23話 ゲームの世界へようこそ
太陽が高く登った少し後、午後の始め。
俺は言われた通りにメインの通りを歩き、不死之山の入口へと辿り着く。
近くにあったベンチに座って周りを眺めて見たが、俺以外の狩人の姿は見えない。
恐らく、先に山に入ったのだろう。
入口で一悶着無い事に安心していると、やがてメイン通りの方から、狩り衣装に身を固めた龍治が現れた。
「おう、待たせたな」
俺の前に立ち、腕を組む龍治。
いや、龍治と言うより戦隊ヒーローか?
「何で赤いマントなんて羽織ってるんですか?」
「姫山の道化師と一緒なんだ。俺もそれなりの格好をしねえと、キャラが立たねえだろ?」
「……」
無言で龍治を眺める。
襟を立てた真っ赤なマントに万能ベスト。腰にはナイフをぶら下げていて、右手には成章を持っていた。
「二人並ぶとヒーローショーみたいですね」
「まあそうだが、このマントは赤屋敷秘伝のマントだから、機能性は高いぜ?」
はあ、そうですか(興味無し)。
本人がそれで良いと言うなら、それでも良いか。
それより気になるのは、龍治が持っている銃だ。
「成章を使うんですね」
「そりゃあ、これが一番つえーからな」
「俺は持って来て居ませんけど」
「マジかよ」
龍治が頭を掻く。
「成章は持ち主の元に帰りたがるからな。鉢合わせしたらどっかに行っちまうと思って、警戒はしていたんだが……」
途中まで言って、俺のマントの隙間から見える銃を見る。
「ま、それなら安心して、存分に使えるな」
「そうですか」
「それより、お前は成章じゃなくて良いのか?」
「はい、今日は別の銃で山に入ります」
「ふーん。まあ良いが」
それだけ言って、二人で山の入口に立つ。
日本屈指の霊山と言われて居る、不死之山。
その名に相応しい標高と、目の前に広がる鬱蒼とした森を眺めながら、俺はゴクリと息を飲んだ。
「始めて入る霊山だ。流石に怖いか?」
「そうですね。少しだけ」
「中に入ったら更に驚くだろうがな」
ニヤリと笑った後、龍治がこちらに頷く。
それに答える様に頷く俺。
さあ、不死之山攻略の始まりだ。
「行くぞ!」
龍治と同時に不死之山へと入る。
入った瞬間に変わる景色。
それを見た俺は、姫山とは明らかに違うその光景に、言葉を失ってしまった。
「へへ、スゲーだろ」
横で笑う龍治に無言で頷く。
目の前に広がった景色は、コンクリートで舗装された道。
左右に生えている草木こそ雑多に生えているが、その光景は人工的に作られた、広域公園の様だった。
「昔の奴等が試験的に敷いた道路が根付いてな。一層に限ってだが、不死之山の道は完全に整備されてんだ」
「これって、もののけは大丈夫なんですか?」
「問題無い。油断してるといきなり飛び出してくるぞ」
俺の驚きに満足そうな表情を見せる龍治。
しかし、俺が本当に驚いているのは、それでは無い。
「……ゲームで見た景色と全く同じだ」
「あん?」
龍治が疑問の表情を向けて来る。
「ゲームって、裏飯屋でおやっさんと話して居た奴か?」
「そうですね」
「はーん。そいつは面白えな」
一度周囲を警戒した後、龍治が再び話す。
「そんで、ゲームだとこの後どうなるんだ?」
「色んなパターンがあるんですが、野盗に襲われて山に入るイベントがあります」
「ふーん。今の状況と大体同じか」
それを言った後、龍治が悪そうにニヤリと笑った。
「よし、やれ」
「はい!?」
「ゲームと同じ行動を取れって言ってんだよ」
「龍治さん、ゲームと現実は違います」
「うるせえやれ」
強引な催促。
仕方無いので、渋々そのイベントを再現する事にした。
(まずは……)
野盗に襲われて山に迷い混んだ主人公。
何とか追っ手からは免れたが、山の入口から野盗が追い掛けて来ない事から、山に追い込む為の罠だと言う事に気付く。
(このままでは危険だと思い、笠を外して辺りを伺う主人公)
鹿のフードを脱ぎ、警戒しながら歩く。
そして、最初のT道路に辿り着いた時。
(不意に野盗から矢が放たれて、素早く屈む!)
