36話 彼女が俺の生命線
防衛戦を終えた面々は、各々戦いの後片付けを済ませて、姫之山高校の校庭へと集う。
今回の狩りで得たのは、炎木の体を構成していた木材。
様々な用途に使えて便利らしいが、俺達はその中の大きな木材を集めて、校庭でキャンプファイヤーを行う事にした。
(……)
キャンプファイヤーから少し離れた芝生に座り、ぼうっと炎を眺める。
夜の闇を切り裂き、ゆらゆらと燃え上がる炎。
そこから感じられる温かさは、昼間の戦闘で受けた痛みを和らげてくれる。
(大変な一日だったなぁ……)
そんな事を思いながら、近くに置いていたスナック菓子を摘まむ。
春子が作ってくれたスナック菓子。
美味しいのだが、少し不思議な味がするので、もののけの食材で作ったのだろう。
「一狼」
そんなマッタリとしていた俺の元に、浴衣姿の未来が現れる。
椿の花がプリントされた、黄色の浴衣。
未来は狩り衣装も浴衣だったので、きっと浴衣が好きなのだろう。
「よっこらしょ」
若者らしくない掛け声と共に、未来が俺の横に座り、ぼうっと炎を眺める。
無邪気な笑顔の中に隠れて見える、少し寂しそうな感情。
その表情を見て、俺は未来が次に何を言おうとしているか、何となく分かった。
「……一狼は、凄いね」
称賛。
「妲木と戦って居た時、私は何も出来なかった。でも、一狼は直ぐに適応して、白火倶槌と一緒に妲木を倒した」
「……」
そんな事は無い。
そう言いたかったが、それでは未来の心を削るだけだと思い、沈黙を選択する。
「私ね。家庭の事情で、小さい頃から狩人になる事が決まってたんだ。だから、一狼に初めて会った時も、見えない所で狩人になる為の勉強してた」
そう言った後、俺が持ってきていたスナック菓子を勝手に摘まむ。
おいおい、何をしているのかな?
これは春子さんが、俺の為に作ってくれた物だよ? 食べる前に、まず許可を取るべきでは無いのかな?
「一狼にあげたあのゲームも、狩人になる為の勉強道具だったんだ。でも、一時期それが嫌になって、一狼にあげちゃった」
ふうとため息を吐き、スナック菓子の横に置いてあった、俺の飲み物を飲む。
この際許可の事は諦めるが、そのカップで飲むと間接キスになるとか、少し恥じらいを持ってみたらどうだろうか。
「その後は真面目に勉強してきたんだけど、それでも、一狼みたいに狩りが出来ない」
再びスナックに手を伸ばす。
悲しそうに空を見て頬張っては居るが、どんどん減るスナックに気を取られて、感情移入が出来ない。
こいつは困ったね。
「一狼、私……」
「よーし、とりあえず食うのを止めろ」
「え!?」
未来がこちらを向き、目を見開く。
「それは春子さんが作ってくれた物だ。俺の許可無しに食べる事は許されない」
「今日用意してある料理は、全部春子さんがデリバリーしてくれた物だよ!?」
「それはそれ! これはこれだ!」
俺はキリッと未来を睨む。
「それにな。俺は狩りが上手い訳じゃない。今までのは運が良かっただけ。俺は運に恵まれた奴なんだよ」
「そんな事無いよ。一狼は実力で……」
「ふっ、分かってないな」
ニヤリと笑い、死角から銃を取り出す。
その銃は、妲木との戦いでも取り出した、赤屋敷家秘伝の赤い成章。
「はい、今龍治からコピーしました」
「コピーしたの!?」
「うん。俺も防衛戦の後に気付いたんだけど、どうやら今まで出した特殊な成章って、誰かの所有物みたい何だよね」
言った後、死角に成章を戻して、今度は別の成章を取り出す。
「はい、又吉さんの衛星成章」
「伝説の人物まで!?」
「そう、つまり俺の成章の特性は……」
辿り着いた結論。
「他人の所持している成章を、俺の都合で『特性ごと』複製する力だ」
