25話 彼女の願い
「白火倶槌ってのはな、その名の通り、白い火倶槌の事だ」
「はあ」
「もののけはそれぞれの環境に対して主が存在していて、白火倶槌は……まぁ晴れの主ってとこか」
「それが今の状況と、どう繋がるんですか」
それを聞いた龍治がニヤリと笑う。
「白火倶槌はな……高いんだよ」
「は?」
「素材だよ素材。どの部位も高価で武具にしても一級品。ただ、すんげえつえーから、白火倶槌が出たら狩りたい狩人を集めて、集団で狩る事にしてんだよ」
成程。つまり先程の狩人達の行動は、白火倶槌を狩る為の行動だったと言う事か。
しかし、それならそれで疑問がある。
「それって、白火倶槌を狩り終わったら、内乱が発生するんじゃないですか?」
「ああ、素材を賭けたバトル・ロワイアルが始まる」
結局ここでも力技なのか。
不死之山の狩人は姫山の狩人に比べて、どうも力で解決する傾向があるな。
むしろ、それが狩人の本質なのだろうか。
「そう言う事だから、お前はもう用済みだ」
「それは助かります」
「ただし……」
切り株に座る龍治が殺気を放つ。
そして、真っ直ぐに俺を睨み付けて、言った。
「俺達の狩りを邪魔したら……殺す」
本気の表情。
俺は姫山で龍治と遭遇した時、ハンデ付きの殺し合いで一度負けている。そこから考えても、俺が龍治に勝てる可能性は皆無だろう。
「分かりました」
よって、大人しくこの言葉を発しておく。
龍治はそれに頷くと、ゆっくりと切り株から立ち上がり、仲間達が去った方向へと帰って行った。
周囲に人が居なくなり、俺と鷹子だけが残される。
そんな状況で、俺は笑顔で鷹子の方を向き、サラリと言った。
「それで、鷹子さんはどうしたいですか?」
その言葉を聞いて、目を見開く鷹子。
恐らく、この言葉を言われるとは思って居なかったのだろう。
「お前は龍治に従うんじゃないのガ?」
「俺はそんな返答をした覚えはありません」
言葉を失っている鷹子。
だから、俺の方から言った。
「鷹子さんも白火倶槌をどうにかしたいから、不死之山に籠って居たんじゃないんですか?」
鷹子が行方不明と偽って、白火倶槌を追って居た理由。
それを聞くまでは、素直に姫山に帰る訳には行かない。
「白火倶槌は……」
そして、鷹子が語り始める。
「白火倶槌は、霊山の守り神なのガ」
「守り神?」
「そうガ。だガ、それは人間では無く、ワシらの様な『半落ち』の間だけだガ」
「はんおち?」
初めて聞いた言葉に首を傾げる。
「半落ちとは、ワシの様に、もののけの特性を体に宿した人間の事ガ。霊山の一階層と二階層の間に集落を構えてるガ、ワシのように狩人になる者も居る」
「そうなんですか」
「ワシらは、一部のもののけを守り神として崇め、それらを守る事で、霊山の均衡を保って居るのガ」
それを聞いて、鷹子が不死之山に籠った理由が分かる。
しかし、同時に一つの疑問も浮かんだ。
「そんなに大切な存在なら、どうしてさっき、白火倶槌が居る事を話たんですか?」
「……ガ」
しまったと言う表情を見せる鷹子。
どうやら鷹子は、言葉の駆け引きが苦手な様だ。
「……狩人を一網打尽にする為ガ」
「成程、案外武闘派なのか」
「皆殺し、一番効率的ガ」
何それ怖い。
しかし、それを堂々と言ってしまうという事は、それなりの実力を持って居るという事だ。
俺はやれやれと息を吐いた後、近くの切り株に座る。
「それじゃあ、皆殺しにする手段でも考えますか」
それを聞いた鷹子が、再び驚きの表情を見せた。
「手伝ってくれるのガ?」
「手伝いますよ。同じ姫山の仲間ですし。それに……」
「そレに?」
龍治が持っていた成章。
随分と手に馴染んで居るように見えたが、あれは元々俺の事を選んでくれた成章だ。
だからこそ、俺の手で取り返さなくてはいけない。
「……いえ、何でもありません。それでですが、鷹子さんには、不死之山狩人皆殺しのプランはありますか?」
「出会った奴を片っ端から皆殺しガ」
「殺人鬼ですか貴女は」
満更でもないにこやかな表情に、小さくため息を吐く。
「そうですね……俺が囮になって、狩人が出て来た所を皆殺しって言うのはどうですか?」
「それだとイチローが危険ガ」
「俺は元々狙われてますし、他でも無い『この山』であれば、俺にも勝機はあります」
「……ガ?」
鷹子が首を傾げる。
まあ、この山が俺のやっていたゲームと同じ地形で、同じ手段が使えそうだからと言っても、鷹子には理解出来ないだろう。
「とにかく、お互いの戦い方が分からない状態で、協力して戦うのにはリスクがあります」
「それはそうガ」
「では、それで行きましょう」
話が終わり、ゆっくりと立ち上がる。
すると、鷹子が改めて真っ直ぐに立ち、こちらに向かって頭を下げて来た。
「え? 何ですか?」
「ワシの我が儘に付き合ってくれて、ありがとうガ」
「や、やめて下さいよ。お礼を言われる事なんて、何もありませんから」
「しかし、これは半落ちの仕来たりであって、人間であるイチローには、何の関係も無いガ」
それを言われて、俺は先程思った事を悔やむ。
俺は彼女を初めて見た時、人間では無いと思った。
しかし、今の彼女は礼節を弁えていて、素直に感謝の念を示している。
半落ちなどと、人間の格下っぽい呼び方をされている様だが、彼女の方が余程紳士的で、高尚な存在じゃないか。
(見た目で判断してはいけない。家族の事で、散々学んで来たはずだったんだけどな)
自分の傲りを恥じ、ため息を吐く。
とにかく、彼女は素敵な人物だ。
そんな彼女の為に、俺は自分の持つ知識を存分に生かして、白火倶槌を助ける事にしようじゃないか。




