24話 鷹のサムライ狩人
龍治の命令に従って、持っていたゲームのシナリオをなぞっている俺。
現在は無事に野盗に囲まれて、戦闘が始まろうとしている。
敵は三人。身なりからして、それなりの実力者だろう。
駆け出し狩人の俺では、正直勝てる見込みは少ない。
(シナリオ通りであれば、勝たなくても良いんだけど……)
シナリオをなぞるのであれば、この後俺はこいつらにボコられて、その途中で龍治が助けてくれる手筈になっている。
しかし、俺にはこのシナリオに少々の懸念があった。
(果たして、龍治さんは助けに来てくれるだろうか……)
そうなのだ。
一緒に行動こそしては居るが、龍治は不死之山の狩人であり、姫山の狩人である俺とは敵対関係?にある。
そこから考えても、龍治が俺を見捨てる可能性は高い。
(うん、ここは頑張って戦った方が安全……)
思考の途中で後頭部への一撃。
一気に思考が飛びそうになったが、何とか堪えてクルリと後ろを向いた。
「戦いの前の挨拶はしないんですか!」
「どこのサムライだよ!」
「マナー! 戦のマナーですよ!」
「これは戦じゃねえ! 一方的な狩りなんだよ!」
再び棍棒を振り被る狩人。
それを横にヒラリと交わし、横腹に蹴りを入れてやった。
「ぐっ! やるじゃねえか!」
ニヤリと笑う狩人。
昔から貧乏のせいで喧嘩ばかりしていたので、戦闘の知識はそれなりに持っている。
単純な殴り合いであれば、俺にも勝機はありそうだ。
……などと、思ったのだが。
「……!?」
背中に皮膚を千切られた様な感覚。
振り向くと、左に居た狩人がライフルをこちらに向けていた。
(撃ったのか……!?)
生身の人間に容赦の無い発砲。
衣装のお陰で貫通こそしていないが、激痛は免れない。
「撃て! 撃ちまくれ!」
狩人達が続けて発砲する。
俺は地面を転がってそれを交わしたが、狩人達は交互にリロードを繰り返し、間髪いれずに撃ち込んで来た。
(くそっ!)
狩人達の銃の腕が余り良くないので、動いていれば弾が当たる可能性は低い。
しかし、低いだけで当たる事は当たる。
この状態が続けば、俺はいずれ力尽きるだろう。
(龍治さん……!!)
期待を胸に通路の先を見る。
しかし、龍治が現れる気配は無い。
「やっぱりか!」
「ヤッパリカ!? 何かの呪文か!?」
「ああ! そうですね!」
下らないやり取りにうんざりしながら、飛び交う銃弾を交わし続ける。
しかし、腕と足に何発か銃弾を食らい、遂にその場から動けなくなってしまった。
「く、そ……」
「へへ……中々粘ったじゃねえか」
痺れる手足で這いずりながら、強く歯を食い縛る。
やはり、俺は狩人として甘かった。
本当に信頼して居ない相手に、心を許したのが敗因だ。
次はもっと警戒しよう。
そして、未来から貰った衣装を奪ったこいつらに、いつか必ず報復しよう。
「……!?」
そんな時だった。
「お、お前はアギャー!?」
謎の悲鳴と共に、一人の狩人が倒れる。
状態は既に死亡。
道の脇に生えた草が狩人を巻き取り、山の外へと連れて行く。
「な! 何でてめえがそいつを助けんギャー!!」
二人目。
そいつが倒れた事により、狩人達を倒していた人間の姿が露になる。
いや、違う。
正確に言えば、人間では無い様だ。
「鷹子てめえ! 人の山で好き勝手やりやがって!」
「ヴるさいな……」
「ギャー!」
三人目。
鷹子と呼ばれたそれは、三人の狩人を一瞬で殺し、右手に持った細い刀を木の鞘に納める。
(仕込み杖か……)
圧倒的な実力。
その立ち振舞いは、狩人と言うより剣士だった。
「だいじょうヴか?」
手を差し伸べてくる鷹子。
そのゴツゴツとした手を握り締めて、ゆっくりと立ち上がる。
「ありがとうございます」
「気にするな。同じ姫山のナガマだからな」
「俺の事を知ってるんですか?」
「ああ、もガ専で見ていた」
中々にクールな話し方だが、どこか言葉がおぼつかない。
やはり、その容姿が関係しているのだろうか。
(……鷹だ)
茶色と白色が混ざった髪は、短い前髪が逆立ち、後ろ髪は背中へと延びている。身長は俺より少しだけ高めで、掴んだ手は常人より黄色く、爪が黒い。
そして、何よりも瞳の色。
眼球こそ白いが、角膜の色が綺麗な黄色で、黒い瞳孔の光を引き立たせて居た。
「ワシの姿が珍しいガ?」
「ワシ?」
「ああ、鷹だけどワシらしい。兵子に言えと言われていヴ」
兵子……俺の時もそうだったが、姫山の狩人全員をキャラクター化させたいのか?
