26話 不死之山攻防戦
昼間に昇り切った太陽が、少しずつ沈み始めた午後の半ば。
俺と鷹子は軽いミーティングを交わした後、広間エリアの中央に位置取る。
今回狩る相手は、もののけでは無く人間。
鷹子はいつもの表情でウォーミングアップをしているが、俺は流石に緊張を隠せない。
果たして俺は、躊躇無く人間を撃てるだろうか?
「イチロー、そろそろ時間だガ」
鷹子の言葉に小さく頷く。
「鷹子さん、作戦内容は覚えてますか?」
「イチローが釣って、ワシが皆殺し」
「表現はあれですが、まあそうですね」
苦笑いをした後、空を見上げる。
視線の先に見えるのは、麓の町にあった、大きな灯台。
どうやら不死之山の狩人達は、あれを目印にして下山している様だ。
「あの灯台で町との距離を計りながら、不死之山の狩人達が待ち伏せしていそうな所を突っ切ります。鷹子さんは俺の少し後ろから追い掛けて来てください」
「了解ガ」
「狙い打ちされない様に全力で走るので、はぐれたら個々に自由行動と言う事で」
「大丈夫。はぐれないガ」
そう言って、鷹子がフフッと笑う。
鷹子はもののけの特性を持ったハイブリッドだ。一般人である俺などとは、身体能力が違うのだろう。
だからこその、余裕の微笑み。
(……うん、面白いな)
しかし、鷹子は気付いて居ない。
俺は不死之山に関しては、ゲームで死ぬ程探索をしている。
よって、地の利は俺にある。
「それじゃあ、行きますか」
それだけ言って、俺も笑い掛ける。
さて、半落ちと呼ばれる彼女に対して、ゲームの知識でどれだけ対抗出来るか。
さあ、勝負開始だ。
「行きます!」
「ガ!」
掛け声と同時に、二人が一斉に走り出す。
……しかし。
「……ガ!?」
俺が走ると同時に、鷹子が声を上げる。
何故彼女が声を上げたのか。
それは……
「そっちは道じゃないガ!」
そう。
俺が道なりに走ったのでは無く、危険地帯である藪の中に突っ込んだからだ。
「イチロー!」
鷹子の声を無視して、思い描く最短のルートを走る。
徐々に差が開いていく二人の距離。
慌てて鷹子も走り出し、藪の中に突っ込んで来た。
「イチロー! 待つのガ!」
「鷹子さん! 見失わないで下さいね!」
「ガ!?」
声だけで返事をして、足元の罠をヒョイと越える。
それに続いて罠を避ける鷹子。
やはり彼女は、罠を見抜く力も持って居る様だ。
「イチロー! 不死之山は初めてじゃないのガ!?」
「現実では初めてですね!」
「現実!?」
そんな事を言って居る間に、最初の藪を越える。
そこに見えたのは、少し広くなっているT道路。
白火倶槌を待ち伏せするのであれば、ここに狩人が居るはずだ。
「……!!」
正面から発砲音。
予想通りだったので、身を捩って二発の弾丸を避ける。
「正面! 道の角に2人!」
「ガ!!」
鷹子が刀を抜き、あっという間に狩人二人を真っ二つにする。
体力を失い、山の外に引きずられて行く狩人達。
そして、それに少し遅れて、山の地形が一瞬で変わる。
(灯台の場所は……!)
東側。先程よりもかなり近い。
狩人達は白火倶槌を二層に返さない為に、山の奥へと移動を開始するはずだ。
(それなら……!)
躊躇せずに西側の藪に突っ込む。
ゲームで叩き込んだマップ通りに変化するのなら、数10メートル先で藪が途切れて、右か左に十字路があるはずだ。
(ビンゴだ!)
藪から出た先。左5メートルに十字路。
そして、そこに潜伏しようとして居た狩人が一人。
「く、黒夜叉!?」
突然現れた俺を勘違いする狩人。
その油断を利用して、一気に狩人との距離を詰める。
「残念、私です」
「お、お前は姫山のゲバァ!」
銃を構える前に渾身の蹴り。
吹き飛んだ狩人を、後ろに居た鷹子が切り刻む。
「次は……!」
地形変化。
それと同時に、繋がる道の先に狩人が三人現れた。
(運が悪いな!)
三人がこちらに気付き、俺に銃を向ける。
それならば、俺の選択肢はこうだ。
「な……!」
ジグザグに走った後、横の藪に飛び込む。
「正気か!?」
銃から目を離し、ポカンとする三人。
その一瞬の間が、命取りになるとも知らずに。
「ガ!」
一線。
鷹子が刀を横に凪ぎ、一撃で三人を仕留める。
(凄いな……)
鞘に刀を納めて追い掛けてくる鷹子。
彼女の剣技は抜刀術と呼ばれているらしいが、あそこまで刀の振りが速くなるとは思わなかった。
(あれを不意討ちで喰らったら、絶対に避けられないだろうな)
そんな事を考えていると、再び地形が変化して、今度は大きな広間の中央に放り出された。
「……!!」
俺は周りを見て驚愕する。
そこには、不死之山の狩人が十人程まとまって居た。
(一掃しろって事か!?)
地形の変化は山の意思で決まると、誰かが言っていた。
つまり、山は俺達に狩人を殲滅させようとして居る様だ。
(しかしなぁ……)
やれやれとため息を吐く。
狩人達の銃口は、既に俺達に向けられていた。
(モンスターハウスに強制ワープとか……このゲームの難易度はベリーハードか?)
などと考えたが、これはゲームでは無く現実だ。
急所に一撃喰らったら即死。
一応山の麓からリスタートは出来るが、それでは狩人達を探しているうちに、白火倶槌が狩られてしまうかもしれない。
(殺るしかない!)
大きく息を吐いて覚悟を決める。
次の瞬間、俺は腰にぶら下げていた銃を手に持ち、狩人達に向かって突っ込んだ。
「来るぞ!」
「撃て撃て……へぶはぁ!」
狩人の断末魔。
何事かと思い振り返ると、その瞬間に鷹子が俺の横を走り抜けて、正面の狩人達を一掃した。
(鷹子無双かよ……)
静かになる周囲。
目まぐるしく変わる景色の中で、鷹子は刀を振り払い、静かに鞘に納めた。
「……イチロー」
ゆっくりとこちらを見る鷹子。
「お前は死にたがりなのガ?」
「どちらかと言うと、生きたがりですね」
「……」
何も言わない鷹子。
初見であるはずの霊山で、危険地帯を走破したのだ。そう言いたいのも頷ける。
しかし、俺にとっては、この山は姫山よりも容易かった。
「それよりも、鷹子さんの剣術は凄いですね」
そう言うと、鷹子は少し恥ずかしそうな表現を見せて、仕込み杖の先を優しく擦る。
「姫山の銀色鎌鼬に、教えて貰ったんだガ」
「その人はもののけですか?」
「ガ。姫山の変異種ガ」
初めて聞く言葉。
どうやらもののけには、通常の個体と違う個体も居るらしい。
今までの話から推測するに、通常の個体とは違う色を持つもののけが、変異種と言った所か。
(そうなると、白火倶槌も変異種なのか?)
そう思った、刹那だった。
「……ガァッ!」
突然の短い悲鳴。
同時に鷹子が爆発に巻き込まれて、広間の端まで吹き飛んだ。
「な……!?」
「はいはい、仲良しごっこご苦労さん」
振り向いた先に居たのは、こちらを見て笑っている龍治。
その手に持っていたのは、赤く染まった成章だった。




