第四話「友達」
格納庫は、施設の地下深くにあった。
エリカに導かれるまま通路を進むと、天井の高い巨大な空間に出た。キャットウォーク。クレーン。床を這い回るケーブル。
そして——大量のポッドが並んでいた。
ドラム缶を二つ横に並べたかのような鉄の塊。ヴィンターたちが乗ってきたオッゴの原型よりもさらに古い、さらに粗末な試作型。MIP社の形式番号が刻まれている。ヴァンツェ。失敗作。使い物にならないと判断されて、ここに廃棄されたもの。
数十機はあった。埃をかぶった鉄の群れ。
エリカはその中に入っていった。一つ一つに手を触れながら歩く。
「この子はムッツリ。この子はガンコ。この子はドジっ子。この子は——おこりんぼ」
「……名前つけてるんですか」
「名前じゃないよ。性格。一機一機、癖が違うの。スラスターの吹き方とか、操縦系の反応とか」
(この子……この子たちと、ずっとここで——)
「エリカ。これを動かせるのか」
「動かせるよ。動かしてたもの、ずっと」
エリカが一つのヴァンツェに手を置いた。動力が入っていないはずの機体が、微かに震えた。
「さっきのザクは私じゃないよ。この施設の人たちがやってるの。でもこの子たちは——私のお友達。エリカンネルって呼んでるの」
「エリカンネル……」
「うん。お兄ちゃんをここまで案内したのも、通路の扉を開けたのも、この子たち。お兄ちゃんが聞こえたって言った声は、この子たちを通して送ったの」
カリーナはヴィンターを見た。彼は黙ってエリカを見ていた。その目に、さっきとは違う感情が浮かんでいた。
(——心配してる。この子が、どれだけの重荷を背負っているのか)
「連れていくって——全部?」
「全部は無理。でもこの子たちがいないと、出られないから」
エリカはヴィンターを見上げた。青い目に、初めて影が差した。
「お兄ちゃん。この施設には——もっと大きなものがあるの」
格納庫の奥の、さらに大きな隔壁扉。
「あれだけは、見ないで」
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そのとき、格納庫の上方——キャットウォークの上から、声が降ってきた。
「やあ。随分と遠くから来たものだね」
カリーナは銃に手を伸ばした。ヴィンターが腕でカリーナを制した。
キャットウォークに男が立っていた。
赤毛。長身。軍服ではなく、白衣の上にジャケットを羽織っている。年齢は三十代半ば。眼鏡の奥の目が、知的で、しかしどこか疲れ切っていた。
「グレゴリー・アース。この施設の副主任研究員だ。——と名乗ったところで、銃を下ろしてはくれないかな」
「下ろしません」
「そうだろうね」
グレゴリーはキャットウォークの階段を降りてきた。両手を広げている。武器は持っていない。
「エリカ。久しぶりだね」
エリカはグレゴリーを見上げた。警戒はしていない。だが——笑ってもいなかった。
「グレゴリーさんは、いい人だよ。でも——ここにいる人」
「ここにいる人、か。その通りだ」
グレゴリーはヴィンターを見た。
「被験体No.07。会いたかったよ。もっとも、こんな形で会うとは思わなかったが」
「何者だ」
「エリカを守ろうとしていた人間だよ。この施設の中で、たった一人。——信じろとは言わない。でも、今から三分以内にヘルマン所長の警備チームがここに来る。その前に出た方がいい」
「ヘルマン?」
「ディルク・ヘルマン。この施設の所長だ。ニュータイプを——道具としか見ていない男だ。Gmadの死の商人どもから金を引き出して、ここを運営している」
エリカが小さく頷いた。
「ヘルマンさんは——怖い人じゃないよ。でも、私のことを『素材』って呼ぶの」
カリーナの胸の奥で、何かが軋んだ。
(素材——十二歳の子供を?)
「出口は」
「搬入通路を逆走しろ。宇宙港まで戻れる。——エリカンネルたちに道を開けさせればいい」
グレゴリーはポケットから小さなカードを取り出した。
「これを使え。全区画に通る本物のカードだ。——私がここに来たことは、誰にも言うな」
ヴィンターはカードを受け取った。グレゴリーの目を見た。三秒。
「……なぜ助ける」
「この子を道具にしたくないからだ。理由はそれだけで十分だろう」
グレゴリーは背を向けた。キャットウォークを上がっていく。
「一つだけ忠告しておく。この施設の地下最深部に、あるものが眠っている。——絶対に起こすな」




