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ゾック・シンドローム  作者: Kentarou Theater


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9/10

エピローグ


 UR-651「サルガッソ」の食堂。


 コック長が三人を見下ろしていた。


「……また増えたのか」


 カリーナが満面の笑みで言った。


「増えました!」


「飯は」


「カレーで!」


「聞いてねえよお前の分は」


 コック長はエリカを見た。小さな銀髪の少女は、食堂の喧騒に目を丸くしていた。


「嬢ちゃん。何が食いたい」


 エリカは少し考えた。カリーナを見上げた。カリーナが頷いた。


「……カレー以外で」


「なんで!」カリーナが叫んだ。


「からいから」


 コック長の口の端が上がった。


「パンと牛乳でいいか」


「それは俺のだ」とヴィンターが言った。


「じゃあお前も何か別のもん食え。いい加減」


 コック長がカレーの皿を三つ並べた。


「食え」


 ヴィンターは皿を見た。


「……管理された栄養摂取の——」


「うるせえ。食え」


 エリカがスプーンを手に取った。一口。


「……からい」


 カリーナが叫んだ。


「でしょう!!」


 ヴィンターがスプーンを手に取った。一口。


「……からい」


 エリカが横から言った。


「お兄ちゃん、おいしいって言えないだけだよ。心の中ではおいしいって言ってるもん」


(——やっぱり、全部聞こえてるんだ、この子には)


 カリーナは笑った。


 ヴィンターは二口目をすくった。


 食堂は喧騒に満ちていた。笑い声。食器の音。カレーの匂い。


---


 夜。


 エリカは医務室のベッドで窓の外を見ていた。コロニーの向こう側の灯り。


 隣のベッドで、カリーナが盛大にいびきをかいて寝ていた。


 エリカはカリーナの寝顔を見た。口が半開きだった。


(……この人、心の中でもカレーカレーって言ってる……)


 小さく笑った。


 それから——思い出した。


 あの施設に残してきた人たちのことを。毛布を多めに持ってきてくれた人。ごはんを運んでくれた人。目を合わせなかった人たち。


 トマトさんのことを。あの赤い髪。「三十秒だけ目をつぶる」って言ったときの、震えていた手。


 グレゴリーさんのことを。「この子を道具にしたくないからだ」って言ったときの、疲れ切った目。


 エリカンネルたちのことを。宇宙の中で、最後にモノアイを光らせて——ばいばいって、返事をしてくれた、あの子たち。


 全員は救えなかった。


 でも——お兄ちゃんは来てくれた。カリーナさんは手を握ってくれた。カレーは辛かった。ポンコツは、かっこよかった。


 それで十分だと思うことにした。


 ——思うことにしたけれど。


 涙だけは、止まらなかった。


 窓の外で、星が光っていた。暗い宇宙の中で、点々と。人間が作った光ではない、本物の光が。


 エリカはそれを見ながら、目を閉じた。


 明日は——カリーナさんに、カレーのおいしい食べ方を教えてもらおう。


 からくない食べ方があるなら。


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― 新着の感想 ―
@加藤正明-p1nです。 取り急ぎゾック編完読しました。 まさかカリーナちゃんがこんなに活躍するとは。 そしてコック長とカリーナちゃんのやりとりが素敵ですね。 YouTubeのKentarou Th…
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