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57話 二層攻略会議

 満毛須に手も足も出ずに、元神村に戻った翌日。

 俺と兵子は村長の家にある資料庫に足を運び、第二層に関する資料を片っ端から調べて居る。

 特に重点を置いて居るのは、満毛須の生態と二層の罠について。

 手書きの資料だったので大した情報が無いと思って居たが、資料には様々な罠について事細かく書いてあり、その内容は姫神村で見た資料の比では無かった。


「成程、あの爆発した茸は、大爆発茸というのか」

「捻りが無いネーミングですね」

「火で炙ると旨いらしいぞ」

「爆発するのに炙るんですか!?」


 思わずツッコミを入れると、兵子がそのページを見せて来る。

 爆発茸派生の茸は、茎から傘を上側に外せば爆発しない。

 そう言えば、姫神村で見た資料にそんな事が書いてあったが、食べられるとは書いて居なかったな。


「普通に考えて、爆発する茸を食べようとは思いませんよね」

「これはあれだな。フグに毒があるのを知って居て、食べられるか試す心理だ」

「成程、挑戦した先人には脱帽です」


 再び資料に視線を戻す。

 半落ちの狩人達は、人間の狩人達に比べて随分と挑戦的なんだな。


「一狼君。首吊りのツルは漬物にすると旨いらしいぞ」

「さっきから食べ物の事ばかりですね」

「それはそうだろう。ここではもののけ素材しか取れないのだから」


 そう言われて、初めてその事に気が付く。

 ここは霊山の中腹部だ。普通の食材を手に入れる事が難しい。

 そうなると、今までこの村で食べて来た食事やお茶は、当然もののけ食材を使った食事だと言う事になり……


「うう、俺の貧乏センサーがぁ……」

「食した後に起こるのであれば、何の問題も無いな」

「センサーがぁ……」

「それ以前にだな。ここではもののけ食材が主流なのだ。主流と言う事は、その価値はそれほど高いとは言えないだろう?」

「……そう言われれば」


 兵子の言葉を聞きながら、ゆっくりと周囲を見る。

 霊山で取れた木で作った丈夫な家。霊山の石で作った飯炊き用のかまど。当たり前の様に支給された、もののけの毛皮で作った着物。

 下界に住む者からすれば、狂気に近い素材の使い方をして居るのだが、ここに住んで居る人にとっては普通なのだ。


「これが、本当のセレブ生活と言う生き物なのか……」

「セレブと言うのは、そこに住む水準の上位に居る人間達の事だ。ここではこれが普通なのだから、セレブでは無いだろう」


 言われてみれば、その通りである。

 それに、この村は人間達との交流もあるのに、意図的に生活水準を下げているようにも見える。

 現代の技術ともののけ素材を組み合わせて村を作れば、下界では考えられないような、高水準な村が出来るはずなのに、それをしないのが良い例だ。


(これが、自然との共存と言う事なのかね)


