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37話 真のローグライカー

「ありがとう」


 俺を見てふっと笑った後、又吉がゆっくりと横の芝に座る。


「いやー、今日は本当に大変だったねえ」


 軽い口調で言った後、春子が俺の為に作ってくれたスナック菓子を摘まむ。

 改めて思うのだが、せめて食べると告知してから食べたらどうだろうか。

 それとも、ここでは人の物を黙って食べる習慣でもあるのか?


「大量の炎木に妲木。僕も長く狩人をしていたけど、あれ程の規模は初めてだったよ」


 今度は勝手にお茶を飲み始める。


「だけど、桧山君のお陰で……」

「よし、飲むのを一度止めようか」

「んん?」

「それは、春子さんが俺の為に用意してくれた物です。誰であろうと、無許可で飲むのは許されない」

「ははは、そうですか」


 そう言って、又吉がお茶を飲み干す。

 成程。どうやら戦争をしたい様だな。

 今の俺には多種の成章がある。例え相手が伝説の狩人であろうとも……


「無断複製という表現は、少し乱暴だったんじゃないかな」


 突然話を変える又吉。

 その意図を察知した俺は、ふうと息を吐き、面倒臭そうに言った。


「元の持ち主が努力して手に入れた特性ですよ? それを簡単に複製してるんですから、悪く思われて当然でしょう」

「しかし、他に言い方があったろう」


 そう。俺は未来に、わざと悪く言った。

 だけど、それが何になると言うのだ。

 現に未来は元気を取り戻して、皆の元に帰って行ったではないか。


「自分を下比する言葉は、知らぬ間に自分の事を貶めるよ」

「良くない事だとは思います」

「そうだね。しかし……改めて考えてみると、君の怪物との付き合い方は、他の狩人とは少し違うねえ」


 又吉が再びお茶を飲む。


「普通の狩人達は、小さい頃から怪物を使う訓練を受けていて、それに基づいた戦い方をするものだ」

「そうみたいですね。龍治の時とか、初めて成章を使った筈なのに、全く違和感がありませんでしたから」

「そう。それと、もののけとの向き合い方も、他の狩人とは明らかに違う」


 それを聞いて、ドキリとする。


「もののけの狩人になった人間は、少なからず、もののけに恐怖の念を抱いているものだ。だからこそ、狩り衣装を作っても、簡単には適合出来ない」


 又吉が空を見上げる。


「しかし、君は違う。怪物だろうが、狩り衣装だろうが、使える物は全て使う。その心情は、どこから来てるのかな?」


 その問いに対しての答え。

 不死之山に遠征した時からずっと考えて居たのだが、妲木と戦った時に、その答えに辿り着いた。


「多分、俺が一般人だからですね」

「……ほう」


 俺は炎をじっと眺める。


「知識が無ければ、その者がどういう者か分からない。だから、もののけに対しても、生粋の狩人に比べて恐怖が少ない」

「それは逆じゃないかな? 一般人の方がもののけの耐性が無いから、より恐怖を感じると思うのだけれど」


 それは確かにその通りである。

 しかし、俺にはもう一つ、他の一般人とは違う要素がある。


「ローグライク……」

「うん?」

「未来から貰ったゲームです。どうやら狩人専用のゲームだったらしくて、俺はそれをずっとやっていました」


 それを聞いて、又吉が目を見開く。


「……そうか。そう言えば、賀古君がそんなゲームを作ったと、聞いた事があるね」

「お知り合いですか?」

「未来君の母親だよ。姫神賀古、霊山研究会の会長で、霊山を生業とする冒険家だ」


 その言葉を聞いて、少し驚く。

 未来の母親は、小さい頃に何度か会っていたが、見た目は普通の人間だった。

 それがまさか霊山の冒険家とは……世の中分からない事ばかりだ。


「しかし、あのゲームは難易度が高くて、多くの者が挫折したと聞いたが」

