表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/64

42話 姫山狩人に常識無し

 深い橙色に染まった空。

 俺達は傷付いた白火倶槌を連れて、ゆっくりと姫山を降りる。

 やがて、入り口が見えてくると、そこには仁王立ちの兵子と、姫山の仲間達が待っていた。


「兵子さん……」

「ふむ、来ると思って居たぞ」


 チラリと横を見る兵子。

 そこには、生気を失った未来が、地べたに座り込んで居た。


「さて、事情を聞こうか」


 山の入り口を挟み、起こった事を一から順に説明する。

 説明が全て終わると、兵子は深く頷き、再び未来の事を見た。


「成程。それは大変だったな」

「はい、そう言う事なので……」

「待て」


 俺達が山を降りようとした時、兵子がそれを止める。


「君達が山を降りると言う事は、狩猟大会をギブアップすると言う事だ。ギブアップすれば、大会中は山に入れなくなるぞ?」


 その言葉の後、未来が顔を上げる。

 作り笑い。

 俺でなくとも、その場に居る全員が、それを分かってしまっただろう。


「私は大丈夫だから! 一狼達は狩猟大会を頑張って!!」


 元気な声。


「白神君には色々やられたけど、姫山の狩人が弱い訳じゃないから! 一狼達がそれを証明して来てよ!」


 握った拳が小刻みに震えて居る。

 見える。

 形は無いが、彼女の痛みが……見える。


「だから……!」

「ひょいっとな」

「あー!!」


 そう言う事なので、俺達は彼女の言葉を無視して、山を降りました。


「何で……!」

「うるさい黙れ」


 未来を上から睨み付ける。

 未来は俺の睨みに対抗したが、やがて心が折れて、静かに下を向いた。


「あの、私……」

「未来、俺に嘘を吐いたな」

「あ、あれは仕方なく……!」

「仕方なくなんか無い」


 上から言葉を遮る。

 作り笑いすら出来なくなる未来。

 そんな未来に向けて、俺は。


「……ありがとうな」


 お礼をした。


「……え?」

「いやー。未来のお陰で、狩人の知識がまた増えたよ。やっぱりもののけの狩人って、凄い人達なんだな」

「いや、あの……」

「ああ、シロポンな。白神が置いて行ったから、秋名が回収した。山を降りたら返せよって言ったんだけど、聞かなくてさ」

「へー……って! 違くて!」


 未来が立ち上がる。


「何で私を責めないの!? 私は嘘をついてたんだよ! それに守人の事だって……!」


 腕を伸ばして未来の言葉を遮る。

 涙目の未来。

 彼女の痛みは、もう十分に伝わった。


「未来……」

「一狼……」

「さっきからギャーギャーうるさい」

『えぇぇぇ!?』


 その場の全員がドン引く。


「一狼君、それは無いだろう」

「狼さん、今のはありません」

「イチロー、ひどいガ」

「紳士的では無いね」

「おお……総攻撃か」


 その場に居る全員の睨みを無の心で避けた後、未来へと近付く。

 俯いて居る未来。

 そんな彼女を見て、俺は微笑む。


「統制のやり方は、色々あると思う」


 未来がゆっくりと顔を上げる。


「もののけの狩人にとって、戦闘力は重要な要素だとは思う。だけど、それを持って居るだけで、その人が統制に優れている人間だとは言えない」

「……でも、私はその強さすら、嘘で誤魔化そうとしたよ」

「そうだな。そして、簡単にバレた」


 未来が唇を噛む。


「多分、白神が来なくてもバレただろうな」

「……そうだね」

「だけど、それがバレたからと言って、俺達は誰も未来に失望してないぞ?」


 それを聞いた未来が目を丸める。


「俺は何も知らなかったけど、未来は未来なりに、守人として頑張ろうとしたんだろ? その結果を、俺達が否定する訳無いじゃないか」

「それでも、私は……」

「後悔するなとは言わないさ。だけど、俺も姫山の狩人として、未来に言える事がある」


 未来に視線を合わせる為に屈み、にこりと微笑み掛ける。

 そして、言った。


「未来は守り手として、姫山を守れて居る」


 風が吹く。

 姫山の麓から、とても優しい風が。


