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「内政干渉も甚だしい」――ミラ・ヴェラルツィ内務大臣は言った


 イリリア共和国中部の内陸都市ティラナは、軍の工廠が置かれ、それを中心に工業都市として発展していた。


 その交渉のうちの一つ、ティラナ技術研究工廠はプラン34に則って設立された兵器の開発・研究を担う研究機関である。国内外から技術者や研究者を募り、1934年の秋には業務を開始させていた。


 技研工廠は陸海空の三軍の装備を統一的に研究・開発する、イリリア軍初の統合組織だ。というのも、「三軍にそれぞれ作ってる金なんかねーやい!」というユリアナのあんまりな理由のせいだったが。


 艦艇・航空機・火器・車両・後方・電波・特務の7つの部署からなり、それぞれ国内外を問わずかき集めた技術者や科学者が、研究開発を続けている。


 そのうち車両部戦車・装甲車開発課と、火器部重火器課、そして航空機部発動機課の面々が、今日も難しい顔をして、研究所内の一室に集っていた。


 扉には『新型中戦車研究開発プロジェクトチーム本部』のプレートがかかっていたが、心なしかくすんで見えた。その奥からは何やら陰鬱なオーラが漂っており、前を通るその他の研究員たちはなるべくそちらを向かないように足早に駆け抜けて行く。


 目の周りに深い隈を作ったプロジェクトリーダーは、要員が全員そろったのを確認してから、ため息とともに口を開いた。


「じゃ、もう何度目かわかんなけど、陸軍新型中戦車についての会議を始めるわね」


 イリリア陸軍新型中戦車選定検討会議は、いよいよどん詰まりに差し掛かっていたにもかかわらず、『上からの要請』という絶対的理由によって、こうして無理やり開かれたのだった。


 車体設計担当の技師があきらめ気味に言う。


「正直言ってよー、もう独自開発は無理じゃねえの? なんべんも言ってるけど、『カラカルⅠ』みたいに外国から買って、ゆくゆくはライセンス生産すれば」


 カラカルⅠは昨年購入したウィッカース6トン戦車タイプBのイリリア軍正式配備型の名前だ。47ミリ戦車砲を搭載したイリリア軍の虎の子とも言うべき戦車である。


 しかし、あくまでこれは『軽戦車』という部類であり、戦車戦における主力として配備されたものではない。イリリア軍では機動防衛計画を遂行するべく、より高い攻撃力を持った新型中戦車の配備を模索していた。


 が、そんなもの早々転がっているものではない。ないなら独自開発しようぜ、なんていう話も出てきたが、戦車製造経験が皆無のイリリアでは夢のまた夢だった。


 そんなわけで諸外国からの購入という話も持ち上がっていたのだが、


「でもねぇ、中戦車売ってくれる国ってどこにあるのよ」


「エトルリアとか?」


「ダメダメ、あそこまともな戦車ねえし。あそこから部品買ってうちで設計組み立てするとかは?」


「じゃあ聞くけど、戦車の設計、したことある人~」


「「「「…………」」」」


「ごめんさっきの意見やっぱなしで」


「外国からスカウトしてくる? 設計技師」


「それだったらもう戦車買った方が早えよ。五年後……、年明けたから四年後までに全部終わらせなきゃいけねえんだぜ?」


「連合王国とかは? ヴィッカースMarkⅠ中戦車とか」


「無理無理。大和が売却断られたらしいし。うちに売ってくれるわけないじゃん」


「スペック的な理想はあれだよなー、人民連邦のBT快速戦車」


「「「「ああー」」」」


「でも人民連邦だしなぁ……。売ってはくれねえよなぁ」


「あ、でもさ! 今年中に国交樹立とか言ってたし、万が一……、やっぱないか」


 技術者はため息をつく。その時、1人の女性が会議室に飛び込んできた。


「おい! ブレンカさんから電話があった! 戦車技術者を確保したらしい!」


「はぁ!? どこで?」


「合衆国! アン・ウォルター・クリスティーっていう奴なんだけど」


「…………。ああ!!」


 技術者は声を上げる。


「クリスティーM1930の!?」


 先ほど自分たちが例示した人民連邦のBT戦車。この設計の大本となった戦車である。


 プロジェクトチームに、一筋の光が差し込んだ瞬間だった。


――――――――――――


 そのころ首都スコダルの大統領府では、ある一つの問題が持ち上がっていた。


「困ったなぁ……」


「困りましたね」


「困った……」


 大統領府会議室では、三人の大臣級人間とその他大勢のスタッフたちが顔を突き合わせて眉をひそめていた。


 一人は大統領のユリアナ。もう一人は首席補佐官のルカ、


「どうされますか? ミラ内相」


 内務大臣のミラ・ヴェラルツィであった。


 イリリアの警察・地方自治・消防・入出国管理といった内政全般にかかわる行政を所管する内務省の長が、大統領府にまでやって来て頭を悩まされているのは、先日エトルリアより非公式に送られてきた文書が原因だ。


「……イリリア全体主義戦線、FITを公共保安法の規制団体から外せなんて、内政干渉も甚だしい」


 ミラ内務大臣は、静かに怒りを表明した。


「いつか来るとは思ったけど、今来るかぁ」


 ユリアナも額を抑える。ルカも頷いて同調した。


「予想できた問題ではありますが……、しかしどう対処したものか」


 公共保安法は、暴力をもって公共の秩序を乱そうとする組織の結社・活動を規制する法律だ。暫定政権時代のユリアナが速攻で制定し、以後この国の治安維持に役立っている。


 そして『イリリア全体主義戦線』と言うのはその名の通り、全体主義を標榜する極右組織だ。他国の極右政治結社と同様に暴力での民主主義打倒を謀り、保安法によって解散命令が出されていた。FITは、イリリア語での略称である。


