表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/64

36話 彼女が俺の生命線

 防衛戦を終えた面々は、各々戦いの後片付けを済ませて、姫之山高校の校庭へと集う。

 今回の狩りで得たのは、炎木の体を構成していた木材。

 様々な用途に使えて便利らしいが、俺達はその中の大きな木材を集めて、校庭でキャンプファイヤーを行う事にした。


(……)


 キャンプファイヤーから少し離れた芝生に座り、ぼうっと炎を眺める。

 夜の闇を切り裂き、ゆらゆらと燃え上がる炎。

 そこから感じられる温かさは、昼間の戦闘で受けた痛みを和らげてくれる。


(大変な一日だったなぁ……)


 そんな事を思いながら、近くに置いていたスナック菓子を摘まむ。

 春子が作ってくれたスナック菓子。

 美味しいのだが、少し不思議な味がするので、もののけの食材で作ったのだろう。


「一狼」


 そんなマッタリとしていた俺の元に、浴衣姿の未来が現れる。

 椿の花がプリントされた、黄色の浴衣。

 未来は狩り衣装も浴衣だったので、きっと浴衣が好きなのだろう。


「よっこらしょ」


 若者らしくない掛け声と共に、未来が俺の横に座り、ぼうっと炎を眺める。

 無邪気な笑顔の中に隠れて見える、少し寂しそうな感情。

 その表情を見て、俺は未来が次に何を言おうとしているか、何となく分かった。


「……一狼は、凄いね」


 称賛。


「妲木と戦って居た時、私は何も出来なかった。でも、一狼は直ぐに適応して、白火倶槌と一緒に妲木を倒した」

「……」


 そんな事は無い。

 そう言いたかったが、それでは未来の心を削るだけだと思い、沈黙を選択する。


「私ね。家庭の事情で、小さい頃から狩人になる事が決まってたんだ。だから、一狼に初めて会った時も、見えない所で狩人になる為の勉強してた」


 そう言った後、俺が持ってきていたスナック菓子を勝手に摘まむ。

 おいおい、何をしているのかな?

 これは春子さんが、俺の為に作ってくれた物だよ? 食べる前に、まず許可を取るべきでは無いのかな?


