506 探 偵 4
そういうわけで、第1回作戦会議は終了。
サビーネちゃんは、グチグチと文句を言いながらも、反論のネタがないからか王宮へと帰っていった。
さて、では準備に掛かりますか……。
まずは、安全策を最優先にして、隊長さんへの根回しからか……。
* *
「……というわけで、即時待機の当番を決めて、特定の部屋で待機させてもらいたいの。
常に銃を身に着けて、カードでもして時間を潰していてくれればいいからね。
説明の時間も準備する時間もなく、そのまま瞬間的に転移させる場合も考えられるから、そのつもりで、いつ身ひとつでいきなり転移しても即座に戦えるように、必要なものは常に身に着けておいてほしいの。
あ、睡眠とかお手洗いとかもあるだろうから、そういう交代分も含めて、待機室にいるいつでも即応できる人数が3名を切らないようにしてね。
それと、みんなを連れていくんじゃなくて、敵をここへ連れてくる、って場合もあるかもしれないから、その場合の対処もよろしくね!」
「……分かった。
何だかよく分からんが、俺達が求められている役割は理解した。
拘束時間が長そうだから、報酬は弾んでもらうぞ」
「分かってる。いつも武器を身に着けていて、いつ武器を構えた敵の真ん前に転移させられるか分からない時間がずっと続くとか、普通の者には耐えられないよね……」
まあ、それを耐えるのが、プロの傭兵というものなのだろうけどね。
でも、それは口にしない。
私がそれを分かっていて、そして隊長さんはそのことを察している。
ならば、言葉なんか不要だ。
「じゃ、みんなに概略を説明しておいてね。細かいことは後で私から説明するから。
お願いね!」
「あ、こら、待て! もう少し詳しく……」
転移!
* *
あれから、色々と準備した。
モールス符号の暗号帳とか、水に溶けるメモ用紙とか……、って、『スパイメモ』かっ!
いやいや、私が目指しているのは、スパイじゃない。
ストーカーを捕らえるための、『探偵』だ。
……探し、偵る者。
真実は、いつも今ひとつ!!
そういうわけで、バッテリー駆動の監視カメラ、赤外線センサー、潜望鏡……知育玩具として1000円くらいで売っている……、手錠、防犯スプレー、その他諸々を買った。
物産店に取り付ける固定カメラだけでなく、ショルダーバッグの肩紐に付ける小型カメラも買ったけど、これはスマホでリアルタイムで見るのは不自然だし前方不注意で事故の元だから、帰宅後に家で確認するしかないかな。
テーザー銃は、以前から持っている。低致死性のセミオートランチャー、FN303Mk2も用意済み。
さすがに、まだ実力行使に出ていない相手をいきなり拳銃で撃ち殺す、ってわけにはいかないだろう。ナイフを手にして近付いてきた、とかなら正当防衛でOKだろうけど……。
いや、こっちは貴族の女性なのだから、いくら相手が手ぶらでも、制止を無視して近付いてきたなら実弾で撃ってもOKか。
身分社会なんだから、当然かな。
でも、まあ、尾行されているだけとか、誰何されて逃げようとした相手とかに実弾をぶち込むのはほんの少しやりすぎかな、と思わないでもないから、安心して撃てる低致死性のものを用意したわけだ。
……まあ、『低致死性』というだけで、別に死なないとは言っていないけどね。
そしてこれらの装備を常に持ち歩くのは不可能なので、大半は日本邸に置いておいて、必要な時に瞬間往復転移で取ってくるのだ。
ちゃんと台の上に並べておくので、僅か数ミリ秒で取って来られる。相手には、私の姿が一瞬ちらついたようにしか見えないだろうから、何が起こったかは分からないだろう。
出掛ける時に常時身に着けておくのは、脇と腿のワルサー、ポケットの防犯スプレー、ショルダーバッグのテーザー銃くらいだ。……あと、ラジオペンチ。
いや、便利なんだよ、ラジオペンチ……。
……と、まあ、そういうわけで、準備は完了した。
準備だけは……。
まだ私は怪しい奴を一度も見ていないし、相手に心当たりもない。
これで何かの間違いだったら、購入した装備代、丸損だよ。
まあ、お隣の警備隊詰所の人達はプロだし信用できるし、安全のためならこれくらいの出費は惜しくないか。
よし、念の為、両腕にダブルデリンジャーを仕込んでおくか。
2連発の、超小型拳銃。隠匿携帯する銃の中でも特に小さく、袖の中に隠し持つ銃として、最適の銃だ。
それを前腕の内側に装着し、特殊な振り方で腕を動かすと軽金属製のアームによって押し出され、手の平にスッポリと収まるようにギミックを仕込んでおくのだ。
脇や腿に装着したワルサーPPSは、抜くのに少し時間が掛かるからね。危険度が大きい時には、これを装着しておくのだ。
今までに出番は1回しかなかったけれど、1回役に立ってくれただけで、手が動かしづらいのを我慢していた価値は充分にあるよね。
さあ、そろそろ趣味の釣りでも始めるか。
本命は、目的と黒幕を吐かせるための、見張り員。
餌は、私。
外道……本命以外の魚……が釣れるかもしれないけれど、まあ、仕方ないか。
たまたま別口の、ただのチンピラが釣れたとしても、それは向こうの運が悪かっただけだ。
リリースしてあげたりはしないよ。
おとり捜査みたいになっちゃうけど、『犯意誘発型』じゃなくて『機会提供型』だから、問題なし!
悪党共には、慈悲もなし。
悪党に人権はない!
向こうが私のことを調べて廻るなら、こっちも調べ返してやる。
私が誰か、知ってるか?
……山野光波、探偵さ!!
私は、探偵業には詳しいのだ。
幽霊探偵ホップカーク、名探偵ジョーンズ、ロックフォードの事件メモとかで勉強したからね!
* *
そういうわけで、ここでの私の拠点である物産店に防犯設備をてんこ盛りで設置した後、毎日夕方頃に王都内をぶらついている。
日中は色々と忙しいし、向こうも真っ昼間に大胆な行動には出ないだろうと思って……。
いや、結構忙しいんだよ、私!
商会関係とか、『ソサエティー』関係とか、社交関係とか、ボーゼス領の造船やスーパー銭湯、うちの領地開発、孤児支援、地球での『Gold coin』の様子見とか、色々と……。
今は、色々と準備中の酒造と石鹸作りの件で時間を取られているし……。
なので、こんなことで無駄な時間を使いたくはないんだよ。
そんな暇があるなら、コレットちゃんやサビーネちゃんと遊んでいた方が、ずっと有意義な時間の使い方だよね、うん。
この件は、さっさと片付けたい。
だから、今日も夕方の散歩に出掛けるのだ。
竿を振るために……。




