想いに応えて1
「‘確かに、怪しいよな’」
町中でピヨハンシと戦うのも周りへの被害が心配される。
ということで家の監視をしながら、同時並行でピヨハンシがどうしてあの家に行ったのかも調べていた。
今は俺とクリアスで監視をしている。
ピヨハンシが入った家から少し離れた路地からジッと様子をうかがう。
一応こうした雑用的な仕事も任されている。
なんてことはない家に見える。
けれども観察しているとおかしな点があることに俺は気づいた。
「‘何で窓を塞ぐ必要があるんだろうな……?’」
おかしな点とは、家の窓が塞がれていることだった。
最初はカーテンでも閉め切っているのかと思ったが違った。
内側から板を打ちつけて窓を塞いでいるのだ。
まるで外から見えないようにしているかのようであった。
ピヨハンシが家の中に入る時、迎え入れた人がいた。
つまり家は誰かが使っているはず。
窓を完全に塞いでしまうと、中は暗くて生活なんてしていられないだろう。
「‘それに誰も出てこない……’」
家の中には最低でもピヨハンシを迎え入れた男とピヨハンシの二人がいる。
もう三日ほど監視しているのだけど、どちらも中から出てこない。
食料なんか溜め込んでおけば三日ぐらい出ないこともできるだろうが、冷蔵庫も娯楽もないこの世界で三日間も光の入らない家の中に篭もるのは困難な行いだと俺は思う。
もしかしたら出迎えた男は死んでるのかもしれない。
「‘出てくる奴もいないが、入っていく奴もいない……’」
外から何か補給があることもありうる話だ。
ただ三日間で家を訪ねた人もいない。
中の様子が全く分からず、ただ何の変哲もないように家はそこにある。
それが逆に不気味に思えてくる。
「クリアスさん」
「あっ、ユベーラさんに、みなさん……交代ってわけじゃなさそうですね」
ユベーラたち四人が勢揃い。
交代の時間には早いし、四人全員で来る必要もない。
「これ以上の情報はなく、動きもない。こちらから動くことにした」
ピヨハンシが入った家に関して、ユベーラの方も冒険者ギルドの情報網を使って調べていた。
ただ良い結果は得られなかったようだ。
もう三日も経っている。
ピヨハンシがどこかから逃げている可能性も否めない。
「まずは俺が訪ねてみる。抵抗するようなら……町中でも戦闘を行う」
「‘とうとう本気になったか’」
いつ動くんだとヤキモキしていたものだが、ようやくやるようだ。
町中で戦うわけにはいかないという配慮は理解できるが、いささか遅すぎる感じもある。
ただ勝手もできないし俺たちはユベーラに従うしかない。
「では行ってくる」
ユベーラがベアラステを連れて一人で家に向かう。
ミャルエスカたちはすぐにでも動けるように備えている。
俺とクリアスもいざとなれば戦いに参加するつもりだ。
チラリとこちらを確認したユベーラは家のドアをノックする。
「開きましたね……」
一回目は反応がなかった。
少し待ってみて、またノックしたところでドアが軽く開いた。
中から目だけが覗く。
俺は耳に魔力を集中させる。
他の人には距離があって聞こえないだろうが、耳が良い俺にはユベーラの会話を盗み聞くこともできる。
「何の用だ?」
「人を探してる」
「人? ……奴隷をご所望か?」
「‘奴隷だと?’」
予想外の言葉が聞こえてきた。
みんなに伝えたいところだけど、このことを周りに伝える術がない。
俺はただ一人で、ユベーラと同じく驚くしかなかった。
「……見ない顔だな。一見はお断りだが……誰の紹介だ?」
「……ザイハンシさんだ」
ユベーラは表面上冷静を装っていた。
まさかの名前を答えて俺はまたしても驚く。
「ザイハンシさんの? ……入りなよ」
ドアが開いてユベーラが招き入れられる。
入る一瞬、ユベーラは後ろに回した手でこちらに合図を送った。
合図の意味は、待機。
「どうなってるのかしら?」
ミャルエスカたちには会話は聞こえていない。
何があって中に入ったのか俺以外分かっておらず、困惑している。
「‘さて……あの判断が吉と出るか、凶とでるか……’」
どうやらあの家がただの家ではないということが分かった。
ユベーラはそのまま一人で潜入するつもりのようだ。
ベアラステもいるし、何かがあれば脱出できる自信があるのだろう。
「とりあえず動けるように準備はしておきましょう」
奴隷を扱って可能性があることは理解した。
しかし中がどうなっているのか全く分からないことに変わりはない。
ユベーラが戦闘を始めて助けを必要とするかもしれないし、全く必要なく無事に出てくるかもしれない。
俺たちは固唾をのんで家の様子をうかがう。
「どうなるんですかね……」
クリアスも杖を握りしめている。
いざ戦いが始まるかもしれないと思うと緊張しているようだ。
「‘どうなるだろうな……俺の手でトドメをさせればそれでいいんだけど、無理ならせめて目の前でちゃんと死んでほしいもんだ’」
瀕死の状態だったのに復活してしまった。
今度こそは目の前で息の根を止めてやる。
ピヨハンシが死んで始めて俺も少しは胸が軽くなるだろう。




