表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/64

58話 帰って来たローグライカー

 翌日。午後一時五分。

 完全装備で二層の麓に立ち、兵子の事を待つ。

 やがて、ゆっくりとした足取りで現れる兵子。

 今回は前回の装備とは違い、小さなポーチを腰に付けていた。


「待たせてしまったか?」

「いえ、大丈夫です」

「ふむ、そうか」


 最初の狩りと同じような会話。

 しかし、今回は前回の狩りとは違い、万全の準備をしている。

 後は、その万全の準備が満毛須に嵌るかどうか。

 作戦の要は、長時間陽動をする俺の体力だ。


「カロリーブロックは用意したか?」

「はい。一応四箱分用意しました」

「良し。どれくらい追いかけられるかは分からない。少しでも隙が出来たのなら、定期的にブロックを食して体力を回復させる様に」


 兵子の言葉に無言で頷く。

 立之山では途中で体力を失い、危うく狩人協会に囚われてしまう所だった。

 体のダメージは痛みで直ぐに判断出来るが、腹減りは腹が減るまで判断する事は出来ないので、小刻みに軽食を取る事にしよう。


「それでは、行くか」

「はい」


 改めて装備を確認した後、兵子に並んで白いラインを越える。

 次の瞬間、いつものように空間が歪み、岩と林に囲まれた風景が現れた。


「前回の風景と変わりませんね」

「うむ。どうやら今までに殺された者は居ない様だな」


 それを聞いて、一つの疑問が思い浮かぶ。


「そう言えば、二層で人が死んでも、一層の風景は変わるんですか?」

「いや、一層と二層は、半落ち達が住む中層で別れている。それぞれの場所で死ない限り、風景が変更する事は無いよ」

「そうですか。それならば安心ですね」


 この作戦は、先んじて俺が書いたマップの配置が、最重要になって来る。

 そんな中で、一層で誰かが倒されて突然風景が変われば、作戦は台無しになってしまうだろう。


「さて、安心を手に入れた所で、再び死地に足を運ぶ事になるのだが」

「そうですね」

「一狼君。その腰に巻いているベルトは、もしかして……」


 ベルトを眺める兵子に対して、小さく頷いて見せる。

 俺が巻いている万能ベルトは、何と雷鎚の皮で作られた物だった。


「元神村の倉庫で埃を被って居た物を見つけて、お借りしました」

「ふむ、白火俱槌と適合しつつ、雷鎚の力で霊山を飛び回る訳だ。最早人智を越えた化物の所業だな」

「それを言ったら、今までの狩りで全て無傷の兵子さんも化物でしょう」


 俺の言葉を聞いて、兵子がニヤリと笑う。


「化物コンビか。中々に面白いでは無いか」

「面白くは無いです」

「さしずめ、姫山の亡霊だな」

「そこはモンスターでは?」


 成程、この人は言いたい事を言っているだけだな。

 だけど、姫山の亡霊か。何か格好良いぞ。

 兵子も気に入ったようだし、俺達のバディ名はそれにしておこう。


「それじゃあ、姫山の亡霊……やりますか」

「ふむ、そうだな」


 兵子がふうと息を吐く。


「作戦開始だ」


 爆音。

 正面にあった木々が吹き飛び、土煙の中から現れる巨大な影。

 第二層最初のもののけ、満毛須。


『ヴオァァァァァァ!!!!』


 厚い体毛に包まれた茶色い獣が、獲物が戻って来たと嘶く。

 その瞬間に兵子は左に走り、俺は正面に向かってジャンプした。


「成章!!」


 ホルスターから成章を引き抜き、零距離から銃弾を撃ち込む。

 頭に一撃食らい、憤怒する満毛須。

 予定通り、最初の目標を俺に向ける事が出来た様だ。


『アアアアアア!!!!』


 くるりと体を一回転させて、既に先を走って居る俺に向かって走り出す。

 さあ、命懸けの追いかけっこを始めようじゃないか!


「まずはぁぁぁぁ!!!」


 フードを被って白火俱槌と適合した後、近くにあった巨岩を掴む。

 適合による筋力強化。軽々と空に浮かぶ巨岩。

 俺はそれを横に振りかぶり、満毛須に向けて思い切り投げつけた。


『ヴォッ!!』


 走りながら長い鼻を一振りする満毛須。

 巨岩は満毛須の鼻に軽々と弾かれて、明後日の方向に飛んで行った。


(やっぱり効かないか)


