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59話 次なる目標

 夜は更けて、元神村の中心にある広場に、キャンプファイヤーが焚かれる。

 ぼうぼうと空に巻き上がる炎。そして、その周りに並べられた食材達。

 これから始まるのは、俺達が狩人になった記念の宴だ。


「さあ、食べてくれ」


 広場の中央に置かれた机の上に、もののけ食材で作った食事が並べられる。

 どれも一般市場に出回れば、軽く万は飛ぶだろう料理達。

 霊山の中腹に住んで居る彼らからすれば、いつもの食事をグレードアップさせただけだろうが、貧乏暮らしが長かった俺にとってはある意味で拷問だった。


「……これを食べたら、俺は明日死ぬのではないだろうか」

「ここで死んでも姫山の麓に戻されるだけだから、大丈夫だろう」

「いや、多分姫山の麓にも、俺達を狙ってる狩人が居るんじゃ……」


 俺の言葉に対して、兵子はニヤリと笑うだけで、何事も無かったかのように食事を取り始める。

 否定をしないと言う事は、やはり狩人は

居るんですね。


「完全に霊山に閉じ来れられてしまったのか……」

「ここは野外だぞ? 閉じ来れられたと言う言葉は不適当じゃ無いか?」

「野外でも移動制限が掛かれば、閉じ来れられたと同意義ですよ」

「まあ、あその気になれば、霊山からは出られるんだがな」


 兵子の答えに首を傾げる。


「ああ、成程。麓に居る狩人を皆殺しにするんですね。流石は兵子さん」

「ふむ、一狼君の考え方は、時折狂気に満ちて居るな」

「だって、どう考えたって、それ以外に方法は無いですよね」

「イチロー、他にも方法はあるのガ」


 それを言ったのは、俺の横で満毛須の肉を鳳ばっている鷹子。

 鷹子がそう言っているという事は、本当に方法があると言う事か。


「鷹子さん、どうやって出るんですか?」

「ほう、一狼君はバディの私より、鷹子君の事を選ぶのか」

「兵子さん、少し酔っていますね?」

「うむ、酔って居る。ここは鷹子君に任せるとしよう」


 そう言って、兵子が楽しそうに酒をガブガブと飲む。

 それを尻目に鷹子を見ると、鷹子は肉を飲み込んで口を開いた。


「簡単に言えば、反対側から霊山を降りる事が出来るガ」

「反対側?」

「そう。霊山の山頂まで登って、反対側から降りるガ」

「それだと、姫山の反対側に出るんじゃないですか?」

「出ないのガ」

「じゃあ、何処に出るんですか?」


 それを尋ねると、鷹子が細い目で夜空を見上げる。


「……パラレルワールドに出るガ」

「まさかの異世界!?」

「魔法と剣の超次元世界と言われているガ」


 あまりにも現実離れした話に、いつもの苦笑いを見せてしまう。

 しかし、鷹子は空を見上げたまま、こちらに戻って来ない。


「え? まさか、冗談ですよね?」

「イチロー。霊山のもののけが、この世の生物だと思うのガ?」

「いや、それは確かにそうですけど……」


 ふうと息を吐き、鷹子がこちらに向く。


「新しい物に触れれば、新しい世界が広がるガ。それが例え現実離れして居たとしても、それを確認してしまったら、もうそれは現実なのガ」

「それは、そうかもしれませんけど……」

「どちらにせよ、イチローはまだ霊山の山頂にも行った事が無いのガ。それが本当か確かめたいのなら、頂上を目指すが良いガ」


 そう言って、鷹子が再び食事をし始める。

 あまりにも突飛な話しだったが、もののけと言う生物に出会ってしまった以上、そのような可能性も有るだろうと思い、俺はその情報を心の奥にしまって置く事にした。

 やがて、キャンプファイヤーの炎も弱まり、周囲の人間が片づけを始める。

 俺の横では、机に伏してむにゃむにゃ言って居る兵子。

 どうやら、疲れて眠ってしまったようだ。


「それじゃあ、俺はそろそろ兵子さんを送って帰りますよ」

「それなら、私も一緒に行くガ」

「そうですか。では、行きましょう」


 俺は兵子を背中に背負い、周囲の半落ち達に頭を下げる。

 半落ち達は笑顔で杯を持ち上げた後、キャンプファイヤーの残り火を楽しみながら、酒盛りの続きを始めた。


「皆、お酒が強いなあ」

「子供の頃から飲んでるからなのガ」

「あれ? 飲酒は二十歳になってから……」

「半落ちに人間の法律は通用しないガ」


 そう言うものなのか?


