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ゾック・シンドローム  作者: Kentarou Theater


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3/10

第三話「エリカ」


 最下層の通路は狭く、天井が低かった。壁面のパネルにMIPの三文字が刻まれている。


(連邦の施設に、ジオン系企業の資材……)


 ヴィンターの足取りに迷いがなかった。声が導いているのだろう。カリーナには聞こえない声が。


 通路が枝分かれしていた。左は暗い。右は——微かに光が漏れている。ヴィンターは右を選んだ。


 分厚い扉。防音処理。電子ロック。偽造カードは——通らなかった。赤いランプ。


「開きません」


 ヴィンターはヘッドセットを外した。


(——初めて見た。この人がヘッドセットを外すところ)


 表情が変わった。微かに。眉が上がり、目が細くなる。大量の音が一斉に流れ込んできたような——


 ヴィンターがパネルに手を置いた。五秒。ランプが赤から緑に変わった。


「……何したんですか」


「向こう側にいる誰かが、開け方を教えてくれた」


(向こう側の——誰か?)


 扉が開いた。


 小さな部屋。白い壁。窓はない。蛍光灯が一本。簡素なベッド。テーブル。水のコップが一つ。


 ベッドの上に——少女が座っていた。


 毛布を膝にかけて、まっすぐにこちらを見ていた。怯えてはいなかった。


 プラチナシルバーの髪。青い目。白い肌。百三十八センチの小さな身体。痩せていた。だが——目に、力があった。


「遅い」


 最初の言葉が、それだった。


 ヴィンターは扉の前で立ち止まっていた。唇が開いたまま閉じない。


「……エリカ」


「三日前から来るってわかってた。声、ずっと送ってたのに。お兄ちゃん、聞くの遅いんだから」


 カリーナは息を呑んだ。


(この子——待っていたんだ。ずっと。怯えてたんじゃない。待ってたんだ)


「遅くなった」


「知ってる。いいよ、来たんだから」


 エリカはベッドから降りた。裸足で床に立ち、ヴィンターに歩み寄って、その軍服の胸に額をつけた。泣かなかった。声も出さなかった。ただ額をつけて、三秒だけ、目を閉じた。


 カリーナは通路側に立ったまま見ていた。


(——この人にも、感情があったんだ。ずっとあったんだ)


 エリカが顔を上げて、カリーナを見た。


「誰?」


「カリーナ。お兄ちゃんの——」


「知ってる。お兄ちゃんの隣にいる声の大きい人でしょ」


「……え、声、聞こえてたの?」


「聞こえるよ。心の声ならぜんぶ聞こえる」


 エリカの青い目がカリーナをまっすぐに見た。


「カレーが好きなんでしょ。今すごくお腹すいてるでしょ」


(——!!!)


「……なんでわかるんですか」


「心の中でずっとカレーカレーって言ってるから」


 カリーナの顔が熱くなった。ヴィンターが横を向いた。


(いまこの人、笑った?笑ったの?見えなかったんだけど!?)


「——行こう。ここを出る」


 エリカは頷いた。迷いはなかった。


「うん。でもその前に、一つだけ」


「何だ」


「私のお友達も連れていく」


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