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38話 霊山ゴールデンウィーク

 妲木を討伐して、数日が経った。

 姫之山高校に入ってから怒濤の日々が続いたが、妲木を討伐してからは、特に大きなイベントも無く、静かな時が流れて居る。

 そんな中、ローグライカーとして周囲に認知された俺が、何をしていたかと言うと。


『ぱしゅーん』


 相変わらず、射撃の訓練をしていた。


「ううむ……当たらん」


 校庭の反対側にある訓練用の的。

 最初の頃に使っていた小さな的とは違い、今は大太鼓の打面程の大きさの的なのだが、それでも当たらない。

 成章の正規弾は高級品なので、質を落とした弾を使っているのだが、弾の消費は既に百を軽く越えていた。


「もう一発!」


 二度目の発砲。

 今度は的の下をすり抜けて、地面に姫山の中へと消えて行く。

 それを見ていた射撃師匠の猫は、頬に手を置いてはぁと息を吐いた。


「狼さん」

「何でしょう」

「人間を辞めてください」

「辛辣!!」


 猫の一言に肩を落とす。

 どうして俺が撃つと、的に全く当たらないのだろうか。

 猫が代わりに撃つと、的の中心から弾が外れる事が無いのに。


「やっぱり、何かしらの不思議な力が働いているんじゃないかなぁ」

「その議論は、既に十回はしましたよね」

「ぐむっ……」


 真を突かれて更にへこむ。

 実は、余りにも成章の弾が当たらないので、他の銃で試した事があったのだが、それでも的には当たらなかったので、センスが無いと言う判断を成されて居た。


「狼さん」

「何でしょう」

「銃は殴る為の道具と言う事にしましょう」

「それは逃げですよね」

「いえ、英断です」


 止めの一言を言われて、地に膝を付く。

 もしかして、俺には本当に射撃のセンスが無いのだろうか。

 あれほど大きな的であれば、小さな子供でも当てられるだろうに。


「否! 俺は諦めない!」

「諦める以前の問題です」

「ぐっふぅぅ!!」


 血反吐を吐いてその場に倒れる。

 成程。俺には銃を撃つ資格すら無いと言う事か。

 それならば、仕方が無い。

 これからは猫に隠れて、射撃練習をする事にしよう。


「ふむ、相変わらずだな」


 上から声が聞こえたので、うつ伏せから仰向けに体を切り返す。

 すると、俺の正面にパンツスーツを着た兵子が立って居た。


「あ、お疲れ様です」

「寝たまま挨拶とは。一狼君も随分と馴れ馴れしくなったものだ」

「地面は友達なので」

「誰だってそうだ。それより、大事な話があるのだが」


 そう言われて、俺は素早く立ち上がる。


「何でしょうか」

「うむ、君がある程度の常識を持っていて、私は少し安心したよ」

「ありがとうございます」


 ふっと微笑む兵子。

 俺が成章を死角に戻すと、兵子が腕を組んで話を始めた。


「霊山ゴールデンウィークだ」

「成程、全く分かりません」


 いつものやり取りに、猫が小さく笑う。


「霊山ゴールデンウィークと言うのは、霊山のゴールデンウィークの事です」

「もののけが長期休暇でも取るんですか?」

「休暇と言うか、繁殖ですね」


 成程、繁殖か。

 そうなると、霊山にもののけが大量に出現すると言った所か?


「繁殖自体は問題無いのだ。もののけの気性が多少荒くなって、人間を襲い安くなるだけだからな」

「それは十分に問題では?」

「それよりも、こちらの方が問題だ」


 はい、無視されましたよ。

 それで、兵子が差し出したスマホに書いてある、この文章は何だろう。


「……霊山狩猟大会?」

「うむ、そうだ」


 それを聞いて、少し嫌な気分になる。


「成程、もののけが繁殖して居る事をいい事に、そこを狙い撃つ訳ですね」

「一狼君の発想は外道だな」

「そこまで言いますか」


 とは言え、俺もそう思って居たので、それ以上の反論はしない。

 そうなると、狩人達は何を狩猟すると言うのだろうか。


「今回の狩猟対象はもののけでは無く、他の霊山に住む狩人だ」

「うん? 俺よりも外道な発言が飛び出しましたけど?」

「言葉だけならそうだろうが、まあ聞け」


 兵子がスマホをポケットにしまい、再び腕を組む。


「ゴールデンウィークとは、人間が定めた連休だ。しかし、何故かは分からないが、その期間中は霊山が他の霊山と繋がるのだよ」

「それはいつもの事では?」

「それが、少し違うのです」


 そう言ったのは、横に居る猫。


「確かに霊山はいつも繋がって居るのですが、それは自由に行き来出来る訳では無く、部分的に繋がっているだけなのです」

「そう言えば、そうでしたね」

「しかし、この期間は霊山が完全に繋がり、山に入るとかなりの確率で、他の霊山の狩人に出会う様になります」


 それは困ったな。

 俺は成章を持っているせいで狙われてるから、迂闊に山に入れないぞ?


「そう言う事で、ゴールデンウィーク中は狩猟大会と称して、他の山の狩人達と腕を競い会おうと言う事だ」

「成程、狩人同士の殺し合いですか」

「その通りだ」


 おっと、言い切ったよ?

 ここでオブラートに包まないと言う事は、やはり狩人達は山同士で仲が悪いんだな。


「幾ら死なないと言っても、人間同士で殺し会うのは、如何なものでしょうか」

「何を言っている? そんな事は、現実世界では日常茶飯事だろう」


 それはそうかも知れないが、それこそオブラートに包むべき事案だろう。

 それに、死なないと言っても、結局は殺し合いだ。良い気分にはなれない。

 しかし、目の前に居る二人と来たら。


「昨年は凄かったですね」

「うむ、我が姫山狩人が霊山を蹂躙。猫もあれのおかげで、『黒の銃士』の称号を得たからな」

「それを言うのであれば、兵子さんのナイフで十人抜きの『通り魔』の方が……」


 とても楽しそうだな。

 兎に角、ゴールデンウィーク中は狩人の殺し合いがある事が分かった。

 よーし、絶対に参加しない事にしよう。


「とりあえず、未来君と一狼君の参加は登録して来たから、安心してくれ」

「あれ!? 拒否権!?」

「ありません」


 選択肢無しですか。

 まあ、そんな気はして居ましたよ。


「しかし、問題は残りの二人だ」

「二人?」

「狩猟大会は、一つの霊山から四人の参加が、最低の条件なのだよ」

「そうですか。それでは参加できませんね。ああとても残念です」

「前回参加した私と小夜子君。そして、鷹子君と又吉師匠は、参加出来ないとして……」


 中々に恐ろしい面子だな。

 前回参加者の事を思うと、御愁傷様と言う言葉しか浮かんで来ない。


「そう言う訳だから、後の二人は一狼君が探してくれ」

「無茶苦茶ですね」

「なぁに。大会の参加条件は、霊山付近に住む人間だ。その辺の村人でも捕まえれば、問題無いだろう」

「素人を参加させるのは問題では?」

「何を言っている? 姫山に住む住人達は、少なくとも君より強いぞ?」


 あらそうなんですか。

 これにより、俺が晴れて姫山最弱の人間である事が、確定した訳ですね。


「そう言う事だから、宜しく頼む」

「残念ですが、俺は村の人とのコミュニケーションが不足しています」

「そうか。頑張れ」


 はい、放置プレイ来ました。

 しかし、一度兵子がそう言った以上、その意見が覆る事は無いだろう。

 仕方が無いので、俺は渋々兵子の提案に頷いて見せた。


 

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