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船の中の王様

部屋をこっそり出た俺はどこへ行こうかなぁ…と考える。

船内は複雑に入り組んでいる…が、俺の部屋は客室階の一番端っこなのでまあ迷うことは無いだろう。(迷ったところで誰かに聞けば良い話だ)

廊下には高級そうな絨毯が敷き詰められており、土足で歩くのを一瞬ためらってしまう。

ふかふかとしたものを踏んで歩くのは何か変な気がする。

左手側には何もない(あの先は物置しか無かったはずだ。)ので必然的に右手側に進むしかない。

歩いてるうちに誰か、何かに出会うだろうと呑気に歩き始めた。


ーーーーーー

ーーーー

ーー

船内は広く、階段を2つ3つ上り下りしてトイレを4回見つけてもなお中央部にすら辿り着けていないようであった。

どうやらこのフロアはマダム達のサロンのような場所みたいで、マッサージ台やアロマ、その他よくわからない美容グッズがたくさん棚に並べてある。

働く人たちは皆忙しそうで、ぼーっと突っ立っている俺はどうやら邪魔そうだったのでこのフロアもそそくさと退散する。

なんか面白そうな…暇を潰せる話し相手でもいないものだろうか…と思ったが、従業員達は1人の例外無くいそいそと歩き回っている。


もう次に会った人、誰でもいいから話しかけよ!!!!!!!!!と大理石の廊下の上を歩きながら勝手なことを思う。この船のトップは俺なのだ。サボって怒られたようなら俺が弁明してやるからさ…などと超超勝手な理論で突き進む。

普段は別にこのように思ったりはしないのだが、この見るからに豪華な船とたくさんの従業員が全て俺の下にあると思うと気が大きくなる。


すると(可哀想なことに)丁度歳が俺と同じくらいの2人の男女が廊下で花瓶の位置を調整していたので、「やあ。君たちの仕事は?」と声をかけてみることにした。


ーーーーーー

ーーーー

ーー

「うわぁぁっ!?」

「…ッ」


肩に手を置き話しかけると、2人はやたらびっくりしてまじまじと俺のことを見る。

なんだか表情が硬い。

ああそうか、俺の服は従業員のそれではないのできっと喋っているところを上司に見られたと思ったのだろう。


「驚かせてすまない。俺は2個下のフロアで書類の整理をしていたんだけれど今ちょうど終わって少し休憩を…と思ったんだ。」


そう言うと2人はあからさまにほっとし、男の方が爽やかに笑って


「話していたところを見つかったかと思ったよ!」


と言った。


「君たちの仕事は何だい?花瓶の位置を調整して…壁の穴を補修しているみたいだけど。」


遠くで見た時は分からなかったが、彼らは花瓶を粘土のようなもので台に固定し、壁の穴をパテで埋めているようだ。

壁に穴が開いていたのだろうか。それは結構問題なのでは…と思って焦る。


すると女の子もなんだか焦った様子で、


「あ、いや、その、私が壊した…とかじゃないんです。」

「そ、そうそう。ちょっと傷がついてる感じだったから、ちょちょっと直そうと思ったら逆に広がっちゃって……。ちゃんと元どおりにするから上には言わないでくれ!」


あー…ちょっと壊しちゃったのね…だから俺が話しかけた時あんなに驚いたのか…と腑に落ちた。

それにしてもこの2人、息がぴったりだ。

今だって女の子の方を男の子の方がうまーくカバーしたし、2人の手元を見るに、まるでお互いのことが分かるかのように作業を進めていく。

ぱっと見、会ったばかりの俺がいうのもなんだが、兄弟…とか恋人…ではなく、なんだか‘ずっと一緒に生きてきた’という表現が正しいような気がする。


なんとなく、俺はこの2人にこの船に乗船した理由…この仕事に応募した理由を尋ねてみることにした。

ただ単純な好奇心から、この2人がどんな人生を歩んできたのか気になって、全てとはもちろん言わないまでも少しだけでも知れたら面白いかなって。

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