表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/64

29話 旅の帰りはショートカット

 片目のフードを頭から外して、ゆっくりと立ち上がる。

 周りに居るのは、姫山で行動を共にして居た仲間達。

 しかし、兵子以外は俺の事を、恐怖の目で見て居る。

 多分、俺が黒夜叉と適合して『常識外れな事』をしたから、恐れて居るのだろう。


「いやはや、驚いたな」


 それを緩和させるかのように、兵子が笑顔で口を開く。


「黒夜叉に適合した人間は何人か見た事があるが、ここまで的確に黒夜叉の適性を利用した人間を見たのは、これが初めてだ」

「それって、褒めて居ますか?」

「いや、気持ち悪かった」

「ですよねえ」


 そう言いながら、はははと笑う。

 もののけの狩人になって、まだ一カ月も経って居ない俺。

 銃の扱い方も素人で、今まで狩ったもののけは、完全に運が良かっただけ。

 それなのに、今回は黒夜叉の力を借りて、人間離れした技で、四人の狩人を軽々と倒してしまったのだ。

 これで気持ち悪く無ければ、その人間は完全に霊山に染まって居るだろう。


「所で、一狼君」

「何ですか?」

「君の本名を言いたまえ」

「桧山一郎です」

「君の二つ名は?」

「姫山の道化師」

「ふむ、どうやらまだ取り込まれては居ない様だな」


 次の瞬間、兵子が一瞬で間合いを詰めて、ナイフで俺の事を切りつける。

 否。切ったのは黒夜叉の毛皮。

 毛皮は俺の中心から真っ二つに切り裂かれて、バサリと地面に落ちた。


「はっ!?」

「一狼君。君の名前は?」

「桧山一郎です」

「今切った毛皮は、一般市場だと数百万はする物だが」

「い、胃が! 胃がぁぁぁぁ!!」


 貧乏性が発動して、胃がキリキリと音を鳴らす。

 どうやら無事に、自分に戻れた様だ。


「ふむ、健康で何よりだ」

「体は健康ですが、神経がやられました」

「はは、言い捨て妙だな」


 兵子が笑った事で、周りもやっと落ち着きを取り戻す。

 成程、これは危なかった。

 あのままだと、俺は黒夜叉に精神を取り込まれていたかも知れない。


「いやあ、適合ってヤバいんですね」

「本気で取り込まれそうになった後に、それを軽く言う君もどうかと思うぞ」

「いや、実際半分トランスしてましたから。もののけ凄く怖い」

「そうだな。適合はある意味で諸刃の剣だ」


 そう言いながら、兵子がナイフをしまう。


「しかし、それを上手く使って共存すれば、実力以上の力を出せるのも事実だ」

「そうですね。でも、俺はもうごめんです」

「それはどうだろうな。一狼君は霊山に好かれて居る様だから、そのうちもののけ自ら狩られにくるかもしれない」

「いや、その時に狩られるのは、間違いなく俺なんですけど」

「だろうな」


 だろうなて。

 まあ、実際そうなのだから仕方が無い。

 今回の件は特別であって、いつもの俺は平凡で未熟な狩人なのだから。


「一狼!」


 目の前に居た未来が突然大声を出して、俺の頭にチョップする。


「馬鹿! バカバカ……!」

「いや、あの」

「凄く心配したんだから! この馬鹿ぁ!」

「ちょ、今の俺は……」


 会心の一撃。

 流石に耐えきれなくなり、俺は前のめりに倒れてしまった。


「一狼!?」

「うん、強がって立って居たけど、もう体が限界なんですよ」

「やった! 貧弱な一狼が戻って来た!」

「貧弱って……まあ、そうなんだけど」


 言った後、苦笑いをしながら鷹子を見る。

 俺を見て小さく笑って居る鷹子。

 どうやら、もう体力は回復したらしい。


「それじゃあ、鷹子さんも回復したようですし、皆で帰りますか」


 俺がそう言うと、何故か皆が複雑そうな表情を見せた。


「何か問題がありますか?」

「ああ、大きな問題がある」


 首を傾げると、兵子がふうとため息を吐き、やれやれと言う表情で言った。


「このまま山を降りると、私達は姫山に帰れるが、鷹子君と一狼君は、不死之山に戻されてしまう」

「あ……」

「私が先に山を降りて、不死之山に向かえば何とかなるが、君達二人はその怪我で、私達を待つ事は出来ないだろう?」


 確かにその通りだ。

 恐らく、俺達が町に戻されたら、それ相応の報復が待っているだろう。


「……あの」


 そんな時、未来が小さく手を上げる。


「私達って成章に導かれて、不死之山に辿り着いたんですよね?」

「うむ、そうだが」

「それなら、また成章にお願いすれば、全員で姫山に帰れるんじゃないでしょうか」


 それを聞いて、全員が黙る。