 圧倒的な体躯とずば抜けた筋力。

 あの感じだと、満毛須に物理的な攻撃はほぼ効かないだろう。


「ならば……!」


 雷鎚と適合して思い切り空に飛ぶ。

 鳥のように空を裂く俺の体。

 それを利用して木から木へと飛び移り、満毛須を左右に翻弄する。


『ヴァァァァァ!?』


 俺に気を取られながら走って居た満毛須は、足元に生えている大爆発茸に気付かず、群生地に飛び込んで大爆発が起こった。


「まず一撃!」


 一箱目のカロリーブロックをかじりながら、高速で山の奥へと姿を消す。

 満毛須は少しの時間のたうち回って居たが、すぐに我を取り戻し、小さくなった俺の事を再び追いかけ始めようとする。

 しかし。


「次は私の番だな」


 一線。

 俺を追いかけようとした満毛須は、兵子のサバサキで四肢を傷付けられて、再びその場に膝を付いてしまった。


「貴様の皮は確かに厚い。しかし、動きに合わせて的確に急所を突けば、膝を付かせる事くらいは出来るさ」


 ふっと笑い、兵子が走り出す。

 満毛須は直ぐに立ち上がって鼻を鳴らすと、素早く体を切り返して、兵子に向かって全速力で突っ込んで行った。


「流石に速いな!」


 数十メートルの逃走の後、簡単に差を詰められる兵子。

 体から直線に伸びた満毛須の牙が、兵子の背中を的確にとらえる。

 しかし、それを簡単に許すほど、俺達の連携は甘く無かった。


「ほいと」


 その言葉と共に空に舞うのは、雷鎚と敵適合した俺。

 死角から通常の成章を取り出して、背中に向けてぽとりと成章を落とす。

 次の瞬間、成章は満毛須の背中にめり込み、その重量で満毛須が横向きにひっくり返った。


「兵子さん!」

「うむ!」


 すかさず兵子がサバサキを抜き、二本の牙を切り裂く。

 少しの間を置いて、牙はドスりと音を立ててその場に削げ落ち、満毛須がゆっくりと立ち上がって咆哮した。


「順調だな」

「そうですね」


 敵の戦闘力を調べ、機動力を奪い、攻撃手段を削る。

 対複数戦では時間が掛かり過ぎて出来ない事も、相手が単体で有れば時間を掛けて行う事が出来る。

 後は油断せずに満毛須の体力を削って行けば、いずれは勝てるはずだ。


「これで、後は例のポイントにおびき寄せれば……」


 そう思った、次の瞬間だった。

 突然景色がグニャリと動き、見て居た景色ががらりと変わる。

 忽然と姿を消した満毛須。

 想定外の出来事が起こり、俺の額から汗が零れ落ちる。


「これは……不味いな」

「うむ、満毛須を見失ってしまった」


 恐らく二層で誰かが死に、地形が変わったのだろう。

 兵子が横に残ってくれたのは幸いではあったが、これでは止めを刺す様の罠の場所が分からない。


「今回の霊山は、我々の味方では無いようだな」

「そうですね。でも……」


 まだ終わった訳では無い。

 俺はフードを被り、もののけとの適合を全開にする。


「俺が最後の罠の位置を探ります。兵子さんは満毛須の足止め、良いですか」

「大丈夫だが、私にも限界があるぞ」

「何分頂けますか?」

「そうだな……」


 兵子が顎に手を置いて考える。

 そして。


「五分だな」


 言った瞬間、目の前の林がバラバラに砕かれて、満毛須が勢い良く現れた。


「一狼君! 頼むぞ!」

「了解です!」


 満毛須に切り込んで行く兵子を尻目に、全速力で林の中を飛び回る。

 北、西、東……。

 一定の距離を保ちながら飛び回ってみたが、肝心の罠が見つからない。


「くそっ!」


 これ以上兵子から離れてしまうと、五分以内に戻る事が出来ない。

 それとも、罠は既に五分以上かかる場所まで離れてしまったのか?


(……いや、必ずある!)


 霊山の気候は気まぐれだが、誰か一人だけに恩恵を与えない。

 平等では無いが、無慈悲でも無い。

 俺達が満毛須を倒す為に必死になって居れば、霊山は俺達にもチャンスを与えてくれている筈だ。


(……まさか)


 今までの霊山の変化を考えて、罠がありそうな場所を思い付く。

 しかし、これは一つの賭けだ。

 この場所に無かったら、この狩猟で満毛須を狩る事は出来ずに、最悪試験にも落ちてしまうかもしれない。

 だけど、そんな意地悪な場所だからこそ、そこにある可能性は高い。


「兵子さん!」


 満毛須と戦って居る兵子の上を飛びながら、罠のある方を指差す。

 兵子は一瞬だけ迷ったが、直ぐに俺が何を言いたい悟り、満毛須の足の下に滑り込んだ。


「こっちだ!」


 赤色成章を鼻先にぶち込み、満毛須の意識をこちらに向ける。

 空に向かって咆哮した後、俺に向かって突進を始める満毛須。

 兵子が足を重点的に狙ってくれていた為、突進の速度が落ちて居る。

 これならば……!


「おおおおおおお!!」


 雪の積もる平地を全力で走る俺。

 脇目も振らずに全速力で突っ込んで来る満毛須。

 そして。


『ヴォオオオオアアアアッ!!!』


 ある一定の場所に辿り着いた途端、身をよじって悲鳴を上げる。

 最後の罠。それは、百芽から生えた超硬度の刃。

 実験をして居ないので強度に不安こそあったが、芽から生えた刃は見事に満毛須の体を貫き、満毛須はそのまま地面へと倒れた。


(殺った……のか?)


 バッドフラグ。

 いつもの状況だと、満毛須が最後の力を振り絞って立ち上がる。

 そう思って、咄嗟に成章を呼び出したのだが。


「ふん、流石に心臓が遠いな」


 満毛須の影からゆっくりと現れたのは、一人の女性。

 サバサキを右手に携えた、山本兵子。


「とどめを刺すまでは、絶対に気を抜かない。狩りの基本だ」

「……その様ですね」

「とは言え、我々はチームで満毛須を狩る事に成功した。これからは、私と君は先生と生徒では無く、正当なバディだ」


 サバサキを鞘に納めて、兵子がにこりと微笑む。

 行き当たりばったりでは無く、きちんと目標を決めて行った狩猟。

 本当の意味で『狩り』を成功させたのは、これが初めてだ。


(……やっとか)


 目から零れ落ちそうになった雫を拭い、ゆっくりと空を見上げる。

 木々の影から見えるのは、燦々と輝く太陽。

 それを見ながら、今の気持ちを忘れないように、深く心に刻み込む。


(さあ、始めよう)


 与えられた環境での狩りは、これでお終いだ。

 俺は自分の意思で狩りを選び、自分のやるべき事を成す。

 まずは狩り免許の再取得を喜び、次の狩猟に備えるとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