まるちゃん…と聞いて真っ先に思い浮かぶのは日本人ならあのおかっぱの少女だと思うんだ。
まさか…と思うよりも若干早く「やはりな、」と思ってしまったことに少し自分で驚く。思ったより俺はこの世界に馴染んできているみたいだ。
考えてみれば分かる。
“人間の幸せのためにならなんでもする義務がある、お金で買える国の資産”。
この国にはそれがある。
合法的に(道徳的にもOKなんだろう)生きてるヒトから心臓を人間に移植することも可能だということだ。
しかし俺はやはり気になってしまう。人間のために…ヒト1人を殺めてしまったということ、決して妹が心臓の病気で死んでしまうなんてことはあってはいけないと思うがそれと同じくらい誰か1人を犠牲にして誰か1人を助けるなんてあってはならないのではないだろうか。
犠牲になった子は本当にそれで良かったのだろうか。
…一言、妹に「お前はそれでいいのか。お前が今生きているのはお前がヒト1人を殺めたからだ。」と聞いてみたい気もするがそれは憚られる…。
心臓を提供してくれるヒトがいなかったら妹は死んでいたし、ここで俺がとやかく言うということはここのルールに難癖つけるということだ。
自分が〈使われる側〉から一番離れた〈使う側〉にいることもあってか、完全に他人事だと自分の中で処理されている。
考えるとき、どこか一線を引いているのを感じる。
「…お兄ちゃん?」
「…あぁ、いや。マルガレッタが元気ならそれでいいよ、」
思考にふけっていた俺を妹は心配してくれたらしい。
咄嗟のことで彼女のことをなんて呼んでいいか分からず名前を呼んでしまったがこれで合っていたのだろうか…。
どうなんだろなぁ…と近くにあったクッキーに手を伸ばして、サクサクと食べながら彼女をしばらく見ていた。
すると、目を大きく開いて少し固まったのち、カップを置いて両手でテーブルを バンッ と叩いて立ち上がった。
「やっと呼んでくれたっ!!!!」
迫真の表情、いきなりの大きい声。
びっくりしてクッキーの粉が鼻から出そうになる。
おっと…これはどういうことだ…?と、とりあえず頷く俺。
「お兄ちゃん、いつも会ったらまず名前呼んでくれるのに今日呼んでくれなかったから……」
ちょっとテンション上がりすぎた…いきなり大声出してごめんね…とはにかみながら椅子に座る妹。
メイドが病み上がりなのだから大人しくするように…と言っているのに煩わしそうに返事をしている。
「えっとね、お兄ちゃん。」
「はい。」
「私のことは マル って呼んで、?」
少し寂しそうな顔で彼女はそう言った。
「マル」
「うん。」
俺がそう呼ぶと彼女はもう一度、嬉しそうに笑った。
俺は「あぁ…やってしまったな、」と思う。
俺はやはり彼女の兄であるけれど彼女の兄とは違うのだ。
そのことを改めて妹に突きつける形になってしまったことを悲しく思うと同時に妹の愛の深さを感じる。
俺はいよいよここにいることが居た堪れなくなってその後は当たり障りのない話をしつつテーブルの上のお菓子を堪能した。
とても美味しかったということは覚えているがイマイチ味を思い出せない。
紅茶が熱かったなぁ…ということだけははっきりと覚えている。




