辛い、甘い、どっちも譲らない
「舌が痛くなるまで辛く」
「肉の甘さが分かるくらい甘く」
「どちらも口に残る。青酸果を強く」
青靴隊は三人で来て、三つの注文を同時に言った。
アキラは栗豚の塊を前に腕を組む。
「串焼きを三種類作ればいい」
「同じ皿を囲めないじゃないか」とレン。
「お前が甘くするからだ」とボルク。
「辛さで味を消す人に言われたくない」
「酸っぱければ何でも新鮮だと思うなよ」と二人がシアを見る。
「二人とも、野営で食器を洗わないから酸味が必要なの」
同じ卓を囲みたいのか、喧嘩をしたいのか分からない。
「別皿にすれば、全員の希望が通ります」とアキラ。
三人は、そこだけ同時に首を横へ振った。
前の遠征で、崩れた橋の手前に三日止められた。食料袋の底に残ったのは、干し肉一枚と黒パン一個。ボルクは干し肉を三つに裂き、レンは黒パンを同じ大きさに切ろうとして一番小さな欠片を自分へ寄せ、シアは最後の水で全員の椀をすすいだ。
「あの時は、味なんか選ばなかった」とボルク。
「選べなかったんだ」とレン。
「町へ戻ったら、三人で一番うまい物を食べると決めた」とシア。
「それで三つの注文?」
「一番が三つある」とボルク。
「普通は一つです」
「だから決まらない」とレン。
別々に食べれば喧嘩は止まる。けれど三日目の最後の一枚も、三人は別々の場所で食べなかった。ボルクは腹を空かせても見張りから戻り、レンは冷たいパンを温める小さな火を起こし、シアは崩れた橋を見ながら一枚の布へ全部を載せた。
「同じ皿で、全員がうまいと言いたい」とシア。
「言うかどうかは味次第だ」とボルク。
「最初から逃げ道を作るな」とレン。
喧嘩をやめたいのではない。喧嘩をしながら、同じ一皿を空にしたかった。
アキラは肩肉を親指ほどの角切りにした。脂と赤身が一つの串へ偏らないよう交互に刺す。下味は塩と生姜根だけ。炭火で表面を焼き、脂が落ちて炎が上がれば串を少し引く。香ばしい煙だけをまとわせ、中まで火を通す。
一番厚い角肉と同じ大きさの確認片を端で焼き、二つに切る。中心に赤い生部はなく、汁は澄んでいる。六本も火から外したあと短く休ませた。熱い脂が落ち着く前にたれを塗れば、三つの味より先に舌を火傷する。
待つ三人は、その短い間にも壺の置き順で揉めていた。
仕上げる前の串を、大皿へ六本。
三つの小壺を添えた。
蜜玉葱を煮詰めた甘い豆蜜だれ。煎った火香辛料を鶏油へ移した赤いたれ。青酸果の汁と皮、刻み香草を合わせた緑のたれ。
「肉は同じ。最後は自分で決めろ」
ボルクは赤をたっぷり塗った。焦げた豚脂の甘みを追いかけ、舌の奥へ熱が広がる。額に汗を浮かべながら、満足そうにうなずく。
レンは茶色いたれ。焼けた蜜玉葱が衣のように肉へ絡み、豆蜜の塩気が栗豚の甘い脂を濃くする。
シアは緑。青酸果の鋭い香りで脂が切れ、次の一口が早くなる。
「赤を一滴入れれば、もっと締まる」とボルク。
レンが自分の壺を抱えた。
「入れない」
「緑なら少し」とシア。
「入れない」
三人はそれぞれ二本食べるつもりだった。
だが大皿には、最後の一本しかない。
「誰が三本食べた?」
三人の目がボルクへ集まる。
「串は数えてない。肉は数えた」
「もっと悪い」
レンが最後の一本を取り、甘だれへ浸した。ボルクが串の先をつかみ、反対側を赤だれへ突っ込む。シアが無言で、その中央へ緑だれをかけた。
「やめろ。味が分からなくなる」
料理人の制止より早く、三つのたれが皿の底で混ざった。
蜜玉葱の甘さ。火香辛料の熱。青酸果の酸味と皮の香り。
ボルクが一口、レンが一口、シアが残りを食べる。
三人とも黙った。
「まずいなら水を出す」とアキラ。
「いや」とシア。「順番がある」
最初は甘い。噛むと辛い。飲み込んだあと、酸味で口が戻る。
「俺の赤が中心だな」とボルク。
「甘だれがなければ、ただ痛い」とレン。
「青酸果がなければ二口目はない」
結局、また喧嘩が始まった。
ルチアは混ざった皿を指で示す。
「割合を決めるなら、三人で決めて。一壺ぶんだけなら来月も作る」
赤を一、甘を二、緑を一。
試す。辛すぎる。
赤を半分、甘を二、緑を一。
今度はボルクが不満を言う。
六度目で、赤一、甘三、緑二に決まった。
「名前は?」とピコ。
「猛火王だれ」とボルク。
「却下。花蜜三重奏」とレン。
「もっと却下」とシア。
ルチアは注文札へ先に書いた。
――青靴だれ。一か月に一壺。本人たち以外への販売なし。
「なんで売らない?」
「六回味見して、毎回、割合を変えろと言う客の商品だから」
三人は反論できなかった。
翌月の席だけは、三人分まとめて予約した。