「一狼にあげたあのゲームも、狩人になる為の勉強道具だったんだ。でも、一時期それが嫌になって、一狼にあげちゃった」


 ふうとため息を吐き、スナック菓子の横に置いてあった、俺の飲み物を飲む。

 この際許可の事は諦めるが、そのカップで飲むと間接キスになるとか、少し恥じらいを持ってみたらどうだろうか。


「その後は真面目に勉強してきたんだけど、それでも、一狼みたいに狩りが出来ない」


 再びスナックに手を伸ばす。

 悲しそうに空を見て頬張っては居るが、どんどん減るスナックに気を取られて、感情移入が出来ない。

 こいつは困ったね。


「一狼、私……」

「よーし、とりあえず食うのを止めろ」

「え!?」


 未来がこちらを向き、目を見開く。


「それは春子さんが作ってくれた物だ。俺の許可無しに食べる事は許されない」

「今日用意してある料理は、全部春子さんがデリバリーしてくれた物だよ!?」

「それはそれ! これはこれだ!」


 俺はキリッと未来を睨む。


「それにな。俺は狩りが上手い訳じゃない。今までのは運が良かっただけ。俺は運に恵まれた奴なんだよ」

「そんな事無いよ。一狼は実力で……」

「ふっ、分かってないな」


 ニヤリと笑い、死角から銃を取り出す。

 その銃は、妲木との戦いでも取り出した、赤屋敷家秘伝の赤い成章。


「はい、今龍治からコピーしました」

「コピーしたの!?」

「うん。俺も防衛戦の後に気付いたんだけど、どうやら今まで出した特殊な成章って、誰かの所有物みたい何だよね」


 言った後、死角に成章を戻して、今度は別の成章を取り出す。


「はい、又吉さんの衛星成章」

「伝説の人物まで!?」

「そう、つまり俺の成章の特性は……」


 辿り着いた結論。


「他人の所持している成章を、俺の都合で『特性ごと』複製する力だ」


 その言葉を聞いて、未来が言葉を失う。

 まあ、分からないでも無い。

 持ち主がどんなに抗おうとも、俺が意識すれば、簡単に複製出来てしまうのだから。


「……一狼。無許可の複製は犯罪だよ?」

「バレなければどうと言う事は無い」

「又吉さんがこっちを見詰めてるけど!?」

「バレれば大変な事になる」


 そう言って、衛星成章を死角に戻す。


「そういう訳で、俺はチート染みた怪物を手にした訳だ。これにより、俺が手を下さずとも、成章が全てを蹂躙するだろう」

「何か怖い!」

「いや、むしろ成章が本体で、俺が成章の部品だな。俺は引き金を引くだけの……」

「そんな事は無いよ!」


 突然未来が立ち上がる。


「一狼は自分で頑張ってるよ! 全部成章のお陰だなんて! 絶対に違う!!」


 拳を握り締め、怒りの表情を見せる未来。

 そんな彼女の顔を見て、俺は安堵の微笑みを返した。


「それだよ」


 ポツリと言った後、炎に視線を戻す。


「俺が成章でもののけを撃てたのは、成章が強いからじゃない。未来の作ってくれた衣装が適合して、俺の能力が向上したからだ」

「……あ」


 ふふっと笑った後、飲み物のカップを手に取り、一口飲む。


「未来はいつも俺の事を誉めてくれるけど、俺の狩りの根本には、必ず未来のサポートがある。それが無ければ、俺は姫山で生きる事すら出来ない」

「そんな事は……」

「あるさ」


 飲み物のカップを芝生に置く。


「だって俺、未来から衣装を貰う前まで、必ず姫山で死んでいたから」

「……」


 未来が何とも言えない表情を見せる。

 そう。

 俺は火倶槌の衣装を借りた時以外、全て殺されて姫山を出ているのだ。


「……そう言えば、そうだね」

「皆勘違いしてるみたいだけどさ。実は俺は、自分の実力でもののけを一匹も狩った事が無いんだよね」

「あれ? 雷鎚の時は?」

「銛付き成章とハンマー成章のコンボ。殺されるギリギリで銛のリールが限界になって、その瞬間にハンマー成章が出てきた」

「ああ……」


 残念そうな声を出した後、無言で空を見上げる未来。

 分かって頂けただろうか。

 確かに俺は、主クラスのもののけを三体も倒しては居るが、その全ては運であり、元の実力は全く変わって居ないのだと。


「何でだろうなぁ。通常時は小さな鎌鼬すら倒せないのに、主クラスが絡むと色々な要素が揃って、何故か倒せてしまう」

「……うーん」

「ほらな? そうとしか言えないだろ?」

「いや、運って言いたい訳じゃなくて……」


 困った表情を見せる未来。

 とにかく、これで分かっただろう。


「つまり、俺は未来が居なければ、生きる事すら出来ないんだよ」

「一狼……言い方が怖いよ」

「つまり、未来は全然駄目じゃない。そういう事だ」


 それを聞いて、未来が小さく笑う。


「何それ。意味分かんないよ」

「今は分からなくても良い。しかし、いずれ分かる時が来る」

「仙人ですか?」


 そう言って、二人で笑う。

 どうやら、未来は元気を取り出した様だ。

 本当に良かった。

 未来が元気な姿を見る事で、俺も元気を貰う事が出来る。

 それに……


(やっと、本当の事を言えた……)


 そう。

 本当の俺は強くなんて無い。

 強くなんて……無いんだ。


「未来さーん」


 キャンプファイヤーの近くに居る猫が、未来の事を呼ぶ。

 楽しそうにはしゃいで居る仲間達。

 未来はそれに頷いた後、俺に軽く手を振って、皆の元に合流した。


(……ふう)


 再び一人になり、小さく息を吐く。

 正直、疲れた。

 貧乏生活のせいで対人スキルは身に付いたが、正直人と話すのは苦手だ。

 今日はもう一人で居たい。

 一人で……


「横、良いかな?」


 そんな時に現れる伝説の狩人。

 俺は心の中でうんざりしたが、邪険にする訳にも行かないので、小さく頷いて見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