エピローグ
UR-651「サルガッソ」の食堂。
コック長が三人を見下ろしていた。
「……また増えたのか」
カリーナが満面の笑みで言った。
「増えました!」
「飯は」
「カレーで!」
「聞いてねえよお前の分は」
コック長はエリカを見た。小さな銀髪の少女は、食堂の喧騒に目を丸くしていた。
「嬢ちゃん。何が食いたい」
エリカは少し考えた。カリーナを見上げた。カリーナが頷いた。
「……カレー以外で」
「なんで!」カリーナが叫んだ。
「からいから」
コック長の口の端が上がった。
「パンと牛乳でいいか」
「それは俺のだ」とヴィンターが言った。
「じゃあお前も何か別のもん食え。いい加減」
コック長がカレーの皿を三つ並べた。
「食え」
ヴィンターは皿を見た。
「……管理された栄養摂取の——」
「うるせえ。食え」
エリカがスプーンを手に取った。一口。
「……からい」
カリーナが叫んだ。
「でしょう!!」
ヴィンターがスプーンを手に取った。一口。
「……からい」
エリカが横から言った。
「お兄ちゃん、おいしいって言えないだけだよ。心の中ではおいしいって言ってるもん」
(——やっぱり、全部聞こえてるんだ、この子には)
カリーナは笑った。
ヴィンターは二口目をすくった。
食堂は喧騒に満ちていた。笑い声。食器の音。カレーの匂い。
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夜。
エリカは医務室のベッドで窓の外を見ていた。コロニーの向こう側の灯り。
隣のベッドで、カリーナが盛大にいびきをかいて寝ていた。
エリカはカリーナの寝顔を見た。口が半開きだった。
(……この人、心の中でもカレーカレーって言ってる……)
小さく笑った。
それから——思い出した。
あの施設に残してきた人たちのことを。毛布を多めに持ってきてくれた人。ごはんを運んでくれた人。目を合わせなかった人たち。
トマトさんのことを。あの赤い髪。「三十秒だけ目をつぶる」って言ったときの、震えていた手。
グレゴリーさんのことを。「この子を道具にしたくないからだ」って言ったときの、疲れ切った目。
エリカンネルたちのことを。宇宙の中で、最後にモノアイを光らせて——ばいばいって、返事をしてくれた、あの子たち。
全員は救えなかった。
でも——お兄ちゃんは来てくれた。カリーナさんは手を握ってくれた。カレーは辛かった。ポンコツは、かっこよかった。
それで十分だと思うことにした。
——思うことにしたけれど。
涙だけは、止まらなかった。
窓の外で、星が光っていた。暗い宇宙の中で、点々と。人間が作った光ではない、本物の光が。
エリカはそれを見ながら、目を閉じた。
明日は——カリーナさんに、カレーのおいしい食べ方を教えてもらおう。
からくない食べ方があるなら。




