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54話 再出発

 元神村の滞在許可を貰い、畑仕事を手伝いながら兵子を待って三日。やる事の無かった俺が、村の畑の手伝いをして居る時、彼女がやって来た。


「やあ……一狼君」


 山本兵子。姫山の狩人にして、俺の先生。

 俺は兵子と無事に再会出来た事を喜んだのだが、反対に兵子の表情は暗く、とにかく話があると言われて、鷹子の父の部屋に関係者が集められた。

 兵子が囲炉裏の対面に座り、その周りに皆が座った所で、兵子がゆっくりと重い口を開く。


「結論から言うと、一狼君の狩り免許がはく奪されてしまった」


 予想して居た結論。

 少し残念な気持ちにはなったが、予想して居た出来事だったので、何も言わずにその結果を受け止める。


「済まない。私の力が足りないばかりに」

「兵子さんが気に止むべき事では無いですよ」

「しかし、この結果は私の選択のが引き起こした結果だ」

「いえ、自分で選んだ結果です。俺は自分の意思で、真神を助けました」


 その言葉を聞いた兵子が、寂し嬉しそうな表情で俯く。


「君ならそう言うと思って居たよ」


 そして、少しの沈黙。

 俺はそれ程ダメージを受けて居ないのだが、周りの反応が予想以上に暗かったので、俺は話題を変える為に自ら口を開いた。


「取り敢えず、俺はこれからの事を考えるとして、俺と行動を共にしていた兵子さんは、どうなったんですか?」

「私か? 私は……」


 兵子が顔を上げる。


「一カ月の謹慎期間付きで、姫山の指導員を続ける事になった」

「良かった。首にはならなかったんですね」

「ああ。だから、自ら狩人を辞めて来たよ」


 その言葉と共に、再び沈黙が走る。

 狩人を……辞めて来ただと?


