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最近自分が分からない。一体俺は何で悩んでいるんだか…

それからというもの、俺はちょくちょくサーシャさんの元へ一人で顔を出すようになった。

何もすることがない漠然とした毎日に暇疲れしてきていた俺にとって、あの広い邸を出て何か新しいものに出会う機会にありつけるというのはとてもありがたいことだった。


俺はあの邸のことをどう思っているのだろうか。

異世界にやってきて、お金持ちのボンボンとして何不自由ない生活を送っているはずだ。

前の世界ではそうでなかった。

前の世界より平和で、美しいこの世界で文句のいいようのないほど素晴らしいポジションにいて、何の悩みがあるんだ…と自分でも思ってしまうが、心の中のもやもやはずっと晴れなかった。

何故かあそこにいると窮屈だと感じてしまう…。

メイドがたくさんいて、慣れない敬語や身の回りの世話に煩わしさを感じているわけではないと思う。

きっと、あそこにいるとつい お金持ちな“自分” について考えてしまうからだろうなぁと俺はひとまず心の中で結論をつけた。


2、3週間ほどヴェネットで働くサーシャさんを見て、いくつかわかったことがある。

1つはサーシャさんは目が全く見えていないにもかかわらず、店の中の全てを把握しており、客の要望に応えて1つ1つ花の色を綺麗に組み合わせて花束を作ることができるということだ。

目が見えていないにもかかわらず花の色が分かるなんてすごいと思う。

そのことを本人に伝えたら「えへへ〜照れます…。花が私に語りかけてくるんです!だから分かるんですよ」と言うので、「えっ!花の声が聞こえるんですか!すごい!」と言ったら「比喩表現ですよ…もちろん…」と割とマジなトーンで返された。

しかし花の声が聞こえてくるとは一体どういうことなんだろうか…。俺には分からない。ただ、サーシャさんが視覚じゃない別のところで花の美しさを感じているのは事実なようだ。

2つ目に、サーシャさんは本当にこの街が大好きでとてもお人好しだということだ。

店の前に猫がくればミルクを出してやり、母親にプレゼントを贈りたいという子供が来たら明らかに予算をオーバーしてる花束を作り、その上予算の半分くらいの値段で渡してしまっている…。「それじゃあ商売にならないじゃないですか…」と言うも、「お花の命は短いんです。短い命の中で自身を必要としている人に自分の華を見てもらう、それがお花たちの幸せなんです!!」とやや早口で言われてしまい、俺はただ「あ、そうなんですね…」と言うしかなかった。


そんなサーシャさんだが、やはり気になるのはこの間の会話だ。

「私も両親の後を追いそうなんです。」、と言った時のサーシャさんの様子と花屋の業務をしているサーシャさんが同じ人物とは思いにくい。

そのくらい、雰囲気が違った。

サーシャさんは毎日を必死に生きている感じがする。

それは日々の暮らしに困っているとか、そういう話ではなく、街の人々や花に寄り添いみんなの幸せを心から願い、そしてそれを自分の力の及ぶ範囲で実行する、そういったサーシャさんの様子の中になんだか一生懸命なものを感じるのだ。

俺にはない、あの眩しい感じ。

人々に「ありがとう」と言われた時のサーシャさんは本当に嬉しそうだ。



ーーーーーー

ーーーー

ーー

「サーシャさんはさ、毎日一生懸命ですごいなって、」


よく晴れたある日、店の前で花に水をやっているサーシャさんの横に立って声をかけた。


「一生懸命…ですか…?」


言葉では疑問形になっているが、顔には微笑みを浮かべており、手では花を優しく撫でていた。


「なんだか毎日すごいよ。俺、あんな風に人のために尽くそうとか、花を大切に想ったりとかできないよ。」

「そんな、たいしたことじゃないんです…」


サーシャさんは立ち上がると水差しを棚に戻し、店先に置いてある椅子に座って言った。


「別に、たいしたことじゃないんです。それ以外、私には何もないんですよ。」

「そんな言い方ないじゃないか…。たいしたこと…なんかじゃない、すごいことだよ。」

「いえ、私はワガママな人ですから…」


そう言ってまたサーシャさんは自嘲的な笑顔を見せる。


「なんで、なんでそんなこと言うんだよ。もっと自分に自信を持ってよ、」


つい、強めの口調で言ってしまう。

無意識のうちに拳に力が入る。



「私はワガママな人だから………。」


消え入りそうな声で再びそう言う彼女に俺もつい下を向いてしまう…。


「ありがとうございます。優しいんですね。」


そう言って俺の方に笑顔を向けると、「花をラザレフさんのところに届けてきますね。」と言って俺が何かを言う間もなく何本か花を摘んで街の方へかけて行った。


先ほどまで彼女が座っていた椅子に腰掛け、残された俺はただ彼女の言葉を反芻していた。



「ワガママ…か。」

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