「そう言うものなのガ」


 おっと、心を読まれてしまったぞ?


「だガ、人間社会に出れば、そちらの法律に従うのガ」

「それはそうだろうね」

「しかし、それも霊山の周りだけだけどガ」


 少し寂しそうな表情を見せる鷹子。

 半落ちは人間社会に認識されて居ないので、霊山の周りから出る事が出来ない。

 恐らく、まだ人間社会が適応出来ないからなのだろうが、もののけ素材も一般市場に出回って居るのだし、半落ちが人間社会に順応するのも遠くは無いと思った。


(……あれ?)


 そんな事を思いながら鷹子を見て居ると、大きな変化に気が付く。

 良く見ると、鷹子の腕に生えていた鷹の様な毛が薄くなって居る。


「鷹子さん?」

「何ガ

「そう言えば、初めて会った時よりも、全体的に人間に近くなって居ますね」


 それを聞いた途端、急に鷹子の顔が真っ赤になる。


「そ、それは……ワシがずっと姫山に居たから、体系が人間に近くなってるのガ」

「ああ。そう言えば、鷹尾さんも言って居ましたね。人間社会に溶け込んで居れば、自然と体つきも人間らしくなって行くって」

「そうガ。だ、だから、イチロー……」


 話の途中でモジモジした後、鷹子が下から俺を覗き込む。


「私と話す時に、もう敬語は止めて欲しいのガ」

「へ?」

「イ、イチローは晴れて半落ちの狩人になったガ! 半落ちの皆は私の事を呼び捨てで呼ぶ! だから、イチローも呼び捨てが良いガ!」

「ああ、そう言う事ですか」


 正直、他人に馴れ馴れしく話すのは得意では無い。

 だけど、鷹子は霊山に来てから、俺の事を沢山助けてくれた。

 そんな彼女が臨むならば、俺も覚悟を決めて敬語を止める事にしよう。


「それじゃあ、これからよろしく……鷹子」

「……ガ」


 鷹子がスッと背筋を伸ばし、恥ずかしそうに頬を掻く。

 俺も流石に恥ずかしくなり、兵子を背負い直して正面を向いた。

 少しの間無言で居ると、再び鷹子が口を開く。


「そ、それで……イチローはこれからどうするガ?」

「どうするって?」

「半落ちの狩人になった事で、居場所は確保する事が出来たガ。だけど、イチローには、まだやる事があると思うのガ」


 それを聞いて、俺は大きく目を見開く。

 どうやら鷹子は、俺が思って居る以上に俺の事を分かって居た様だ。


「そうだね」


 ふふっと微笑み、鷹子の方を見る。


「俺は家族を迎えに行かなければならない」

「ガ。春子と秋名はまだ姫山に居る様だガ」

「やっぱり、マークされてるのかな?」

「兵子の話だと、されて居るらしいのガ」


 その言葉を聞いて、苦笑いを見せる。


「ヤバいなあ。多分かなり強い人がマークしてるだろうなあ」

「何でそう思うのガ?」

「春子さんと秋名は、俺がここに来ている事を知ってるんだろ?」

「そうだガ。鷹子が最初に山を降りた時に伝えたガ」

「それでもあの二人がここに来ないって事は、あの二人でさえ迂闊に動けない人達が、姫山に居るって事になるから」


 それを言われて、鷹子が成程と言う表情を見せる。


「だガ、迎えには行くんだガ?」

「ああ、行く」

「そうガ……」


 少し心配そうな表情を見せる鷹子。

 しかし、俺はそれに微笑みかけるだけで、それ以上の事は何も言わない。

 俺が何よりも大切にして居るのは、家族だ。

 例えどのような障害があろうとも、俺は二人に会いに行く。


「イチロー。私も行くガ」

「良いけど、多分辛い戦いが起こると思うよ」

「それは、言わなくても分かって居るガ」

「そっか……うん、分かった。一緒に行こう」


 その言葉に対して、優しく微笑み掛けて来る鷹子。

 その笑顔にドキリと心臓が鳴り、慌てて目を逸らす。


「私も行くからなぁ!!」


 急に背中で叫ぶ兵子。

 それに二人で驚いた後、クスクスと笑う。


(やれやれ……)


 場所は変われど、俺の周りには俺を助けてくれる人達が居る。

 昔であれば、その親切を断り、一人で事を成して居ただろう。

 だけど、もうそう言うのは終わりだ。

 俺は、俺を信じてくれる人を心から信じて、一緒に家族を救いに行く。

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