想いに応えて5
「く、くははっ! これもいいな!」
片腕を切り落とされ、片腕を折られてもピヨハンシの顔にダメージの色が浮かぶことはない。
むしろ愉悦を感じるように笑った。
「ウィスドンドの仇だ!」
ラグルドがピヨハンシの首を狙う。
「はははっ! あの虫は不味かったぞ!」
「なっ……ぐはっ!」
ずるりとピヨハンシのお尻の上から蛇の尻尾が生える。
蛇の尻尾が大きな口を開けて襲いかかってきて、ラグルドは剣で防ぐもそのまま壁に叩きつけられた。
メキメキと音が鳴って、変な方向に曲がっていた鳥の腕が元に戻る。
「ダークチェーン!」
「チッ……」
ミャルエスカが床に手をつき、魔法を使う。
ピヨハンシの足元に黒い魔法陣が広がって、魔力で作られた黒い鎖が飛び出す。
黒い鎖はピヨハンシの体に絡みついて拘束する。
ピヨハンシはまるで面白くないとでも言うように舌打ちした。
「カァッ!」
ベアラステが鋭く太い爪を持つ丸太のような前足を振り上げる。
対してピヨハンシは口を大きく開けて、ブレスを吐き出した。
間一髪ベアラステは回避したものの、ブレスが肩を掠めて毛がパキパキと石化していく。
「お前か!」
ピヨハンシは尻尾の蛇をミャルエスカに向かって伸ばす。
「ミャルエスカさん!」
魔法を維持しているミャルエスカはすぐに動けない。
思わずクリアスは叫んだ。
「‘そろそろ俺の出番か。マジッククロー!’」
流石に目の前でやられそうになっている奴がいて、助けないほど俺も薄情ではない。
俺は横から飛びかかり、尻尾の蛇に爪を振り下ろす。
集まった魔力によって形作られた、二回りほど大きい魔力の爪はまるで刃のような鋭さで尻尾の蛇を輪切りにした。
「こ……の!」
「くぅ!?」
ピヨハンシの人間の方の体から羽毛が生えてくる。
体が一回り膨張し、拘束している黒い鎖に強い力がかかる。
「ラグルド!」
「おうっ!」
ユベーラとラグルドが息を合わせて左右から攻める。
ラグルドの剣は鳥の手に阻まれるも、ユベーラの一撃はピヨハンシの脇腹を切り裂く。
「‘怯んだ……!’」
ここまでダメージに対して全く反応を見せなかったピヨハンシの顔が歪んだ。
不死身の化け物かと思ったけれど、だんだん化けの皮が剥がれてきている。
「ガアアアアッ!」
ベアラステがピヨハンシの胸をざっくりと切り裂いた。
血が飛び、ピヨハンシは吠える。
「ドケッ!」
ピヨハンシが正面のベアラステに向けてブレスを放つ。
けれどもベアラステは見た目よりも軽やかな動きでブレスをかわした。
「逃げたぞ!」
流石に不利を悟ったか、ピヨハンシはブレスを回避したベアラステの横を通り過ぎて走り出した。
「‘おい……どこにいくつもりだ?’」
ここまで逃すはずがない。
俺は一歩前に出る。
少し、怖い。
明らかにピヨハンシは強い。
合成を重ねて強くなってきた俺だけど、全然強さが違う。
強いと思ったベアラステですらピヨハンシを倒しきれないのだから、俺はきっとまだまだピヨハンシには及ばないのだ。
でも、逃げない。
逃さない。
「‘お前が奪ってきたものの償いはその命であがなうべきなんだ……!’」
俺は両手を前に出す。
「‘力借りるぜ、ヘルン’」
魔術の素養。
一体なんのスキルなのか。
言葉で説明するのは難しい。
なんというか、魔力を扱う行為がとてもスムーズになった。
これまではツノに魔力を集めて、炎が渦巻いて塊となっていって、撃ち出される。
スキルを発動し続けるという意思を持ってようやく火の玉が撃てたのだった。
少しのタイムラグを必要として、ツノから一発撃つのが限界であった。
しかし魔術の素養を手に入れてから俺の中で変化が起きた。
俺の周りに意識を向けるとそこに火の玉を作り出せるようになった。
さらに火の玉が作り出される速度が目に見えて早くなったのである。
「へぇ……魔法も使えるのね……」
俺の周りに小さな魔法陣がいくつも浮かび上がる。
それをみてミャルエスカが驚きの声を漏らす。
ここまでユベーラたちにバレないようにひっそりとスキルの確認と練習をしてきた。
ヘルンの力を見せつけてやる時が来たのだ。
「‘そのままクマにやられてろ!’」
魔法陣から火球が撃ち出される。
「ぐおっ!」
「私も行きます!」
言葉はいらない。
俺がピヨハンシを止めようとしていることを察したクリアスも魔法を使う。
クリアスの背丈ほどもある赤くまばゆい光を放つ魔法陣が浮かび上がり、大きな火の玉が飛び出してくる。
「ふっ、やるな」
俺の火球の直撃で足を止めたピヨハンシに、クリアスの火の玉がぶつかって爆ぜる。
「ミャルエスカ、照らせ!」
ピヨハンシは爆発の衝撃で後ろにゴロゴロと転がっていく。
そして元々ピヨハンシのいた部屋に飛び込んでいった。
ミャルエスカが火の玉を浮かべせて、明かり代わりに部屋の中を照らす。
「‘なんだあの部屋……’」
思っていたよりも部屋の中は広い。
だがそんなことよりも異常な光景が俺の目に飛び込んできた。
「ここで何をしていたんだ……」
ユベーラすら一瞬部屋の惨状に気を取られる。
部屋の中は、血の海だった。
床には乾きかけの血が足の踏み場もないほどに広がり、そこら中に人の体の一部のようなものが転がっている。
比喩でもなんでもなく、本当に地獄の絵図を見ているようだった。




