想いに応えて2
「‘このニオイ……’」
「ラクさん、どうかしましたか?」
知ったニオイを嗅ぎつけて、俺は振り返った。
「あっ!」
「よう、元気そうだな」
「ユベーラ……なぜ?」
後ろにいたのはユベーラであった。
ベアラステもいるので本物だ。
「どうやって……」
俺も含めてみんな困惑している。
家のことはしっかりと監視していた。
個々人がほんの一瞬目を離すような隙はあったとしても、全員が目を離すようなことはない。
誰かしらは家のことを見ていた。
そのはずなのにユベーラが急に後ろに現れた。
困惑して当然だ。
打ち付けられた窓から出てくるはずはないし、近くのだとものと密着するように建てられているので後ろからも出ては来られない。
「突入は延期。監視は……一度撤退して状況を整理しよう」
何があったのかは知らないが、何かはあったのだろう。
一気にやる気を削がれてしまった俺たちは、泊まっている宿に場所を移す。
「……あの中は想定外のものがあった」
宿の部屋に集まる。
ユベーラはやや悩まし気に眉をひそめている。
「何があったのですか?」
「……あそこは奴隷市場だ」
「奴隷市場? あんな町中の……普通の家に?」
会話が聞こえていた俺はなんとなく予想していた答えだった。
しかし全く何もわからない四人にとっては、予想もしていなかった答えであった。
「あんな家で市場なんて規模もないだろう」
「あの家はダミーだ。中に入ると地下に降りられるようになっている」
「地下に?」
「すごい話になってきましたね……」
クリアスは口を挟まないように、俺にこっそりと俺に声をかけてくる。
「地下に降りると広い空間がある。そこに人や珍しい魔物なんかを閉じ込めていて、取引を行っている」
「奴隷なんて……!」
ミャルエスカが険しい顔をする。
奴隷市場が隠されていることや他の人たちの反応を見るに、この世界でも奴隷というやつは違法なのだろう。
そういえば、ザイハンシもヘルンを珍しい魔物として捕まえて売ろうとしていた。
今は奴隷、つまりは人の方が取り上げられているけれども、ザイハンシとの繋がりは魔物の方かもしれない。
「ザイハンシはどうしたのですか?」
地下に奴隷市場があるという衝撃の事実はひとまず置いておくとして、ユベーラたちの目的はザイハンシである。
「出入り口は複数あるようだ。あそこ主に入り口で、出口となるのはまた別のようだ。だからあそこで監視していてもザイハンシは出てこない」
「……もうあそこにはいないということですか?」
「いや、軽く探りを入れてみた。なんだかすごく言いにくそうな感じはあったが、どうやらザイハンシはいるようだ」
空気がちょっとピリッとなる。
「怪しまれないようにするのは大変だった。おかげで財布が空になってしまった」
「奴隷を買ったのですか?」
「そのつもりだと嘘をついたからな。今頃、冒険者ギルドで保護されてる」
ユベーラは深いため息をついた。
悪い人ではない、と思っていたが、ここに来て結構良い人のようだと俺の中での評価が上がる。
自腹で奴隷を買って、ちゃんと解放するなんて人が出来ている。
「それで、どうするのだ?」
ラグルドが険しい目をしてユベーラのことを見る。
「本当なら俺たちだけでザイハンシを相手したいが、そうもいかなくなった。違法な組織がザイハンシを匿っている。奴隷市場そのものも見逃せないし、逃げるルートも複数あってはまたザイハンシに逃げられるかもしれない」
「そうね。また逃げられたら面倒だわ」
「奴隷商ごと潰す。冒険者ギルドに協力を要請したから今頃秘密裏に人を集めてくれているはずだ」
長いことかかっていると思ったらユベーラはすでに動いていたらしい。
「俺たちは先頭で突入して一気にザイハンシを叩く。周りに被害が出る前にあいつを倒すぞ」
再三の追跡、再三の延期。
本当に次こそピヨハンシと戦うのだろか。
そんな疑問が俺の中では拭えずにいた。
だがユベーラの目を見る限りは本気だ。
「‘地下での戦いか……なかなか大変そうだな’」
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「さて……今日でザイハンシを倒す」
ユベーラたちを先頭に突入部隊を編成した。
奴隷市場の規模から出入り口の位置を予想し、町中に冒険者たちを配置して逃走対策も行っている。
ピヨハンシ討伐及び奴隷商壊滅作戦は動き出していた。
「まずは俺たちが入るぞ」
俺とクリアスを含めたピヨハンシ討伐部隊は、奴隷市場の入り口となっている家に向かう。
ユベーラがドアを強めにノックする。
「はい。あんたは……」
ドアがわずかに開いて男が顔を覗かせる。
ユベーラを見て先日訪ねてきた者だと気づいたようだけど、ユベーラの行動は全く違っていた。
剣を抜いてドアごと斬りつける。
「なっ……」
抵抗することもできず、それどころか何をされたのかも分からないままに男は切り裂かれてドアと一緒に倒れる。
血の臭いがあたりに広がる。
こうしてドアの開いた家の前に立ってみると、俺の耳は様々な音を感じた。
地下から聞こえてくる奴隷市場の音なのだろう。
「いくぞ」
ユベーラの目は冷たい。
死体を踏み越えて家の中に入っていく




