運動はするべきだなって……。
この少女を放っておけなくて咄嗟のことで荷物を運ぶと言ってしまったが、彼女もどうやらあまり話すのが得意でないみたいで、俺と彼女の間にはなんともいえない空気が漂っていた。
会話は無いまま少女が俺の前を軽やかに歩いていく。
先ほどの様子や彼女の手にかかっている杖からしておそらく彼女は目が見えていない。
にもかかわらず街中を歩く彼女の足取りには迷いがない。
まるでこの街は自分の家の庭だと言わんばかりに歩いていく。
慣れない街で地味に重い木箱を持ちながら彼女の後をついていくのは少し大変だった……。
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10分ほど歩くと、小さな花屋の前にたどり着いた。
「あ…の…。ここ…です。」
彼女はその花屋の前で振り返り、そういうとぎこちない感じで手を後ろに組みながら中へと入っていった。
俺も彼女を追って急いで中に入る。
中に入ると、そこには素敵な風景が広がっていた。
シリリアの街の路地にはたくさんの花があったが、それとは比べものにならないくらいいたるところに綺麗な花が咲き誇っていた。
「こっち…。ここ、荷物……。」
たどたどしく床のある一点を指差す彼女。
俺は花にぶつからないよう気をつけて歩きながらそこに向かい、箱を下ろす。
とりあえず何か一任務を終えた達成感がある…。
腰をそらせ身体を伸ばしているところを彼女に声をかけられた。
「ありがとうございます。」
帽子をとり、一音一音を丁寧に言いつつお礼を述べる彼女。
「いやいや。気にしないでくれ。君みたいな女の子が重い荷物を運んでいるのを無視するわけにはいけないからさ。」
我ながらどんな理論だよ…とは思うが、この世界の穏やかな感じが俺をそうさせたのかもしれない。
以前の俺なら少し考えにくいことだ。
「ふふ。お優しいんですね。どうぞ、あちらに腰かけて…。お茶でもいかがですか?」
少女の不意打ちの笑顔に心がはねた。
帽子を外した今なら顔が見える。やはり目は固く閉ざされている…。
断る理由もなかったのでありがたくお茶をいただくことにした。
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「紅茶に今日の朝開花したバラの花びらを浮かべてみました。どうですか?普通の紅茶に加えて甘い香りがするでしょう?」
彼女が出してくれたのはバラの花びらが浮かべてある紅茶とバタークッキーだった。
紅茶の味自体はマルと飲んだ時の方が上だった気がするが、バラの花びらと紅茶の匂いが混ざり合ってなんとも言えない甘美な匂いをだしていた。
「この店は君が一人で…?…あ、まず名前聞いてなかったね。教えてもらってもいい?」
「あっ…。ほんとですね。まだ名前喋っていませんでした。」
そういうと彼女は口に手を当てて上品に笑い、
「私の名前はサーシャ。サーシャ・ロネリー。この花屋、“ヴェネット”を一人でやってるの。」
「一人で!すごいね。驚いた。ご家族の方は?」
…と思わず聞いてしまい しまった… と思う。
目の見えない少女が一人で花屋を経営しているというのに親がいるのに側にいないだなんて考えにくい…、。
なにはどうあれ、何かプライベートな理由があるはずだ…。やってしまったなぁ…と心の中で冷や汗をかく。
「えっと…あっと…その、別にそんな言いたくないことだったら全然いいんですケド…」
俺フォロー下手だなぁ…。フォローというよりかはむしろもっと酷くなっているのでは…。
そんな俺のことをどう思ったのか彼女はクスクスと笑い、「いえいえ。お気になさらないでください」と言った。
「私は ヒト の出でして……。私ももう少しで両親の後を追いそうなんですよ。」
またもや出てきた ヒト という単語に思わず顔をしかめる。
あからさまな顔をしてしまったので彼女が見えてないことに少し安堵する。
「それってどういう……。」
彼女は ふっ と息を吐き出し、自嘲気味に呟く。
「お荷物なんですよ。私は。」
しかしその顔はこの世界に対する恨みなんてものではなく、何かを諦めたような、爽やかで儚げな笑顔を映し出していた。
タイトルそろそろなんとかしないと日々投げやりになってきててやばい。
やばい。




