22話 二人のゲーマー
唐突に始まった龍治とのフードファイト。
おおよそ三キロのカツカレーを、脇目も振らずに二人で食べ続ける。
試合が開始して、五分程経ったであろうか。
現在優勢なのは……
「御馳走様でした」
はい、俺は食べ終わりました。
「ま、マジかよ……」
「おやっさん、コーヒー一つお願いします」
「追加注文!?」
まだカレーを半分位しか食べていない龍治が、俺の事を見て驚いている。
それほど驚く事だろうか。
まだ食べろと言うのであれば、同じ物を三杯はいけるのだが。
「おう、すげー食いっぷりだったな」
ふっと笑いながら、おっやさんがコーヒーを出してくれる。
「いつもそれ位食ってんのか?」
「そうですね。とりあえず、出された物は全部食べるようにしています」
「成程、良い心がけだ」
「それに、カレーは飲み物ですから」
お決まりのセリフにおやっさんが笑う。
横に居た龍治は、流石に笑えなかった様だ。
「まあ、龍治はまだ時間掛かるだろうから、小僧はゆっくりコーヒー飲んで待ってろや」
「ありがとうございます」
小さく頭を下げた後、ゆっくりとコーヒーを飲む。
うん、良い豆を使ったコーヒーだ。
貧乏性が発動して、体がムズムズするぞ。
(……?)
ふと、コーヒーを飲みながら、おやっさんを見る。
カウンターの奥で下を向いて、何かをして居るおやっさん。
気になって身を乗り出すと、見覚えのある携帯ゲーム機で遊んで居るのが見えた。
「そのゲーム機は……」
「ん? ああ、十年以上前に発売したゲーム機だよ。一応サービスは続いているが、これをやってる奴はもう少ないんじゃねえかな」
「俺、同じのを持ってます」
「おお! そうなのか!」
おやっさんがゲーム画面を見せてくる。
「俺はローグライクに嵌まっててよお。このゲーム機が発売した当初から、ずっとこればっかやってんだよ」
「そのソフト、俺も持ってます」
「……え?」
何故かおやっさんが驚きの表情を見せる。
「このソフトは、一般発売されて無いはずなんだが」
「そうなんですか? 俺は友人からゲーム機ごと貰ったので、全く知りませんでした」
「……ちょっと待てよ」
おやっさんがゲーム機を操作して、ダウンロードソフが並んでいる画面を映す。
「もしかして、これらのソフトも入っているか?」
「はい、全く同じですね」
「誰から貰った?」
「友達です。今は姫山で狩人をやっています」
「ああ、成程。成程ねえ……」
難しい表情を見せるおやっさん。
ここで俺は、姫山で未来がゲーム機を俺に渡した事について、謝罪してきた事を思い出す。
もしかして、このゲームは特別な物なのだろうか。
「……つあぁ! ごっそさん!!」
ここで遂に、龍治がカレーを食べ終わった。
「つかテメエら、人が必死に食ってる時に、和やかに話しやがって。そんなにそのゲームが面白いのかよ」
「ああ、まあそうなんだが……」
言った後、おやっさんがこちらを見る。
「小僧。ここにあるソフト。全部やってんのか?」
「やってます」
「ユーザー名は?」
「平仮名で『いちろう』です」
「!!」
その名を聞いて、急に俯くおやっさん。
少しの沈黙。
そして……
「このトップランカーの『いちろう』は、小僧か!」
「え?」
再び画面を見せてくる。
そこには、俺が持っているソフトと、全く同じランキングが表示されていた。
「名前は同じですけど、俺はネットに繋いでません」
「繋がってんだよ。勝手にな!」
おやっさんが画面を指差す。
「ゲームする度にランキング変わってただろ!? 気付かなかったのか!?」
「ゲームの仕様なのかと思ってました」
「この二位の『マメゾウ』は俺だ!」
「そうなんですか? 全部のソフトで名前を見ていたので、そう言う仕様の強いNPCだと思ってました」
「……!!」
マメゾウが頭を抱えて首を横に振る。
それに対して、龍治は呆れた表情でこちらを見ていた。
「たかがゲームで、そんなに一喜一憂するもんすかね?」
「あ?」
「だって、ゲームっすよ? 現実とは違うじゃないすか」
当たり前の事を言う龍治。
しかし、マメゾウは難しい表情のままで、それに頷かない。
「おやっさん?」
「……ん? ああ、そうか。まあ、そうだな」
そう言って、マメゾウが鼻で笑う。
その微笑みは、含みのある微笑みだった。
(発売されて居ないゲーム。マメゾウさんの微笑み。謝罪してきた未来……)
提示された三つのキーワードから、事の顛末を想像する。
と言うか、答えは既に明白だ。
このゲームは、もののけに関する何かである事に違いない。
「ふ、ふふ……」
マメゾウが不気味に笑う。
「龍治。お前はこれから、小僧と山に入るんだよな?」
「そっすね」
「鷹子を探索する時は、小僧に指揮を任せろ」
その言葉に対して、龍治が嫌そうな表情を見せる。
「おやっさんの頼みでも、お断りっすよ。こいつは不死之山の事、何も知らねえんすから」
「これはお願いじゃない。命令だ」
「マジすか……」
こちらを見て舌打ちを鳴らす龍治。
俺も嫌だったので、素直に苦笑いをして見せた。
「……分かりましたよ」
仕方なく了承した後、龍治が机に金を置いて席を立つ。
物凄い金額が置かれて居た事に少々驚いたが、コメントする間も無く龍治が店を出たので、俺は慌ててそれを追い掛けた。
店の外に出ると、龍治がため息を吐く。
それを見た俺は、疑問に思った事を口にした。
「龍治さん。マメゾウさんの命令に従うんですか?」
「ああ、従う。あの人は店主である前に、一流の狩人なんだよ。その忠告を無視する事は、山での生存率を下げるのと同義だ」
そう言って、再びため息を吐く。
普通に考えれば、不死之山の狩人である龍治が指揮した方が、絶対に生存率が上がると思うのだが。
(まあ、山に入って見れば分かるか)
そう思い、それ以上の事は考えない。
もののけが出る霊山では、一般的な常識など、通用しないのだから。
「そんじゃあ、早速不死之山に行くが、お前準備は大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
「俺は家から狩り道具持ってくっから、メインの通りに出たら、真っ直ぐ山に向かって歩け。そんで、入り口で合流だ」
それだけ言って、メインの通りへと歩き出す龍治。
俺はその後ろを付いて行ったのだが、先程まで裏道にたむろしていた狩人達は、一人も居なくなっていた。




