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厄介払いされた寒村で幼馴染と武器庫を育てたら、手柄を狙う本家が手出しできない近代要塞都市になっていた  作者: わわわ


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第10話 薙ぎ払われた逆茂木

逆茂木の向こうにそびえ立つ大鬼は、濁った黄色い目をぎらつかせていた。

赤黒い皮膚の巨躯が、冷たい夜気の中で白く湯気のような息を吐き出している。

手にした太い丸太棍棒からは、樹液と血の混じった生臭い匂いが風に乗って漂っていた。


逆茂木の内側の影で、ダンと若者たちが息を殺していた。

手元にあるのは、打ち直されたスキや薪割り斧、そして鉄の穂先を取り付けた木槍だ。

誰もが青ざめた顔で武器の柄を握りしめ、強烈な威圧感に喉を鳴らしていた。

わずか数歩先には、大木をそのまま削り出したような化け物の脚がある。

恐怖で指先が震え、荒い吐息が白く漏れていた。


「前に出るな」


俺は低い声で告げた。


「丸太の隙間から武器を突き出せ。牽制して足を止めさせるだけでいい」


「お、おうっ……!」


ダンの押し殺した号令に合わせ、若者たちが丸太の隙間から切っ先を突き出した。

鋭利に光る槍先や、研ぎ澄まされたスキの平刃が、大鬼の太い脚部めがけて突き出される。

少しでも前進を躊躇わせ、動きを鈍らせるための牽制だった。


だが、大鬼の巨躯は微動だにしなかった。

突き出された刃先に視線を落とすことすらしない。

大鬼は太い一本角を夜空へ掲げると、丸太のように太い右腕を大きく後方へ引いた。

大木を削り出した巨大な丸太棍棒を、肩口から大きく後ろへ引き構える。

背筋の筋肉が盛り上がり、夜の冷気を巻き込みながら力を溜めていく。


「まずい、引け!」


俺は腹の底から叫んだ。


「全員、後ろへ下がれ!」


叫び声と同時に、大鬼の太い腕が唸りを上げた。

空気を引き裂く凄まじい風切り音が集落の境界に響き渡る。

ダンが恐怖で足をもつれさせ、その場に棒立ちになった。

丸太棍棒の巨大な影が、ダンの頭上へ迫る。


俺は迷わず泥土を蹴った。

間合いを詰め、ダンの胸板を両手で強く突き飛ばす。

ダンが後ろへ転がり、逆茂木の直下から勢いよく押し出された。


その刹那だった。


ドガアアン!


激しい破砕音が夜の集落に響き渡った。

横薙ぎに振り抜かれた巨大な棍棒が、頑丈に組まれた逆茂木を一撃で叩き折った。

大人の胴回りほどもある太い丸太が、乾いた音を立ててへし折れる。

激しい衝撃とともに、尖った木片と泥土が四方へ弾け飛んだ。


俺は身を屈め、両腕で頭部を庇いながら泥の上を転がった。

飛び散った木片が背中や腕に鋭く当たったが、泥に身を任せて衝撃を逃がし、勢いをつけて立ち上がった。


土煙の向こうで、逆茂木の一角が根こそぎ吹き飛んでいた。

昼間に苦労して組み上げた逆茂木が、木くずとなって地面に散乱している。

ダンや若者たちは吹き飛んだ衝撃で地面に倒れ込んでいたが、致命傷は免れていた。

何とか身を起こそうと泥まみれの手をもがかせている。


「ダン、立てるか! 全員を連れて集会所へ下がれ!」


「りょ、領主代行様……!」


ダンが泥を吐き出しながら、必死に若者たちの腕を引っ張り上げる。

俺は意識の奥にある武器庫の木棚、あの錆びたナタを意識の隅に捉えた。

だが、まだ手元には出さない。今ここでナタを抜いたところで、この巨躯を相手に正面から間合いを詰めるのは無謀だ。


大鬼は倒れた若者たちに目もくれなかった。

粉砕した逆茂木の残骸を踏み越え、そのまま村の内側へと直進していく。

落とし穴のある誘引路へは向かわず、左手の痩せた畑を突っ切って村の中央へ向かっていた。


「行かせるか!」


俺は泥土を蹴って全力で地を駆けた。

前進する大鬼の背中を追う。

だが、走る大鬼の背中はあまりにも巨大だった。

一歩の歩幅が人間のそれとはまるで違う。

大鬼が太い二本の脚で地面を蹴るたびに、ドシン、ドシンと重い地響きが畑の土を震わせる。

必死に両脚を動かして地を蹴っても、先行する大鬼との距離は容赦なく開いていく。


畑の向こうにある広場が、俺の視界に入ってきた。

そこでは、前列に並んでいた村人たちが迫り来る大鬼の姿を見て恐慌に陥っていた。

西の境界から響いた破砕音と地響き、そして一撃で逆茂木を打ち砕いて突進してくる巨躯の威容。

その圧倒的な破壊力を目の当たりにし、村人たちの恐怖は一瞬で限界を超えていた。


「化け物が来たぞ!」


「ダメだ、勝てるわけねえ!」


手にしたクワや棒を取り落とし、悲鳴を上げて左右の路地へ逃げ出す者が相次ぐ。

残る者たちも我先にと集会所の木戸へ殺到し、前列の統制は跡形もなく崩壊していた。


その集会所の前で、シェリーが必死に声を張り上げているのが見えた。

逃げ惑う人々を木戸の中へ押し込んでいる。

子供を抱えた母親や足の悪い老人を優先して奥へ送り込み、押し寄せる男たちを誘導していた。


だが、逃げ惑う人波に弾き飛ばされたのか、広場の中央で幼い男の子が一人、泥の上に転がった。

男の子は泣き声を上げながら起き上がろうとするが、足をもつれさせ、立ち上がることができない。

広場にはもう逃げ遅れた子供しか残っていなかった。


シェリーが木戸から手を離すのが見えた。

迷う様子もなく、広場の中央へ向かって駆け出していく。


「今助けるよ!」


シェリーの声が、夜の広場に響いた。

子供の元へ滑り込むように駆け寄り、泥まみれの小さな体を素早く抱き起こす。


だが、シェリーが子供を抱き上げた瞬間、畑を突き抜けた大鬼が広場へ踏み込んだ。

ドシン、と地面を揺らす重い足音が響き渡る。

二人のすぐ目の前に、巨大な赤黒い影が立ち塞がった。


「シェリー!」


俺は走りながら叫んだ。

だが、その叫び声をかき消すように、大地を震わせる獰猛な咆哮が轟いた。

空気が激しく振動し、耳の奥を震わせる。


逃げ場のない距離だった。

シェリーは抱きかかえた子供に背中を向けて覆いかぶさり、自らの背中で子供の体をすっぽりと包み込んだ。

ぎゅっと目を閉じ、子供を抱きしめた腕に力を込める。


大鬼の太い腕が頭上へ跳ね上がった。

右手に握られた丸太棍棒が、天高く掲げられる。


月明かりが遮られ、巨大な影がシェリーと子供を完全に覆い尽くした。

凶悪な質量を乗せた丸太棍棒が、容赦なく頭上から振り下ろされる。


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