記憶を追いかけて2
「ミャルエスカ、頼むぞ」
「りょーかい。ポップン、大地の記憶」
黒い魔力の魔獣はポップンという名前をもらっているらしい。
ミャルエスカのそばから離れたポップンは黒い魔力を地面に飛ばした。
「‘なんだ……?’」
地面の草が何重にも重なって見える。
見間違いかと思って、目を細めてみた。
それでも見え方は変わらない。
「なんでしょうか、あれ……」
魔力で作られたモンスターの幻影が後ろ向きに歩いてくる。
モンスターの幻影はそのまま後ろに歩いて、俺たちの前を通ってそのまま消えていく。
「これは大地の記憶という魔法さ。範囲内で起きた出来事を魔法で再現することができるものなんだよ」
ミャルエスカが疑問に答えてくれる。
こんな魔法があるのか、と驚いているのは俺だけじゃなくクリアスも同じだった。
重なって見えているのも過去の植物の動きが魔力で再現されているから。
後ろ向きに歩いているのは時間をさかのぼって出来事を再現しているからだった。
どうしてコカピヨスと戦った正確な場所を知りたかったのか、どうやってコカピヨスを探すのか、これでようやくわかった。
「見つけた」
「‘すごいな’」
コカピヨスの幻影が逆再生で現れる。
尻尾にはぐったりとしたザイハンシの姿。
「とりあえず向こうの方に行ったな。あの魔獣の姿を映し続けてくれ」
「言うほど楽じゃないんだけどね」
「報酬は十分に出してるだろ」
「金払い良くなかったらとっくに辞めてるさ」
コカピヨスの幻影を追いかけていく。
逆再生していた時を少しずつ動かしつつ、ポップンも移動して大地の記憶の範囲内にコカピヨスの姿を捉え続ける。
追いかける速度としてはゆっくりに感じるが、俺たちはついていくしかない。
「今度はあっちか」
追跡の速度が上がらないのはコカピヨスも悪い。
まっすぐ逃げればいいのにコカピヨスは脈絡もなくあっち行ったり、こっち行ったりする。
突然速度を上げたり、立ち止まってみたりと忙しない。
ポップンがコカピヨスを範囲内に収めておかねばいけないので、急な方向転換は困ってしまう。
「‘結構歩いてきたな’」
朝早くからコカピヨスを追いかけてきて、もうすでに夕暮れ近くになっていた。
コカピヨスの尻尾に掴まれているザイハンシは時々動きを見せていて死んではいなさそうだった。
「……人?」
「‘あいつは……キツソウ!’」
コカピヨスが立ち止まった。
何をしているのかと思っていたら人が近づいてきた。
開いているのかも分からないような細い目をした男は、キツソウであった。
俺とクリアスだけではなく、ユベーラたちも少し驚いたような顔をしている。
そりゃメルドランギルドを吹き飛ばしたキツソウの方も別の部隊が追跡しているのだ。
こんなところでキツソウが見つかったなら驚きだろう。
「何か話してるな」
コカピヨスがキツソウの前にザイハンシを下ろす。
ただザイハンシも立つこともできない状況だ。
膝をついて腹を押さえるザイハンシは、怒りの表情でキツソウに何かを叫んでいる。
対してキツソウの方は全く感情が分からない。
残念ながら大地の記憶という魔法では音声は再現されない。
どんな会話をしているのか確認する方法はないのだ。
「何を渡した?」
「魔法で再現じゃ良く見えませんね」
キツソウがザイハンシの肩に手を置いて、何かを差し出した。
手に持ったものは小さい筒状の何かであるが、魔力で再現された幻影はやや解像度が低い。
なんなのかちょっとよく分からない。
ただ、キツソウの顔は歪んだ笑顔を浮かべていた。
「‘……注射器、か?’」
キツソウから何かを受け取ったザイハンシは、それを首に刺すような仕草をした。
その様子にキツソウが渡したのは、注射器だったのではないかと思った。
「な、なんだ!?」
次の瞬間、魔力の幻影にノイズが走った。
砂嵐のように周りの再現全てが朧げになって何も見えなくなってしまう。
「ミャルエスカ、これはどう言うことだ?」
あくまで再現なので俺たちに影響を及ぼすものではないが、少し気分の悪いガサガサとした周りの光景にユベーラも眉をひそめている。
「……どうやら何か強い魔力の影響のようね。あいつが何かした瞬間魔力が放たれた。それが大地の記憶に影響を与えて、ちゃんと再現できなくなってるんだ」
ミャルエスカも険しい表情を浮かべている。
「もう見れないのか?」
「いや、魔力が収まれば自然と元に戻るはず。少し先に進めてみよう」
ガサガサとした光景の動きが激しくなる。
まるで高速再生するように時間を飛ばしているようであった。
だんだんとガサガサとした光景が収まっていく。
「…………あの魔獣か?」
「だが、小さくなっていますね」
「それに、キツソウがいない。ザイハンシもだ」
強い魔力の影響が収まった後、そこにコカピヨスのようなものが立っていた。
ただかなりデカかったコカピヨスと違って、背丈は人ぐらいになっている。
加えてキツソウとザイハンシの姿がない。
何が起きているのか。
みんなはそれが分からず、小さくなったコカピヨスのような魔物の背中を見つめる。
なんだか、立ち姿も人っぽいと俺はなんとなく感じていた。
「‘おい……嘘だろ’」
小さくなったコカピヨスが振り返り、俺たちは全員息を呑んだ。
本来ならば鳥のような顔があるところ、そこにあったのはやたらと血走って目が赤くなったザイハンシの顔なのだった。