まあ、そのお陰で個性は際立って居るが、この容姿にこれ以上の個性は必要無いだろう。
「で、どうだ? 珍しいガ?」
「そうですね。珍しいです」
「そうガ……」
「ああ、そうだ」
俺はマントに着いたホコリを払い、鷹子に頭を下げる。
「助けて頂いて、ありがとうございます」
「ム、ウム」
「兵子さんに言われて鷹子さんを探しに来たのですが、貴女が鷹子さんで間違い無いですね?」
「そうだナ」
「そうですか。良かった。この森は敵が多いから、早く出たかったんですよ」
「それは大変だったガ」
鷹子が普通に労ってくれる。
俺は会話で相手の性格を伺う癖があるのだが、この感じだと、裏表の無い優しい性格と言った所か。
とにかく、俺は鷹子に好感を持ったのは、間違い無かった。
「それでは、帰りますか」
「その前に、言いたい事が二ヅある」
「……?」
鷹子が真っ直ぐに俺を見据える。
「ワシが怖くないのガ?」
吸い込まれる様な一言。
確かに目とか黄色いし、灰色のベストからはみ出た腕には短い毛が生えているし、野盗狩人達を一撃で仕留めた腕力は、人間離れして居る様に見える。
だが、それだけだ。
「怖くないですね」
「ム、ウム」
「むしろ綺麗だなと思いました」
「ム!?」
驚いた顔を見せる鷹子。
何故驚くのだろうか。
体の形こそ違うが、その全体像は人間の感覚で見ても、『綺麗』と言うに相応しい。
「……面と向かって言われると、少し恥ずかしいガ」
「それはどうも」
すみません、とは言わない。
俺は謝る様な事は、何一つ言って居ないのだから。
「それで、もう一つの質問は?」
「ガ、質問では無い」
その言葉に首を傾げる。
「ワシはまだ姫山に帰れないのガ」
「どうしてですか?」
「この山の一階層で『白火倶槌』(しろかぐつち)を見たガ」
『白火倶槌!?』
今の一斉発言は、俺の言葉では無い。
それに驚いて辺りを見回すと、近くの草むらから、不死之山の狩人達が続々と現れた。
「どこだ! どこで見た!?」
「一階層の奥の方ガ」
「まだ一階層に居るのですか!」
「居る。近くには居ないガ」
「おい! 直ぐに狩者衆に連絡入れろ!!」
不死之山の狩人が忙しなく動き出す。
俺と鷹子がそれを見ていると、狩人達の間を割って、龍治がこちらに近付いて来た。
「よう、お疲れ」
「……」
「あんだよ。挨拶くらいしろや」
ふっと鼻で笑う龍治。
先程のイベントで、彼は俺の前に現れなかった。
何かしらの事情があったのかも知れないが、それを加味した上で、今言える事が一つだけある。
俺はもう、彼の事を信用しない。
「何か用ですか?」
「あ? 今の状況を知りたく無えのか?」
「教えてくれるのなら」
「仕方ねえな。教えてやるよ」
鼻で笑った後、龍治が切り株に座る。
龍治は俺にも座るように促して来たが、俺と鷹子は其れを無視して、立ったまま話を聞く事にした。