「何で!?」

「何故って、言っただろう? 私は君の事を見捨てないと」

「いやいや! あれは真神を救出する時の話でしょう!」

「まあ、そうなのだが。どちらにせよ、私はもう狩人に戻る事は出来ない。狩人衆の会議で、色々とやらかしたからな」


 その言葉を聞いて、皆がごくりと息を飲む。


「やらかしたって……何をやらかしたんですか」

「結果が不服だったので、長老達をフルボッコにした」

「半殺し!?」

「いやあ、長老と言っても歴戦の古豪だったからな。さすがの私でも、黙らせるのには一時間以上も掛かってしまったよ」

「長老つえーな!」


 ひとしきり叫んだ後、肩で息をしながら冷静さを取り戻す。

 このまま兵子のペースに巻き込まれてはいけない。

 結果だけを受け止めて、これからの話をしなければ。


「それで、兵子さんは、これからどうするんですか?」

「そうだな。下界に降りて一般的な仕事をしても良いのだが、どうも下界の仕事は私に合わない気がする」

「そうですね。上司をタコ殴りにするような人には、絶対に無理です」

「ふむ、言い切られてしまったか」


 兵子がふっと鼻で笑う。


「そう言う事で、不躾ではあるが、この村に滞在させて貰いたいと思って居る」

「この村に?」

「ああ、この村は霊山内に存在こそして居るが、人間側の狩人協会には所属して居ないからな。治外法権と言う奴だ」

「でも、この村に滞在するには、鷹子さんの親父さんの許可が必要ですよ」


 それを言った途端、兵子から静かな殺気が放たれる。

 その殺気に当てられて、ゴクリと息を飲む周りの野次馬達。

 流石はもののけとのハーフ。放たれた殺気で兵子の実力を察した様だ。


「兵子君……と言ったか。村に滞在したいのに、敵対的な態度を取るのは、あまり友好的な手段では無いと思うのだが」


 村長である鷹尾の言葉に対して、兵子が笑顔を返す。


「私はまどろっこしい交渉は苦手でして。こうやって私の実用性を見せた方が、滞在の許可を頂けると思いました」

「成程。的を得ている。しかし、ここ以外でそれは通用しないと思うよ」


 鷹尾が腕を組み、真っ直ぐに兵子の事を眺める。

 強者同士の威圧合戦。

 若干ではあるが、空気が薄くなっている気がする。


「……まあ、良いだろう」


 そう言って、鷹尾がニコリと微笑んだ。


「半落ちは人材の補強が難しい。兵子君が節度を持ってこの村の為に働いてくれるのであれば、我々は君を歓迎する」

「大丈夫です。私は節度を守れる人間なので」

「うん、節度の保てる人間は、長老を半殺しにしないと思うだけど」

「節度を保って半殺しにしました」


 会話が成り立っているようで、全く成り立って居ないのは気のせいだろうか。

 ともあれ、どうやら兵子はこの村に滞在する事になったようだ。

 この人が下界に降りずに済んで、本当に良かった。


「それで、私はここに居付く事にしたが、一狼君はどうするんだ?」


 そう言われたので、顎に手を置いて考えて見る。

 正直な所、俺もこの村にお世話になるのが一番な気がするが、俺には別件で心配事が一つある。

 それは、俺の家族の事だ。


「兵子さん。俺は狩り免許をはく奪されてしまったんですが、俺の家族はどうなったんでしょうか?」

「ああ、春子さん達の事か」


 ここでやっと、兵子が出されていたお茶を飲み始める。


「春子さん達は元々狩人では無いので、特におとがめは無い。ただし、少しでも狩人協会に反発するような事があれば、どうなるかは分からないが」

「それは、姫神村から追い出されると言う事ですか?」

「ただでさえ家族が拘束対象なのだ。不審な動きを見せたならば、そうなっても仕方が無いだろう」

「成程、そうですか……って」


 俺は首を傾げる。


「拘束対象って、俺の処罰って免許はく奪だけじゃ無いんですか?」

「ん? 言って無かったか?」

「言ってませんね」

「ああ。では、言おう」


 兵子が手に持って居た湯呑を置く。


「桧山一狼。各霊山での横暴、及び、もののけ狩猟の妨害により、全武装の回収と懲役刑に処する」

「完全に犯罪者だよ!」

「まあ、狩人協会の厳罰だから、実際の犯罪者とは違うがな」

「だがしかし! 霊山で狩人に見つかったら有無を言わさず攻撃されると!」

「安心しろ。それは、私も同じだ」

「何と言う事だ!!」


 予想以上の結果に頭を抱える。

 まさか、ここまでの事態に発展するとは思って居なかった。


「これは困ったぞ。完全に逃亡者状態じゃないか」

「安心しろ。それは、私も同じだ」

「家族に会いたいけど、きっと姫山の警備は強化されているし……」

「猫屋敷一族が完全装備で一狼君が戻るのを待って居る。戻ったら拘束確実だ」


 兵子の言葉を聞いてうな垂れる。

 こうなっては、ほとぼりが冷めるまでこの村に潜伏するしかない。

 春子と秋名には申し訳無いが、俺はここで出来る事を探す事にしよう。


「成程。今の状態は全て把握しました」

「ふむ、分かってくれて何よりだ」

「それじゃあ、俺達はこの村で農業でも手伝って、余生を過ごすとしましょう」

「ん? 一狼君は何を言っているんだ?」


 疑問の表情を見せる兵子。


「我々は狩人なんだから、狩りを手伝うに決まってるだろう」


 はい、再び沈黙。


「……はい?」

「狩りの手伝いだ」

「いやいや、俺達は免許をはく奪されて……」

「そんな事は知らん」

「知らん!?」

「冗談だ。免許ならば、狩人協会以外の物を使えば良い」


 その言葉を聞いて、思わず目を丸める。

 すると、鷹尾がこちらを向いて、静かに微笑み口を開いた。


「半落ちの狩人の集い、通称『狩者衆』。彼らが発行している免許を取れば、段階を踏まずに、全ての霊山で狩猟が可能になる」


 まるで、お膳立てをして居たかのような展開。

 これに対しては、流石にため息を隠し切れなかった。


「いやあ、世の中って便利に出来ていますねえ」

「ふむ。まあ、これを取得したからと言って、狩人協会の人間に狙われる事に、変わりは無いのだがな」

「要するに、一層での狩りは危険と」

「その通りだ」


 そう言った後、兵子が立ち上がる。


「兎に角、我々には狩りをする力がある。お世話になるこの村に貢献する為にも、皆で免許を取り、狩人になろうでは無いか」


 満面の笑みで答える兵子。

 それを見て、俺も静かに微笑んでしまう。

 断たれたと思っていた狩猟生活。しかし、ひょんとした事で舞い戻って来た。

 まだ試験に合格出来るかは分からないが、やれるだけやってみよう。

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