 未来の言う通りではあるが、そんなご都合展開がありえるだろうか。


「うむ、皆で手を繋げば行けそうだな」

「行けますかね!?」

「冗談だ。しかし、成章は一狼君の銃だ。君が望めば、その力を発揮してくれるのではないか?」


 その言葉で、全員が俺の事を見る。

 確かに俺が頼めば、成章は答えてくれるかもしれない。

 しかし、俺は成章に助けて貰ってばかりで、何一つ返せていない。

 そんな状況で、こちらの都合を押し付けるのは、俺のポリシーに反している。


「うーむ、どうしようか」

「一狼!? 頼むの一択でしょ!?」

「いやしかし、このまま成章に依存するのもどうかと……」

「果夏さんは怪我をしてるんだよ!? 町に降りたらあんな事やこんな事されるかも知れないのに!!」


 言われてみればその通りだ。

 俺個人であれば、あんな事やこんな事をされても良いのだが、鷹子は巻き込めない。

 そう言う事で、俺は素直に成章の力を借りる事にした。


「まあ、そう言う事だから」


 そう言いながら、成章を見詰める。

 それと同時に、成章の弾倉が勝手に開き、空の薬莢が音を立てて飛び出す。

 キーンと言う、心地よい金属音。

 どうやら成章は了承してくれた様だ。


「大丈夫みたいです」

「うわぁ……冗談で言ったつもりだったのに、一狼は本当に成章と対話したんだ」

「うん、未来も大概だよね」


 未来がてへっと微笑む。

 何はともあれ、これで皆で姫山に戻る事が出来そうだ。

 不死之山の狩人達からは相当恨まれるだろうが、後の事は考えないようにしておこう。


「それじゃあ、帰ろうか」


 そう言った後、俺はやっと立ち上がる。

 途中で少しふらついたが、未来が肩を貸してくれたので、何とかその場を後にする事が出来た。



 成章を持ちながら山を降りていると、やがて景色が変わり、見慣れた風景になる。

 姫山だ。

 人が死ぬ度に変わる景色だが、基本構造は同じなので、俺は直ぐに分かった。


「ふむ、帰ってきたようだな」


 横を歩いていた兵子が言う。


「一狼君、今回は本当にご苦労だった」

「いえ、俺は何も…」

「謙遜するな。君は私の要望に答え、鷹子を姫山に戻してくれた。これは、誉められて当然の行為だ」


 その言葉に対して、俺は素直に笑えない。


「どうした? 何か懸念があるのか?」


 ある。

 それは、鷹子と約束したあの事だ。


「鷹子さんと白火倶槌を守る約束をしたのですが、守る事が出来ませんでした……」


 そう言って、俺は俯く。

 鷹子を守る事が最優先とはいえ、俺は白火倶槌を不死之山に置いてきてしまった。

 このままでは、いずれは不死之山の狩人に狩られてしまうだろう。


「何だ。そんな事か」


 それに対して、軽い返事をする兵子。

 気分が悪くなって兵子を睨んだのだが、兵子は平然と笑ってこちらを見ている。

 一体何が楽しいと言うのだろうか。


「一狼君」

「はい」

「私達の後ろをよーく見てみろ」


 その言葉に、一度は首を傾げる。

 しかし、直ぐにその意図が分かり、俺は振り向いて山の奥を凝視した。


(……ああ。そうか)


 遥か後方に小さく見える影。

 白い毛皮を輝かせて、うっすらと青い炎を纏って歩く、熊の様な形をしたもののけ。

 白火倶槌。


(成程、あれは駄目だ)


 そんな彼の姿を遠目に捉えて、静かに苦笑いを見せる。

 遠くからでも伝わる威厳と風格。

 あれとまともに対峙したら、何をする事も無く、一瞬で消されるだろう。


「最早もののけと言うより、神獣ですね」

「そうだな。一般的に色付きは変異種と呼ばれているが、その力は並みのもののけとは桁が違う」

「何で俺達は黒夜叉を狩れたんですかね?」

「それは……」


 兵子がふふっと笑う。


「……霊山の導きだな」

「導き?」

「今は分からなくて良い。このまま狩人の仕事を続けていれば、いずれ分かる」


 含みのある返答。

 しかし、俺はもう疲れ果ててしまったので、それ以上の事は考えなかった。


「一狼君。村の明かりが見えてきたぞ」


 振り返って見ると、山の出口に小さい明かりが二つ程見える。

 そこに居たのは、春子と秋名。

 俺がここから戻って来る事を分かる筈も無いのに、彼女達は何故かいつも俺の帰る場所に居る。


(ああ、帰ってきた……)


 俺の帰るべき場所。

 あの二人が待っている限り、例え何があろうと、俺はあの場所に戻るだろう。

 そして、これから何が起ころうとも、俺はあの大切な場所を、必ず守って見せる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