「そうなんですか?」

「うん。僕の知っている所で言えば、今それをやって居るのは、不死之山に居る裏飯屋の主人くらいだね」

「あ、俺その人に会いました」


 それを聞いた又吉がふっと笑った。


「成程。ローグライカー同士、自然と引き合ったと言う事か」

「ローグライカー?」

「ああ。裏飯屋の主人が言っていたんだ。賀古君のゲームをクリア出来る者こそ、真のローグライカーだってね」


 聞き慣れない単語に首を傾げる。

 又吉はそれに対して再び笑った後、ポケットからスマホを取り出した。


「成程ねえ、ローグライカーかあ……」

「あの……何か良からぬ事を考えては居ませんか?」

「いや別に」


 又吉がニヤニヤしながらスマホを弄る。

 その表情でピンと来た俺は、徐に自分のスマホを取り出し、もか専の自分の紹介ページを検索する。


「……」


 散々な紹介文が書かれていた俺のページ。

 今は全て削除されていて、称号のページには『姫山の道化師』と『ローグライカー』だけが残っていた。


「又吉さんにも、ページ変更の権限があったんですね」

「まあ、年寄りの道楽と言う奴さ。それと、これも加えておこうか」


 ポチポチと画面を操る又吉。

 黙って自分のページを眺めていると、称号の欄に新しく『疫病神』が追加された。


「俺の紹介文で楽しんでませんか?」

「そうだね。でも、的は得ているだろう?」


 それを言われて、何も言えなくなる。

 俺が姫山に来てからというもの、様々な事件や災害が起こり、姫山だけでは無く他の霊山にも迷惑を掛けている。

 それを考えれば、又吉が冗談で入れたこの称号も(本気かもしれないが)、強ち嘘だとは言えなかった。


「はい、登録完了」

「くっ、否めない!」

「ははは。しかし、今までのごちゃごちゃした紹介文より、余程的を得た紹介文になったと思うけどね」


 そう言われると、その通りである。

 俺の狩りのスタイルは、霊山で手に入れた素材を強化して、それを次の狩りに行かすスタイル。

 それは、現地調達で冒険の目的を果たす、ローグライクと同じ行為だ。


(まあ、ローグライカーと言う単語を知っている人が、どれ位居るかは別として……)


 そう思い、苦笑する。

 何にせよ、俺はこれで新しい称号を得た。

 これにどういう効果があるかは分からないが、少なくとも俺がどういう人間なのかと言う事は、明確になっただろう。


「それじゃあ、僕はそろそろ帰ろうかな」


 そう言うと、又吉はスマホをポケットに閉まって立ち上がる。

 キャンプファイヤーの炎も既に静められて、今は星の明かりだけが俺達の事を照らしている。

 どうやら、パーティーは終わりの様だ。


「ああ、一つ言い忘れていた」


 立ち上がった又吉が口を開く。

 こちらを見ない又吉。

 そんな彼の口から出た言葉は、俺が妲木を倒した時に感じた疑問の答えだった。


「僕が思うに、君今まで行って来た行為は、『狩り』では無いと思う」


 虚を突かれて言葉を失う俺。


「そんな君が、これからもののけとどう向き合い、狩人としてどの様な道を辿るのか。僕は楽しみにさせて貰うとするよ」


 言った後、その場を去る。

 他の人間も居なくなり、静寂を取り戻した校庭の一角。

 そんな寂しい場所で、ゆっくりと空を眺めながら、思う。


(狩りでは無い……か)


 言わんとする事は、何となく分かる。

 俺は今まで、目の前の敵を倒す事だけに必死だった。

 それらの行為は、ただの殺戮であり、とても狩りとは言えない。


(……俺がもののけの狩人になった理由って、なんだっけ?)


 惰性でなってしまった、もののけの狩人。

 俺が狩人として一人前になる日は、まだまだ遠そうだ。

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