「未来は素人である俺が死なない様に、衣装を作ってくれた。未来は俺が狩人の和に入れる様に、いつも笑顔で接してくれた」


 それらは、俺が姫山に来た時に、ごく自然に行われた事。

 しかし、それがなければ、俺は姫山で何度も死に、狩人の和にも入れなかっただろう。

 未来が居てくれたからこそ、俺は己を偽る事も無く、自由にここに居られたのだ。


「白神が言っていた、統制を図ると言う行為は、霊山を守る為に必要な事だと思う。だけど、姫山の狩人を自由にしている未来のやり方も、間違ってない」

「……」

「だから……」


 だから。


「未来のやり方は、間違ってない」


 もう、涙を流さなくて良い。

 いつもの様に、笑ってくれれば良い。

 その笑顔に、幼かった頃の俺も、今の俺も、救われて来たのだから。


「……うん」


 雫の溜まった瞳を擦り、微笑む未来。

 見せてくれたのは、いつもの笑顔。

 これで良い。

 これで俺は、姫山の狩人として、堂々とやりたい事が出来る。


「そう言う事で……」


 ゆっくりと立ち上がり、皆の事を見る。


「俺はもう一度、姫山に入ります」

「……へ?」

「言われっぱなしは癪だからな。俺も姫山の狩人として、姫山を守れて居る事を証明しないと」

「……一狼。先生が最初に言っていた事、きちんと聞いてなかったの?」

「そうだぞ一狼君」


 兵子が俺の事を睨む。


「姫山に入るのならば、我々も連れて行くべきだろう?」

「先生まで!?」

「姫山を否定されたのだ。その狩人である私達が行かなくてどうする」

「で、でも……!」

「無駄だよ、未来」


 未来が全員に視線を送る。

 その全員の瞳が、俺達が姫山に入る事を、否定して居なかった。


「姫山の狩猟大会は、確かに終わりました。ですので、ここからは私用です」

「夜は少し苦手だガ、関係ないガ」

「同胞を蹂躙するのは、忍びないですねえ」

「夜戦は得意種目なんだよねー」

「未来を傷付けた人。許さない」


 全員が名乗りを挙げる。

 未来はポカンとした表情をして居たが、やがてため息を吐き、やれやれと言う表情を見せた。


「分かりました。私も行きます」

「だろうな。しかし、今回の戦いは激化する事が必死だ。怪我をしている未来君とシロ君は、山の入り口を守って貰うぞ」

「分かりました」

「鷹子君は二人のサポートを頼む」

「了解ガ」


 兵子がこちらに向く。


「一狼君は白神か」

「ですね」

「ふむ、好きにやれ。他の五人は遊撃だ。白之山の狩人だけでなく、全ての狩人をターゲットとする」

「え!?」

「未来君、何を驚いている? 姫山をコケにされたのだ。我々の実力を示すには、これが一番だろう」

「それは…どうでしょう?」

「ふむ、異論は無しと」


 各々が武器を携えて、姫山の麓に集う。

 陽は既に落ちて、辺りは月の明かりで仄かに見えるだけ。

 姫山に来て初めての、夜の遊撃戦だ。


(……ああ、良い夜だなあ)


 ぽっかりと浮かんだ満月を見ながら、徐に黒夜叉のフードを被る。

 黒夜叉適合。

 思考が否応無しに深くなり、普段見えない山の奥まではっきりと見える。


「各々、準備は良いか?」


 兵子の声に全員が頷く。

 皆が今装備している一式は、夜戦使用などではなく、普段通りの装備だ。

 しかし、今の俺には分かる。

 姫山の狩人が装備している一式は、どちらかと言えば夜戦向きに出来ている。


(つまり……姫山は夜の方が強い)


 万全。

 俺達は、目的を達成出来る。


「それでは……」


 皆がゆっくりと歩き出す。


「姫神サーカス、倣え!」


 姫山の入り口で立ち止まり、綺麗に横並びする一同。

 妲木戦の時にもやった儀式。

 この行為で、俺達は狩人としての指揮を高め、ついでに格好良い感じに酔いしれる。

 まあ、それは俺だけかも知れないが。


「目標、霊山に居る狩人の全滅!」

「了解!」

「一同! 入山!!」


 全員が走り出す。

 兵子と秋名は右に。春子と又吉は左に。そして、残りの狩人は正面に。

 さあ、皆殺しの始まりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