その言葉を聞いて、未来が言葉を失う。
まあ、分からないでも無い。
持ち主がどんなに抗おうとも、俺が意識すれば、簡単に複製出来てしまうのだから。
「……一狼。無許可の複製は犯罪だよ?」
「バレなければどうと言う事は無い」
「又吉さんがこっちを見詰めてるけど!?」
「バレれば大変な事になる」
そう言って、衛星成章を死角に戻す。
「そういう訳で、俺はチート染みた怪物を手にした訳だ。これにより、俺が手を下さずとも、成章が全てを蹂躙するだろう」
「何か怖い!」
「いや、むしろ成章が本体で、俺が成章の部品だな。俺は引き金を引くだけの……」
「そんな事は無いよ!」
突然未来が立ち上がる。
「一狼は自分で頑張ってるよ! 全部成章のお陰だなんて! 絶対に違う!!」
拳を握り締め、怒りの表情を見せる未来。
そんな彼女の顔を見て、俺は安堵の微笑みを返した。
「それだよ」
ポツリと言った後、炎に視線を戻す。
「俺が成章でもののけを撃てたのは、成章が強いからじゃない。未来の作ってくれた衣装が適合して、俺の能力が向上したからだ」
「……あ」
ふふっと笑った後、飲み物のカップを手に取り、一口飲む。
「未来はいつも俺の事を誉めてくれるけど、俺の狩りの根本には、必ず未来のサポートがある。それが無ければ、俺は姫山で生きる事すら出来ない」
「そんな事は……」
「あるさ」
飲み物のカップを芝生に置く。
「だって俺、未来から衣装を貰う前まで、必ず姫山で死んでいたから」
「……」
未来が何とも言えない表情を見せる。
そう。
俺は火倶槌の衣装を借りた時以外、全て殺されて姫山を出ているのだ。
「……そう言えば、そうだね」
「皆勘違いしてるみたいだけどさ。実は俺は、自分の実力でもののけを一匹も狩った事が無いんだよね」
「あれ? 雷鎚の時は?」
「銛付き成章とハンマー成章のコンボ。殺されるギリギリで銛のリールが限界になって、その瞬間にハンマー成章が出てきた」
「ああ……」
残念そうな声を出した後、無言で空を見上げる未来。
分かって頂けただろうか。
確かに俺は、主クラスのもののけを三体も倒しては居るが、その全ては運であり、元の実力は全く変わって居ないのだと。
「何でだろうなぁ。通常時は小さな鎌鼬すら倒せないのに、主クラスが絡むと色々な要素が揃って、何故か倒せてしまう」
「……うーん」
「ほらな? そうとしか言えないだろ?」
「いや、運って言いたい訳じゃなくて……」
困った表情を見せる未来。
とにかく、これで分かっただろう。
「つまり、俺は未来が居なければ、生きる事すら出来ないんだよ」
「一狼……言い方が怖いよ」
「つまり、未来は全然駄目じゃない。そういう事だ」
それを聞いて、未来が小さく笑う。
「何それ。意味分かんないよ」
「今は分からなくても良い。しかし、いずれ分かる時が来る」
「仙人ですか?」
そう言って、二人で笑う。
どうやら、未来は元気を取り出した様だ。
本当に良かった。
未来が元気な姿を見る事で、俺も元気を貰う事が出来る。
それに……
(やっと、本当の事を言えた……)
そう。
本当の俺は強くなんて無い。
強くなんて……無いんだ。
「未来さーん」
キャンプファイヤーの近くに居る猫が、未来の事を呼ぶ。
楽しそうにはしゃいで居る仲間達。
未来はそれに頷いた後、俺に軽く手を振って、皆の元に合流した。
(……ふう)
再び一人になり、小さく息を吐く。
正直、疲れた。
貧乏生活のせいで対人スキルは身に付いたが、正直人と話すのは苦手だ。
今日はもう一人で居たい。
一人で……
「横、良いかな?」
そんな時に現れる伝説の狩人。
俺は心の中でうんざりしたが、邪険にする訳にも行かないので、小さく頷いて見せた。