「一か月、壺へ入れたまま?」とボルク。
「今日の壺は今日で空にします」とルチア。
「予約したのに?」
「来月は来月の材料で、来月作る」
青酸果は切れば香りが落ちる。蜜玉葱だれも、肉へ触れた匙を戻せば保存できない。名前がついたからといって、一壺が一か月先まで安全になるわけではなかった。
残った青靴だれは、小匙で六杯ほど。
アキラは今日の台にある物を見た。蒸した雲芋の端、固茹で月卵の半分、朝から置いて水分の抜けた黒パン。栗豚とは脂も水分も違う。
「三つへ一匙ずつ試します。残り三匙は、三人が選ぶ」
雲芋は皮ごと蒸し、中心の黄輪が重なった安全確認済みの端を割る。熱い面へ一匙。でんぷんが甘だれを抱え、赤油の辛さを遅らせた。
「甘い」とボルク。
「僕の味」とレン。
「芋の味」とシア。
月卵は中心まで固く茹でた半分へ一匙。黄身が油を吸い、口の中の辛さを丸くする。青酸果だけが白身の表面に残った。
「これなら赤を増やせる」とボルク。
「増やさなくていい」とレン。
黒パンは短く炙り、焦げ目へ一匙を塗る。乾いた穴へ甘だれが入り、噛むほど酸果の皮と香草が戻った。
「遠征ならこれ」とシア。
「肉は?」とボルク。
「野営で毎回、栗豚が捕まるなら」
「捕まえる」
「予定表に獲物まで命令しないで」
同じ一壺でも、三人が一番と呼ぶ物はまた割れた。
アキラは三つを大皿へ並べようとした。ルチアが空の串皿を先に下げる。
「全員へ全部を食べさせなくていい。もう好みは聞けた」
「でも、比較は」
「ボルクは肉。レンは卵。シアは黒パン。三人が違う物を買って、一つの壺を囲めば同じ卓でしょう」
青靴隊は珍しく反対しなかった。
残り三匙の一匙目は、ボルクの栗豚へ。
二匙目は、レンの月卵へ。
三匙目を、シアは黒パンへ全部かけなかった。半分だけ塗り、残りは自分の小皿へ置く。パンへ触れた匙の中身を、共用の壺には戻さない。
「野営で使える?」
「このままは渡せません」とルチア。
「三日だ」とボルク。
「暖かい野営地で三日。蓋を開け閉めして三日。店の卓と同じではない」
シアがうなずいた。野営の水と衛生を見るのは彼女だ。
「材料を分ける。食べる直前に混ぜよう」
「割合を間違える」とレン。
「六回やれば決まる」とボルク。
「魔物が六回待つと思う?」
アキラは赤一・甘三・緑二を、数字だけでなく紐の長さへ置き換えた。
赤油瓶には指一本の短い紐。甘だれ壺には指三本。青酸果を包む網には指二本。現地では同じ大きさの乾いた匙を三本使い、紐の長さと同じ回数だけ量る。ただし酸果は実ごとに酸味が違う。最初から全部を絞らず、緑は一匙入れて味を見てから二匙目を決める。
「赤も味を見て増やす」とボルク。
「増やす前提にしない」とシア。
甘だれは煮沸した小壺へ熱いうちに入れ、冷ましてから封をする。赤油は乾いた小瓶。青酸果は切らず、傷のない一個を通気する網袋へ。肉へ触れた匙は壺へ戻さない。開封日を炭札へ書き、異臭、泡、蓋の膨らみがあれば捨てる。
「三つとも俺が持つ」とボルク。
「あなたが転べば全部割れる」とシア。
「僕が甘だれ」とレン。「一番重いから、腕力の証明にちょうどいいよ、ボルク」
「なら俺が持つ」
「今、自分で引っかかった」とピコ。
ボルクは不満そうに、割れる心配のない青酸果の網袋を腰へ結んだ。レンは一番重い甘だれ壺を背負い袋の中央へ入れ、布で左右を固定する。シアは赤油瓶を胸元の小袋へ立て、二、三歩歩いて蓋の周りに油がにじまないか確かめた。
「俺が一番軽い」
「一番、勝手に増やすから」と二人。
ルチアは来月の予約札へ、三席とだけ書いた。栗豚、卵、黒パンの数は空欄。来月の三人が、その日に選ぶ。
遠征用の三材料は前払いになったが、《青靴だれ一壺》とは書かない。野営地の酸果、気温、衛生状態で同じ味にならない可能性も説明した。
三人は青い長靴を鳴らして店を出た。
出口で、ボルクが立ち止まる。
「赤一は少ない」
シアが胸元の赤油瓶を押さえ、レンが甘だれ壺を背中へ隠した。
「まだ店の前です」とアキラ。
「野営では俺が決める」
「三人で決める」とレン。
「実を切ってから」とシア。
三つの材料は、まだ一度も混ざっていない。
次の野営で赤一・甘三・緑二になるのか。栗豚がなくても同じ卓を囲めるのか。答えは青い長靴と一緒に、店の外へ出ていった。
卓には赤い油が一滴だけ残った。
ボルクが戻り、指を伸ばす。
その手へ、ルチアが布を置いた。
「舐める前に、拭いて」
「一滴くらい」
「一滴だから、自分で」
ボルクは渋々、卓の溝まで拭いた。布は赤く染まり、洗い桶へ入れても、辛い香りだけはしばらく水の上に残った。




