特定のことになると急に喋り出すタイプの人……あっこれ俺にもめっちゃ当てはまるやつだわ…
「そっ…か…。」
「そうなんです。」
何事もないかのようにお茶を飲む彼女。
言おうとしても言葉が出てこない俺。
2人の間に再び沈黙が流れる。
「すんませーん〜さーちゃんいますか〜」
「あ、その声はオスカーさん。」
不意にあっけらかんとした声が店内に入ってきた。
その声にサーシャさんは返事すると「お客様です。少し待っていてくださいますか?」と俺に一言いうと、「はぁ〜い。今行きますね」と返事してなんだかチャラい感じの若い青年の方へかけて行った。
青年はどうやら女の子に贈る花が欲しいらしく、サーシャさんにあれこれ言っている。
青年の注文に対してテキパキと対応しているサーシャさんはすごいと思う。
「この季節はこの花がとても綺麗なんです。北のほうの山の裾野に群生している花で、オスカーさんのいう‘素朴で可憐な彼女’にぴったりだと思います!」
花のこととなると話しだしたら止まらないらしい。あの花は…この花は…と楽しそうに話している。
そして青年はそれを頷きながらじっと聞いていた。
サーシャさんは目が見えないだろうに、どうして花のことがこんなに分かるのだろう。
俺が不思議に思ってじっと見ていると、花束を作り終えたのかレジで会計を終え、サーシャさんは青年に別れを告げるとこちらに戻ってきた。
「先ほどの方はオスカーさんといってこの店を贔屓にしてくださっている常連さんなんですよ〜」
と椅子に座りながらいう彼女。
「サーシャさん、」
「どうしたのですか?」
「サーシャさんは、その、目が見えないんですよね。なのにさっきはまるで花が見えているかのように思えました。その、何かコツ…みたいなのあるんですか?」
自身で質問しながらなんだか変なことを聞いているなぁと思う…、、。
「あーっと、その、つまり…」と口ごもってしまう俺にサーシャさんは少し考えた後、「あぁ!」と呟いてにっこり笑って言った。
「私はお花とこの街が大好きですから!」
なんだか回答になっていない気がするぞ…と思わないでもないが彼女が言うならそうなんだろう。
心底嬉しそうに笑う彼女にこれ以上のことは聞けない。
「そういえばお名前聞いていませんでした。教えてもらってもよろしいですか?」
「あ、あぁ。そうだ…すまないまだ名前を言っていなかった…。」
とここで不意に俺の頭をあまりよろしくない考えがよぎる。
この世界は、お金がとても大切な役割を果たしている。俺がもといた世界よりも…だ。
サーシャさんは目が見えず、俺の金腕輪にも気がついていない。
ここであえて自分の本名を言わなかったら彼女は俺の正体に気がつくことなく、“お金持ち”とは違う“あまりお金を持っていない人”の話を生で聞くことができるのではないか、と。
そう思った俺は偽名を名乗ることにした。
「俺の名前はハル。ハル・カシモギ。よろしく、サーシャさん。」
「ハルさん。ふふ。なんだか“春”を思わせるとってもステキな名前ですね。」
「よろしくお願いします」と出された手に少し罪悪感を覚えつつ、握手する。
「ハルさんはお花が好きですか?よければ私のお話相手になってください。」と言われ、行くあてもなかった俺は「喜んで」と返事をさせていただいた。




