然と並ぶ畝の上には、青々とした葉が一面に広がっている。


行商人ロバートから仕入れた、寒冷地用の冬根菜の種から育ったものだ。

日当たりのよい南斜面と、澄んだ山水。

そして草木灰を鋤き込んだ土のおかげで、生育は驚くほど順調だった。

畝の間では、村長代行のシェリーや初老の農民たちが腰をかがめて作業に精を出していた。

密集して生えた株の間引き作業だ。


「クラウス、来てくれたんだね」


足音に気づいたシェリーが顔を上げた。

サイドテールにまとめた亜麻色の髪を揺らし、袖をまくっている。

エプロンドレスの裾と作業用ブーツには、新農地の黒い土がついていた。


「順調に育っているな。見事な青葉だ」


「うん。毎日みんなで水路を見回って、雑草を抜いていたの。見て、これ」


シェリーは畝の端に膝をついた。

密集した株の中から、葉のよく茂った一本を選び、根元を両手でしっかりと掴む。

ぐっと力を込めて引き抜いた。


ポン、と心地よい音が響いた。

湿った土の中から、白く締まった小ぶりな根菜が姿を現した。

手のひらに収まるほどの太さだが、ずっしりとした重みがある。

青々とした葉の根元から、湿った土の香りが立ち上った。


「抜けた……! クラウス、見て、ちゃんと根が太ってるよ!」


シェリーが泥を指先で払い、嬉しそうに白い根菜を掲げた。

初収穫だ。

新農地を取り囲んでいた農民たちからも、歓声が上がった。


「おお、実が入っとる!」


「間引きのやつでこれなら、残した株もどんどん太っていきますぞ!」


初老の農民がクワを置き、手際よく隣の株を引き抜いていく。

村人たちも次々と畝に入り、間引きの根菜を収穫し始めた。

掘り起こされた土の香りと、青葉の爽やかな匂いが畑いっぱいに満ちていく。


シェリーは手の中の白い根菜をじっと見つめていた。

その瞳に、微かに光が滲んでいる。

三年前、魔力ゼロを理由に名門フォレスト家を追放された幼馴染。

畑に魔法の祝福をかけられないことを、以前は気に病んでいたのかもしれない。

だが今、その手のひらには、冷たい土の中で育った確かな白い実りがあった。


「……魔力がなくても、ちゃんと育ってくれた」


シェリーがぽつりと呟いた。


「みんなで土を耕して、水を引いて、毎日世話をすれば……こんなに太く育ってくれるんだね」


俺はシェリーの隣に屈み、土のついた根菜に触れた。


「ああ。お前が的確に差配して、水路や手入れを毎日見てくれたおかげだ。胸を張っていい」


まっすぐ見据えて告げると、シェリーはヘーゼル色の瞳を丸くした。

やがて、頬を赤く染めてはにかむように微笑んだ。


「ありがとう、クラウス。……私、この村でみんなと一緒に畑を作れて、本当によかった」


その表情に、以前のような硬さは見当たらなかった。


収穫した冬根菜は、大きな木カゴに集められた。

間引きとはいえ、畝全体を回れば相当な量になる。

ダンたち自警団の若者も手伝い、カゴを共同食料庫へ運び込んだ。


食料庫には、先日の取引で仕入れた岩塩の樽や穀物の袋、大鬼の肉がすでに並んでいる。

その棚の一角へ、水で泥を落とした冬根菜の束が新たに運び込まれていった。

小ぶりなものは煮込み用に、青葉は乾燥させて保存食に回す手筈だ。


「すぐに蒔けば初雪の前に収穫できるって、言っていた通りになったね」


棚を点検しながら、シェリーが帳簿に筆を走らせた。


「間引きの分だけでも、これだけの量が採れたよ。畑に残した株も順調だし、初雪が来るまでどんどん収穫できるはずだよ」


「食料自給の第一歩だな。これで冬越えの蓄えに厚みが出た」


並べられた根菜の白さが、薄暗い食料庫の棚で確かな存在感を放っていた。


だが、それからしばらくすると、村の空気は一変した。

空は重い鉛色の雲に覆われ、日差しが遮られた。

北西のガルム樹海から吹き下ろしてくる風が、日ごとに鋭利な冷気を帯びていく。

吐く息は白く染まり、夜間には水路の縁に薄氷が張るようになった。


秋が深まり、冬がすぐそこまで迫っていた。

樹海が極寒に閉ざされれば、森の奥で飢えた魔獣たちが獲物を求めて南下してくる。

大鬼の襲来も、樹海奥の縄張り争いが引き金だった。

本格的な冬を前に、境界の警戒を怠るわけにはいかなかった。


俺は西境界へ向かい、見張り櫓の梯子を登った。

冷たい風が吹き抜け、上着の襟元を激しく揺らす。

床板に立ち、手すりに手を添えて周囲を見渡した。


足元には、土塁と石垣で固められた頑丈な防壁が連なっている。

大鬼の素材と鉄金具で補強された丸太の親柱は、びくとも動かない。

広場では、ダンたち自警団が十挺のクロスボウを手に、見回りの隊列を組んでいた。

武器と防壁の備えは整っている。


俺は視線を前方、北西を覆うガルム樹海の原生林へ向けた。

黒々とした木立が、冷たい風に吹かれてざわめいている。

樹海の奥深くを見据えるが、今のところ木立の隙間に魔獣の影は見当たらない。


だが、その時だった。


頬に冷たい感触が走った。

吹き抜ける風の中に、白く小さな粒が混じっていた。


空を見上げると、鉛色の雲の隙間から、白い粒がかすかに舞い落ちてくる。

風にあおられてちらつく雪の粒を、俺は手すりを握りながらじっと見つめていた。


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