屈むと同時に発砲音。
放たれた銃弾は頭の上を掠めて、近くの地面で弾け飛んだ。
(……)
ゆっくりと起き上がり、発砲先を睨み付ける。
これで、イベントは一通り終了。
俺は龍治の元まで戻ると、そのままの表情で言った。
「ゲームと同じでした」
「さっきの言葉全否定だな」
「そうですね」
龍治に苦笑いを見せる。
しかし、龍治は少しも微笑まずに、難しい表情を見せた。
「どうやら武具を奪うだけじゃなく、単にお前を殺そうとしてる奴も居るみたいだな」
「何でそれが分かるんですか?」
「フード無しの頭に弾丸一発」
「ああ、そう言えばそうですね」
さらっと言った言葉に、龍治が不思議そうな顔をする。
「何ですか?」
「いや、死にかけたんだぞ? 何でそんなに冷静なんだ?」
「まあ、死んでませんから」
その答えに言葉を失う龍治。
これは中学生の時に言われたのだが、どうやら俺は他人と比べて、喜怒哀楽のスイッチがおかしいらしい。
俺は自分の事なので理解出来なかったが、そのせいで訳が分からずに、他人と喧嘩になった事が何回かあった。
「……まあ良い」
龍治が気持ちを切り替える。
「それで? ゲームだとこの後どうなるんだ?」
「龍治さん、ゲームと現実は……」
「うるせえ黙れ」
成程。何がなんでもゲームの様にやらせる気なのか。
ならば仕方が無い。喜んで付き合おうではないか。
「ゲームだと、主人公が一人で山を散策して、途中の広間で野盗に囲まれます」
「そんで、野盗を返り討ちにすると」
「いえ、程々に殴られてピンチになります」
「何だよ。主人公の癖に弱っちいな」
「ゲームは演出ありきですから」
ふっと笑った後、その続きを思い浮かべる。
ここからは龍治も参加する事になるのだが、果たして龍治はそれを了承してくれるだろうか。
「で、どうなんだ?」
「野盗が止めの一撃を繰り出そうとした時、さすらいの剣士が現れて、助けてくれます」
「成程、剣士が居ねえな」
「それじゃあ、これで終わりですね」
「うるせえやれ」
楽しそうに話す龍治。
山での指揮は俺がやると言う話は、何処に行ったのだろうか。
「……龍治さん、言っておきますが」
「あん?」
「俺は狩人としては最弱だと思うんですよ」
「だろうな。今までの狩りも運だろ?」
それが分かって居るなら話が早い。
「つまり、俺は助けられる前に死にます」
「自信満々に言うなや」
「いや、死にます。避けられない運命」
「うるせえやれ」
選択権は無いのか。
しかし、知らない山で地元民の言葉を無視する訳にもいかないので、喜んでやろうではないか。
「それじゃあ、行きます」
「おう、死んでこい」
死亡確定かよ。
とにかく、前に進んでこの山の事を調べよう。
(……ええと)
辺りを一度見回した後、道なりに進んでみる。
最初は突き当たりでT時路。それを右に曲がったら十字路。それを左に曲がったら狭めの広間。
そこまで進んで辺りを確認した後、俺はバックパックから水筒を取り出し、謎のお茶を一口飲んだ。
(うん、不味い!)
未来が作ってくれた特製茶。
ドロッとしていながらヌルッと喉を抜ける喉ごしは、食通達の心を易々と砕くだろう。
それにしても、やはりこの山は少しおかしい。
(マップの構成もゲームと全く同じだ)
そう思いながら、今まで来た道を見返す。
通常の山は登山し安くする為に、わざと道を蛇行させたりするのだが、ここには全くそれが無い。
それどころか、全体が正方形の道順をくっ付けた様で、その作りはローグライクのダンジョン構成と酷似している。
つまり、ローグライクをやりまくった俺にとっては、次の道順を予想するのが容易と言う事だ。
「この形だと、恐らく中央に大きなフロアがあるから……」
道を真っ直ぐに進み、ある程度進んだ所で左に曲がる。
すると、予想通りに大きなフロアが見つかった。
「……山の道具屋とかは、流石に無いかな」
そんな事を期待しつつ、大きなフロアへと足を運ぶ。
そこで待って居たものは……
「へっへぇぇ!! 待ってたぜぇぇ!!」
まあ、そうなりますよね。
最弱の狩人が良い装備を着て歩いていたら、ここで襲うのが妥当だろう。
「痛い目見たく無けりゃあ身ぐるみ置いて行きなぁ!!」
吐くセリフも山賊の様な狩人達。
しかし、身に付けている装備はきちんとしているので、ある程度の実力を持つ狩人の様だ。
(……三人か)
左右に一人。後ろに一人。
道から外れて茂みに飛び込めば逃げられそうだが、それをやったら山の罠に殺される可能性が高い。
(仕方ないな……)
まともに戦っても、勝てる見込みは少ない。
仕方が無いので、ここは大人しく龍治の命令に従う事にした。




