27話 それぞれの成章
「不死之山の狩人を一掃してくれて、ありがとよ」
赤く染まった成章でポンと手を叩き、ニヤリと微笑む。
龍の狩人、赤屋敷龍治。
姿が見えないと思っていたら、出てくるタイミングを伺って居たのか。
それにしても……
「何で鷹子さんの方を狙ったんですか?」
「あん? 面倒な方を狙うのは、戦いの基本だろうが」
つまり、俺はいつでも殺れると言う事か。
「それにしても、おやっさんの言葉は、冗談じゃなかったんだな」
龍治が左右に歩き出す。
「山の指揮はお前に任せろ。あんときゃあ蔑ろにされたと思って頭に来たが、お前は危険地帯を簡単に駆け抜けやがった」
「……見ていたんですか」
「ああ、お前らの直ぐ後ろに居たぞ? 気付かなかったか?」
残念ながら、全く気が付かなかった。
しかし、半落ちの鷹子ですら気付いて居なかったのだから、龍治の気配を消す術が優れているのだろう。
「それにしても、良いのか?」
その言葉に首を傾げる。
そして、次に龍治が言った一言。
「半落ちはもののけのハーフだから、死んだら他の奴等よりも、霊山に取り込まれ安いぞ?」
反転。
血液が逆流し、慌てて鷹子の元まで走る。
「鷹子さん!」
大木に背を預けて、小刻みに息をしている鷹子。
霊山での負傷は血液が出ないので、外見だけでは傷の深さが全く分からない。
今はとにかく、未来から貰った傷薬を飲ませて、少しでも体力を回復させなければ……
「!!」
龍治が銃を発砲して来たので、鷹子を抱えて横に飛ぶ。
小規模な爆発。
それを横目に見ながら、とにかく傷薬を鷹子の口に放り込む。
「龍治さん! 鷹子さんを殺す気ですか!」
「そうだよ。邪魔だからな」
軽い口調でそう言いながら、龍治が成章の弾を再装填する。
赤く染まった成章。
俺が持っていた時は、弾が爆発するような特性は無かったはずだ。
「あん? この成章が気になるのか?」
そう言って、成章を前に向けてくる。
「赤色成章。それがこいつの名前だ」
「赤色?」
龍治は頷くと、しんみりとした表情で上を向く。
「桧山、聞いてくれるか」
「はい?」
「俺の一族はよお……貧乏だったんだ」
「はいぃ?」
突然語り出す龍治。
「赤屋敷になる前なあ、うちの一族は赤井って呼ばれていて、そこらに居る一般の狩人だったんだ」
「はあ」
「そんなうちの一族は、とにかく狩りが下手でよお。山に入っては罠に掛かり、裸一貫で帰って来る事の繰り返し。そのうち『裸族の赤井』とまで呼ばれる様になっちまった」
うん、今の俺の二つ名と良い勝負だな。
「だが、ある時一族の一人が成章と適合してよ。そこから一族の人生が、がらりと反転したんだ」
龍治が成章に視線を落とす。
「着弾時に爆発する成章。火薬に精通していた赤井一族のみに発現した、特別な成章だ。これを手にして以降、赤井一族の人間は多くのもののけを狩れる様になって、遂にはあの白火倶槌を単独で狩る事に成功した」
こちらを睨み付ける龍治。
「そして、一族はこの装備に至った」
次の瞬間、龍治の纏っていたマントから、炎が放たれる。
「発火草と白火倶槌の毛皮で作った『白火防布』。この衣装を着ると、霊山の罠は全無視出来る。これらを駆使する事によって、赤井一族はより多くのもののけを狩り、屋敷名を頂くレベルの狩人になった訳だ」
話が長いな。そろそろ飽きてきたぞ。
「そう言う訳だから、白火倶槌は赤屋敷にとって、特別な獲物だ。誰にも渡す気は無え」
「はあ、そうですか」
「つまり……」
龍治が成章を構える。
「お前らは邪魔なんだよ!」
発砲。
何とか爆発からは回避したが、避けた時の衝撃で鷹子にダメージが入ってしまう。
「龍治さん! 鷹子さんはもう動けない! 彼女を狙う理由は無いはずだ!」
「あん? そんなの関係無えんだよ」
ゆっくりと次弾を装填する龍治。
そして、一言。
「俺の邪魔をする奴は、例え誰であろうが、全員消す事にしてんだ」
静寂。
……こんな気持ちは何時ぶりだろうか。
あの時は、秋名の事を馬鹿にされた時だったな。
あの時喧嘩した奴の言葉は、今でも心に刻み付けられて居る。
「……そうですか」
あいつはこう言ったんだ。
身内を傷付けられた時、お前は人間性を失う……と。
「それじゃあ、良いです」
終わりだ。
もう俺は、龍治を説得しない。
好きにすれば良いさ。
「つう事で……くたばりやがれ!」
龍治が鷹子に銃を向ける。
鷹子の前にゆっくりと移動する俺。
龍治はお構い無しに銃弾を放つ。
「……」
爆発。
肩に着弾して吹き飛ばされそうになったが、俺は動じない。
「はっ! 人壁にでもなるつもりかよ!」
次弾装填、発砲。
次の弾は顔に直撃して、皮膚が焼けるように熱い。
それでも、俺は動かない。
「……」
繰り返し発砲してくる龍治。
腕、足、腹。
黒夜叉の毛皮のお陰で燃え尽きる事は無いが、熱が体に蓄積されて、身体中が燃えるように熱い。
いや、熱いか?
それよりも、頭に浮かんでいる悔しい感情が俺を支配して、心の痛みだけが俺を傷付けて居る。
「……おい桧山。どう言う事だ?」
悔しい。
どうして俺は……
「何でお前は死なねえんだ!?」
どうして俺は、こんな事でしか、仲間を守る事が出来ないんだ?
「桧山!!!!」
相変わらず撃ち続けて来る龍治。
本当は一発ぶん殴ってやりたいが、残念ながら俺の実力では、彼の元まで届かないだろう。
今の俺に出来る事は、鷹子が逃げられる様になるまで、彼女の盾になる事だけだ。
「くそっ!」
業を煮やした龍治が、間合いを積めて弾を放つ。
爆発。
それでも、俺は動かない。
「くそっ! くそぉぉ!!」
この間合いであれば、俺の銃を速射すれば、龍治に当たるかも知れない。
だけど、それはしない。
こんな奴に、未来から受け取った銃を、使いたくない。
「桧山ぁぁぁぁ!!」
うるさいな。
撃ちたいなら幾らでも撃てよ。
どんなに撃とうが、俺はここから動かないのだから。
「いい加減に……!!」
龍治が装備をナイフに切り替える。
流石にあれで刺されたら、俺は死ぬかもしれない。
「くたばれやぁぁぁぁ!!」
振りかざされる大型のナイフ。
既に動けない俺。
ああ、せめて。
せめて鷹子が、この場から上手く逃げられるように、祈ろう。
「……」
静寂。
龍治の振りかぶったナイフは、間違いなく俺の頭に振り落とされた。
振り落とされた筈なのだが。
(……あれ?)
俺はまだ、生きている。
(どう言う事だ?)
フードを被っているせいで、頭の上で起こっている事が見えない。
ただ、俺の目に写っているのは。
大きく目を見開き、後ろにステップした龍治。
そして。
「……成程。成章には、こういう使い方もあるのだな」
聞きなれた声。
ゆっくりと外されるフード。
そこに居たのは。
「一狼君。仲間の為に良く耐えたな」
緑色の軍服を纏った兵子。
その手に持つは、俺が彼女に渡した……成章だった。




