まだ旅の途中1
「ずいぶんと……激しい戦いでしたね」
クリアスはベッドに腰掛けて足をぶらつかせている。
魔力不足で限界を突破した俺は病院に運ばれた。
大きな怪我はなかったので、魔力が回復するまで飲み食いして休めばいいと診断された。
冒険者ギルドの方でお金を出して良いところに入院させてもらって、良いもの食わせてもらったので俺の回復も早かった。
ただ肉食って寝るだけなので、そろそろ太ってしまいそう。
でもピヨハンシ事件の処理なんかのために何処か行ったりもできないために、病院でまったりとしていた。
「ヘルンさんはこれで浮かばれるでしょうか?」
クリアスがボソリとつぶやく。
この世界の生死観はいまだに分かっていない。
魔物がいて、死が隣にある。
少しばかり命が軽く見られてしまうことはどうしても仕方ない。
魔物の命もあまり重いとは言い切れない。
特に合成に使われる魔物なんかは、次の日には忘れられてしまうような存在となってしまう。
長らく共に戦った魔獣については悼むこともあるだろう。
だがその思いを長く引きずることもなく、次の魔獣と契約してしまうのが大多数だ。
やられたその場では怒るだろうが、その場限りぐらいのものに留まってしまう。
「‘お前は優しいな……’」
ベッドに横たわりながら俺は目を細める。
こんなに長くヘルンのことを覚えていてやるのは、きっとクリアスぐらいのものだと思う。
かくいう俺もヘルンの復讐だなんて柄にもないことをした。
クリアスの影響を受けたのかもしれない。
「クリアス、いるかい?」
なんとも言えぬ空気が流れる。
俺はもう一眠りでもしようかと思っていたら、ミャルエスカが病室を覗き込んだ。
少し化粧薄めだが格好は相変わらずパンクチックなイカした女性であった。
「今回は改めて助かったよ」
ミャルエスカは部屋の隅に置いてあった椅子を持ってきてベッドの横に座る。
「あんたたちがいなかったら私たちは全滅していたかもね」
ミャルエスカは戦いのことを思い出したような遠い目をする。
俺にとっても、ピヨハンシとの戦いはもうかなり前のことのように感じられてしまう。
「ユベーラさんは大丈夫なんですか?」
「心配ありがとね。まあ生きてはいるよ。立ち直れるかはあいつ次第だけど」
ミャルエスカは深いため息をつく。
結構なやつがピヨハンシとの戦いで死んだ。
ラグルド、ボルスティ、それぞれの魔獣。
ユベーラは爆発の中でもギリギリのところで生き残った。
しかし石化していたベアラステは爆発の衝撃で壊れて、治してやることができなかった。
冒険者ギルドから派遣されたメンバーとしては半分が壊滅。
魔獣を失ったことを考えると、無事と言えるのはミャルエスカぐらいだった。
ラグルドもかなりの重傷で入院しているが、今俺たちがいるのは魔獣のための病院なので人の病院にいるユベーラが生きているということだけしか知らなかった。
「‘生きてるのがいいのか、分からないな’」
生きていればやり直せる。
しかし死にかけたユベーラが立ち直って新しく歩んでいけるかは分からない。
俺には大きな目標があるから諦めないが、ベアラステまで失ってユベーラは大変だろう。
きっとコツコツ合成して得られた魔獣だろうし、また一からやり直しだ。
ベアラステのことをどれだけ思っていたのかも立ち直りに影響を与える。
きっと俺が死んだらクリアスには大きな傷が残る。
だから安易に死ぬことはできない。
「何はともあれザイハンシは倒した。これはお礼……ってわけじゃないけどね」
「なんですか?」
ミャルエスカは腰のポーチから丸められた書類を取り出した。
「ザイハンシには懸賞金がかけられていた。私たちの協力で戦った形にはなるけど、倒したのはあんたたちだからね」
冒険者ギルドにザイハンシの顔が描かれた張り紙があったことを思い出す。
顔の下に倒した時に出る懸賞金も記載されていた。
「ザイハンシ討伐の証明書。私とユベーラの名前で出してあるよ。これを冒険者ギルドに持っていけば懸賞金が受け取れるから」
「……ありがとう、ございます」
どうやらザイハンシの懸賞金を受け取れるらしい。
意外と少なくない金額だったから儲け物だ。
「……受け取らないなんて言わないでね。お礼だから」
少し暗いクリアスの顔を見てミャルエスカは目を細めた。
死んだ人に悪いです、なんてクリアスが言い出すんじゃないかと俺もちょっと心配。
「…………いえ、受け取ります」
少し悩んだように俯きながらも、クリアスは一度頷いてミャルエスカの目を見つめた。
お金を受け取ることにした。
俺たちも頑張った。
ミャルエスカの言う通り、俺たちがいなきゃピヨハンシは取り逃してどこかで大暴れしていたかもしれない。
正当な報酬だ。
「それでいいさ。立派な魔獣君……ラク君だっけ? になんか美味しい物でも食べさせてあげて」
「そうします」
「私は……今回のことでかなり危険手当出たし、しばらくのんびりするよ。危ないのはこりごりさ」
ミャルエスカは肩をすくめる。
命の危険を感じたのはミャルエスカも同じだったようだ。
お金があるなら危ないことはしたくない。
気持ちは理解できる。