 それが今回、エトルリアから再結社を認めろという圧力がかかってきたのだ。


 エトルリアの支配政党が全体主義党であるため当然といえば当然だ。しかし、FITは以前よりエトルリア全体主義党との関わりが噂されており、彼女たちをみすみす解放することは、国内に大きな爆弾を抱え込むことと同義であった。


「FITの党首って今どうなってたっけ?」


 ユリアナが尋ねると、ミラは吐き捨てるように答える。


「……マリカ・ブシャチなら、刑務所に収監してる。ただエトルリアは、奴の釈放と、政治活動の自由を保障することも求めてきてる」


「逃げきれないか……」


「とにかく、内務省と中央警察総局にとってこの要求は受け入れがたい。FITの活動再開は治安上の重大な危機と捉える」


「他にも問題はあります」


 ルカもため息とともに言う。

 

「保安法が定める活動禁止団体……、つまり『暴力行為を用いて治安を乱すこと、または正当に選挙された政府を暴力で転覆させることを目的とした組織』の要件にFITが入らないとなれば、他のどの組織が該当するというのか……。保安法は事実上形骸化します。共産革命党や、北エピロス武装独立戦線といった他のテロ組織の活動制限と、法律上の整合性が取れなくなる可能性がありますよ」


「正直、ここまで持ち直したこの国の治安を、自らの手で乱すようなら……、私はこの職を辞す」


「おおう、落ち着いてミラちゃん。まだなんか方法はあるだろうからさ」


 ユリアナは思い詰めているミラをなだめつつ、エトルリアの要求の裏側について考えていた。


 おそらくエトルリアは、FITの活動を裏から操ることで、この国の内政に直接影響を及ぼそうとしているのだろう。活動再開要求はまだまだ序の口で、次に政権にFITの党員を入れろだのなんだのといった要求を突き付けてくるに違いない。


 前世においても、ナチスドイツがオーストリアに要求した手だ。オーストリアはそれ以前からもドイツからの併合圧力を受けていたが、38年には結局併合されている。


「私としては突っぱねたいけど……なぁ」


「経済協力を盾にされている状況……、拒否すれば資本引き上げなんてことにもなりかねません」


 ユリアナとルカは呻く。経済成長が軌道に乗っているこの時期に、エトルリアからの支援を失うことはイリリア経済にとって致命傷なのだから。


「だとしたら……、認めるしかないってことか」


 あきらめ気味のユリアナに対し、ミラは再び強く反発する。


「そんなことをすれば、奴らは侵略の先兵となって我が国に害をもたらす! 恫喝に屈してはいけない」


 頑として引かないミラに、ユリアナは若干辟易としながらも頷く。


「……わかった。じゃあ先方にはもうちょっと待ってもらおう。幸い非公式のお願いの域を出てないし。具体的圧力になるまでは余裕もあるでしょ」


「うちはいつもそうですね……」


 ルカも肩を落とした。


 ミラはもう一度、断固FITの活動容認を拒否すると念を押してから、内務省へと戻っていった。


「づ~が~れ~だ~」


 その瞬間、ユリアナは空気が抜けたように床に倒れ込んだ。


「あ、こら! 汚いですよ!」


「うわ~、も~い~んだよ~。どーせこの後何もないし~」


「だからって床で寝る人がありますか!」


 ルカはユリアナをソファに投げ込む。


「ふげっ!?」


「寝るならそこへ。ただスーツはすぐ脱いでくださいね。しわになります」


「うう~」


 ユリアナはそのまま転がる。


「うん、もうしばらくこの件忘れよう。楽しそうなこと考えよう、ねえルカ、合衆国に注文しといたコーラってもう来た?」


「予定では今朝の便でドゥラスに来ているはずなので、まもなく届くのでは?」


「いやぁ~やっぱあれがないと私ダメだわ~」


「あってもなくても結構ダメでは?」


「なんか言ったか?」


「いいえ」


 ルカはすました顔でネクタイを緩めた。


「自分も一度上がらせていただきます。……そうだ、ドゥラスで思い出しましたが」


 ユリアナが顔を上げると、ルカは何でもないことのように言った。


「ブレンカ委員長から、機動防衛計画に関していくつか確認を取りたいことがある、と。ただ委員長はこれからドゥラスに行かれるで、帰ってこられる明々後日以降、どこかでお会いしたいと言っていました」


「あー了解。適当なところで予定入れといて」


「わかりました」


 ルカは一度礼をして、執務室を出ていった。


「機動防衛計画……」


 ユリアナは、何度も聞いたその言葉がなぜか気になる。連合王国で学んだブレンカがぶち上げた、機甲部隊を中心としたこの時代では画期的な戦術……。


 たしかブレンカは、これを……。


「ま、いいか」


 眠気に襲われたユリアナは、これ以上考えることを放棄して、すっと瞼を閉じた。

 

閲覧、ブックマーク、評価、ご感想など本当にありがとうございます! 

ここにきての新キャラ、ミラ内相です! 実はだいぶ前に出てくる予定でそのお話もかき上げていましたが、ストーリーを大幅に変更したあおりを受けて今の今まで待機していた人です。現在進行中のフルバツカ問題編がひと段落したら、内政に関することも本格的に書いていきたいなーなどと考えています。その時にはミラさんが大活躍してくれることでしょう……。つまりもうしばらく出番がない可能性がでかいです。いや、せっかくだし、他のところでも、うん……。

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