 そんな事を思ったが、それ以上の事は何も思わない。

 俺は貧乏のせいで、その日に食べる食料を確保するのも大変だった。

 その水準から考えれば、飯を普通に食べられるだけで上々だ。


「それよりも、これを見ろ」


 そう言われて、再び横に座って居る兵子の資料を覗き込む。

 その瞬間、兵子が俺に身を寄せて来て、着物の裾から胸の上方がチラリと顔を出した。


「百芽と言う植物だ。こいつは地面に生えている芽を踏むと、そこから超硬度の刃が飛び出すらしい」

「それはすごいですね」

「本体の花を壊すと地面に生えている芽は死ぬらしいのだが、これは罠として使えるのでは無いか?」

「はい、そうですね」

「む、一狼君。こいつも中々……」


 兵子がページをめくる度に、はだけて居る胸がポヨンと揺れる。

 恐るべき破壊力。

 普段真面目な人間が見せるちょっとした隙は、思春期の男には刺激が強すぎる。

 正直、このままでは色々と危険だ。


「……イチロォサン?」


 背後から物凄い殺気を感じて、ゆっくりと振り向く。

 そこに居たのは、虫を殺すような瞳で俺を見下ろしている鷹子だった。


「作業は進んで居るのガァネ?」

「す、進んで居る! とても進んでおります!」

「なら、良いガァネ」


 鷹子がゆっくりとした動作でお茶を置く。

 あえて俺と兵子の間から、強引に。

 それなのに、兵子は無邪気な表情で笑いかけた後、何事も無かったかのように裾を直してお茶を飲み始めた。


「……兵子さん。この村に来てから若返ってませんか?」

「? 何を言っている? 私はまだまだ若いつもりだぞ?」

「いや、年齢の話をして居るんじゃなくてですね……」


 首を傾げる兵子。

 もう少し話題を掘り進めようかと思ったが、後ろから放たれている鷹子の圧が増して来たので、それ以上の事を言うのは諦めた。 

 鷹子が俺達の正面に座った事で、和やかだった会議に緊張が走る。

 狩人の実力としては兵子の方が上だとは思うが、鷹子は幼い頃からこの村に住んで居て、もののけの知識に長けている。

 先程聞いたばかりの話なのだが、実は鷹子は既に半落ちの狩人免許を持って居て、二層での狩りも出来るのだそうだ。


「あの、鷹子さんは満毛須を狩った事があるんですか?」

「ガ? 一応あるガ」

「どうやって狩ったんですか?」

「村の人と協力して狩ったガ」


 鷹子は紙とペンを取り出すと、机の中央で狩りの構図を書き始める。


「まず、満毛須を指定の位置に誘導。地点到達と共に一斉射撃。射撃が終わったら再び次の地点へと誘導……」

「そんな簡単に満毛須から逃げられるんですか?」

「村に虎殻獅の半落ちが居たから、大丈夫だったガ」

「こがらし?」

「虎のもののけガ。物凄く俊敏ガ」


 成程。確かに虎の半落ちなら、その俊敏さを活かして避けられるかもしれない。

 しかし、今回の場合はその作戦は使えない。

 何故ならば、この試験は俺達二人に出された試験だからだ。


「一狼君が白火俱槌と適合すれば、それなりにスピードは出せるのでは無いか?」

「平均時速は満毛須と同じくらいになると思います」

「では、同じ作戦が使えるのでは無いか?」

「残念ながら、スタミナが足りません」


 成程と言う表情を見せる兵子。

 もののけとの適合は身体能力を大きく向上させるが、対価として適合者の体力や精神力を奪って行く。

 ましてや、あの満毛須と追いかけっこをするのならば、余計に精神力が消耗してしまうだろう。


「ならば、交代制で囮になるのであれば?」


 その提案に首を傾げて見せる。


「それなら大丈夫そうですが、兵子さんは追い付かれてしまうんじゃないですか?」

「うむ、だから、私が走る距離は少なくして、一狼君に妨害もしてもらう」

「成程、それなら行けそうですね」


 そう言って、鷹子が使っていたペンと紙を取り、地図を書き始める。

 書いて居る地図は、勿論第二層の地図だ。


「一狼君、二層の配置を覚えているのか?」

「はい。断面図で申し訳ないですが」


 滞る事も無く、入り口から行った場所までの道のりを書き続ける。それを書き終えると、今度はそのまま描いた道の上に、見つけた罠や障害物を書き始めた。


「ここに大爆発茸。ここにあったのは……そうか。さっきの百芽か」


 罠図鑑を見ながら新規の罠を書き続ける。

 全て書き終えて顔を上げると、二人が俺の事を見て目を丸めて居た。


「……あの、何かありましたか?」

「いや、とても凄い事が起きて居たのだが、君は何とも思わないのか?」

「? どういう事ですか?」

「普通の人間では、ここまで正確にマッピングは出来ないガ」


 それを聞いて、思わず鼻で笑ってしまう。


「いやいや、ローグライクゲームをやっていれば、誰でもこれくらい出来るようになりますよ?」

「いや、出来ないだろう」

「そうかな……あ、マメゾウさんとかは出来ると思うんですけど」

「マメゾウ? 誰ガ?」

「不死之山に居る、ローグライクゲーム好きの友達です」


 それを聞いた兵子が、フフッと笑う。

 そして、やれやれと言う表情で言った。


「マメゾウは、狩人協会で五本の指に入る狩人だぞ」


 それを聞いた鷹子が黙る。

 そう言えば、不死之山に居た時も、龍治がそんな感じの事を言っていたな。


「よし、これで地図は出来上がりました」

「ふむ、スルーか。一狼君は適応力が高いな」

「そんな人と比べられても意味がありませんよ。俺達は自分が出来る事を見極めて、俺達に出来る事で狩りをしないと」

「そうだな。では、この地図を見ながら、我々の作戦を考えるとしようか」


 書いた地図を中央に置き、お互いに意見を交換する。

 今回の狩りは今までの狩りとは違い、地形を生かした狩りになるだろう。

 そして、そんな地形戦こそが、ローグライカーの真髄でもある。

 初戦で手も足も出なかった満毛須に対して、一体どれくらい対抗出来るのか。過酷な狩りではあるが、俺は少しだけ楽しみに感じてしまって居た。

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